私とカペレ
文:青木三十郎さん

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 私とカペレとの出会いは、実はあまり幸福なものではありませんでした。最初にカペレを意識したそのCDは、困ったことにネヴィル・マリナーが指揮したラヴェルの「ボレロ」だったのです。もっともそのCDは日本フォノグラム社の国内盤でしたので、「ドレスデン・シュターツカペルレ」などと表記されていましたが。

 これはオムニバス盤で、アカデミー室内管弦楽団の「死の舞踏」「魔法使いの弟子」なんかが目当てで買ったのですが、ボレロも大好きな曲なのでどんな演奏かとワクワクして聴き始めると…どうもオーケストラの音が妙です。全体にくすんだ地味な響きで、音色もアクセントもまことに独特。これにはいきなり違和感を感じました。

 それまでに愛聴していたこの曲のディスクは、ショルティやバレンボイム指揮のシカゴ響、バーンスタイン指揮のニューヨーク・フィル、ハイティンクやシャイー指揮のコンセルトヘボウ管などでしたが、その中では比較的落ち着いた響きであるコンセルトヘボウでさえ、これに比べると輝かしい華麗なサウンドに聴こえるほど。こんなのはラヴェルにふさわしくない。 と片づけてしまい、もう一度聴くことのないまま、私とカペレの関係はいったん途切れてしまいました。

 次の出会いは1999年の暮れだったでしょうか、EMIの廉価ボックスシリーズで発売されたルドルフ・ケンペ指揮のリヒャルト・シュトラウス管弦楽曲&協奏曲集です。名盤ガイドの類で必ず出てくるあの録音が、CD9枚にぎっしり詰め込まれて5千円以下。あまりのお買い得感に、思わず購入しました。

 聴いてみますと、やっぱり地味な音です。ボレロの時のような違和感こそないものの、どうしてもシカゴやヘボウと比べてしまうので、その魅力がよくわからないまま一通り聴いた後、お蔵入り。宝の持ち腐れとはこのことです。

 そのお宝の価値にようやく気づいたのは約1年後、「英雄の生涯」を聴きたくなったときでした。ショルティはこの曲をなぜかウィーン・フィルと録音しました。シカゴ響の録音にはライナー盤とバレンボイム盤がありますが、前者は録音が古いせいか潤いに欠け、後者は途中でダレてしまって集中力が続かない。ハイティンク盤ももうひとつだし、さてどれを聴こうか…と考えたときにケンペ盤の存在を思い出して、なんとなくこれを選びました。その結果、最後までとてもおもしろく聴けたのです。なぜ今までこのよさがわからなかったのか?

 実はこのとき、いつもより音量を少し上げて聴いたのでした。すると意外にもダイナミズムにメリハリのあることやオーケストラの音色の素晴らしさなどがよくわかり、特にホルンの魅力的なことときたら、もう惚れぼれするほどでした。ティンパニも実にいい音で鳴っています。ここに至ってようやく、この録音が名演とされるゆえんが納得でき、シュターツカペレ・ドレスデンというオーケストラの魅力にも気づいたのでした。そういえばEMI録音の音響設計は大音量再生が前提にされていると、どこかで聞いたことがあります。

 2000年の秋に同シリーズで発売されたオイゲン・ヨッフム指揮のブルックナー交響曲全集も、もちろん購入しました。しかし同時に出たクレンペラーのベートーヴェン交響曲全集で初めて聴いたクレンペラー・ショックが大きく、ブルックナーが苦手なこともあってこちらはあまり聴き込めず、またもや持ち腐れ状態に。

 この頃から伊東さんの当An die Musikにいろいろとお世話になり始めたのですが、ヘボウ担当ということがなんとなくプレッシャーとなったみたいで、カペレに対する興味はもう一つ盛り上がらないまま、月日が流れてしまいました。

 そして本年。ヘルベルト・ブロムシュテット指揮によるベートーヴェン交響曲全集が、とんでもない激安盤となって発売されました。ベト全はもういろいろと持っていますが、これは買わずにはいられません。

 そして聴いてみると、ラヴェルでは違和感を覚えたあの音色が、ベートーヴェンにはピッタリです。演奏も説得力あるもので好感が持てますし、アコースティックな響きを重視した録音も極上。こんなに素晴らしい全集が1,400円とは、世の中まちがっている。とにかくすごいすごいとたちまち全曲聴き終えて、今度こそ完全にカペレの虜になりました。

 それからは、店頭に残っているドイツ・シャルプラッテンの1000円シリーズを集めながら、輸入盤屋ではベルリン・クラシックス盤を漁りつつ、中古盤屋ではEMIやフィリップス等の廃盤を探し回る、という幸福な?日々が続き、現在に至っております。

 ブロムシュテットのベートーヴェンの他に、今のところ特に気に入っている音盤は

  • モーツァルト/交響曲第35,36,38番(スウィトナー指揮)
  • モーツァルト/序曲集(フォンク指揮)
  • シューベルト/交響曲第9(8)番「ザ・グレイト」(テイト指揮)
  • ウィンナ・ワルツ・コンサート(ケンペ指揮)

等々です。まだまだカペレ初心者ですので、みなさんの教えを乞いつつ、カペレ道を探求していきたいと考えております。

 

■ 伊東より

 

 青木さんが耳にされたマリナー指揮の「ボレロ」ですが、私は以下のCDで所有しております。

CDジャケット

ラヴェル:ボレロ
グリンカ:ホタ・アラゴサーネ(スペイン序曲第1番)
チャイコフスキー:イタリア奇想曲作品45
シャブリエ:スペイン
マリナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1982年6月29日-7月1日、ドレスデン
PHILIPS(国内盤 32CD-127)

 実は、私はこの録音が嫌いではありません。聴いて感動したことはないのですが(^^ゞ、カペレらしい田舎臭さがちょっと見え隠れするので愛着を感じています。カペレファンの間でこの演奏がどのような評価を得ているか私もよく知らないのですが、このちょっと野暮ったいところが何ともいえない魅力です。シャブリエの「スペイン」もそうです。

 が、面白いことに、日本語解説を書いている志鳥栄八郎さんは「フランス音楽のエスプリや色彩感を見事に表出した演奏」と褒めちぎっています。必ずしもそうは聞こえないところにこのCDの面白さがあると私は思うのですが。

 

2002年9月3日、An die MusikクラシックCD試聴記