ファビオ・ルイジ指揮の「英雄の生涯」

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CDジャケット

R.シュトラウス
交響詩「英雄の生涯」作品40
「メタモルフォーゼン」
ファビオ・ルイジ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:2007年1月、ドレスデン、ルカ教会
SONY(輸入盤 88697084712)

 伴奏以外の新録音が少なかったシュターツカペレ・ドレスデンの新録音が登場しました。

 SONYからは先頃チェロのヤン・フォーグラーをソリストに迎えたR.シュトラウスの「ドン・キホーテ」(2003年録音)が発売されていましたが、これはルイジ指揮シュターツカペレ・ドレスデンの録音だとはいえ、あくまでもソリスト主体のCDであるとばかり思っていました。カップリングにはR.シュトラウスのチェロソナタが収録されたりしています。

 しかし、「英雄の生涯」が録音されるに及んで、シュターツカペレ・ドレスデンが2007年夏からシェフに就任するルイジのもとでR.シュトラウスの録音に着手していることが分かってきます。CDの解説書を見ても、「ルイジはSONY CLASSICALにR.シュトラウス・チクルス録音を開始」とあります。しかもケンペの業績を意識しているらしい。今まで新譜の寂しさを訴えてきたドレスデンファンはここに来て一挙に不満を解消できそうな勢いとなってきました。

 とはいえ、今回発売された「英雄の生涯」と「メタモルフォーゼン」のCDを手にした私はギョッとしました。SACD/CDのハイブリッド盤だったからでも、世界市場での発売ではなくドイツ市場向けであったからでもありません。「英雄の生涯」がどうやら初稿による発録音らしいからです。

 ご存知の通り、「英雄の生涯」は「英雄の引退と完成」をもって終結します。これは虚飾に満ちたこの大曲を、決してそれだけではないと思わせるに足る感動的な音楽です。最後にはトランペットが「ツァラトゥストラはかく語りき」を彷彿とさせる旋律を輝かしく響き渡らせ大団円を迎えるわけですね。

 しかし、ルイジが採用した初稿はそうなってはいないのです。トランペットは登場せず、バイオリン・ソロで静かに締めくくられます(バイオリン・ソロはカイ・フォーグラー)。解説書によると、R.シュトラウス自身が現在の通常版に満足していなかった模様で(本当か?)、最後の部分は英雄の「国葬」を表しているのだそうな。だからこそルイジはバイオリンソロで静かに終わる初稿を採用したのであると説明されています。

 高校生の頃からずっとこの曲に接してきましたが、このような指摘をしている文章を読んだのは恥ずかしながら初めてだったのでびっくりしました。さすがに初稿で聴くのは不慣れなため、最初はやはり通常版で「英雄の生涯」を聴きたいものだと思ったのですが、何度か聴いているうちに耳が慣れてしまいました。

 初稿を用いていることを除けば、演奏は爽快でゴテゴテしたところもなく、妙な偏りがない王道の演奏を楽しめます。こうしたところには指揮者の見識を感じます。私としてはこのCDが初稿を使ったためだけでキワモノ扱いされないことを願いたいです。

 なお、アンドレアス・ノイブロンナーを中心とする録音スタッフはルカ教会での収録にまだ慣れていないようですね。前回の「ドン・キホーテ」では「なぜSACDというフォーマットを使っているのにこんな貧しい音になったのか」と悲嘆に暮れたものです。今回はずっと音質が改善されていますが、シュターツカペレ・ドレスデンの響きは無国籍的になっています。現実的にかなり国際化したオーケストラではありますが、ここまで無国籍的ではないはず。次の録音を期待したいところです。私はシュターツカペレ・ドレスデンに献呈された「家庭交響曲」が録音されるのではないかと予想していますが、どうでしょうか。

 

2007年6月5日、An die MusikクラシックCD試聴記