ヨハン・シュトラウス
ワルツ「ウィーンの森の物語」
歌劇「こうもり」序曲
ヨーゼフ・シュトラウス
ワルツ「天体の音楽」
スッペ
序曲「ウィーンの朝・昼・晩」
レハール
ワルツ「金と銀」
ヨハン・シュトラウス
ポルカ「浮気心」
ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1972,73年 ルカ教会
BERLIN Classics(輸入盤 0090072BC)
宇野功芳氏が方々で褒めちぎっているCDなので、ご存知の方が多いCDだろう。私も大好きなCDだ。宇野功芳氏は、例えば、ご存知「名曲大全 管弦楽曲篇」(音楽之友社)ではこのようにべた褒めしている(p.134、レハールの項)。
純ドイツ風に堅実で真面目一途、にこりともしないようなケンペだが、なぜか「金と銀」が大好きで、ステレオになってからウィーンフィルでまずレコーディング、さらにドレスデン・シュターツカペレで再録音している。どちらも曲への思いのたけをすべて吐露したような名演で、一部オーケストレーションを変えているところさえあるが(そのセンスがまたすばらしいのだ)、録音、オーケストラの状態を含め、ドレスデン盤の方がより完成度が高い。シュトラウスのワルツよりも魅力的な「金と銀」だが、ケンペぐらい真正面からシンフォニックに取り組み、しかも絶品のニュアンスでロマンティックに歌わせ、燦めかせた演奏は、他に皆無といえよう。
これを読むと、「相変わらず大げさな表現をする人だな」と少し笑ってしまう(「他に皆無といえよう」は典型的な宇野語)。が、聴いてみると、全く宇野氏のいうとおりで、演奏のすばらしさに感嘆すること請け合いだ。宇野功芳氏、さすがである。ただ、これだけでは、このCDについて語ったことにはならないので、以下、私のコメントを書きたい。
ケンペは1910年にドレスデン郊外に生まれ、ピアノやバイオリンを学びつつ、ドレスデン国立管弦学校でオーボエを学んだ。18歳で卒業後、ドルトムント歌劇場の首席オーボエ奏者となり、その2ヶ月後!にはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の首席オーボエ奏者として迎えられる。指揮活動も早くからははじめ、35年に25歳でライプツィヒ歌劇場で指揮者としてデビュー。42年ケムニッツ歌劇場、48年ワイマール国立歌劇場の指揮者を経て、51年にはカペレの音楽監督になっている。カペレディスコグラフィーを見ると、49年12月22日、「魔笛」「ばらの騎士」「ドン・パスクワーレ」「ボリス・ゴドゥノフ」「タンホイザー」のアリア等を皮切りにカペレとぼつぼつと録音を開始し、死去する76年までに数多くの録音を行っている。そのケンペにとって、カペレは自分の音楽のふるさとであり、そのよりどころであったに違いない。それだけにカペレにとっても最も演奏のしやすい、気心の知れた指揮者だったと想像される。
解説書には1972年末の大晦日のコンサート(ジルヴェスター・コンサート)はこのケンペが指揮台に立ち、好評を博したとある。この録音は72年の12月と73年の1月に行われているから、当日はこのCDに収められている曲が演奏されたのだろう。その解説には面白い記述がある。筆者がカペレのことを「”his”
orchestra」(原文ママ)と書いているのだ。このような表記が行われるオケはメンゲルベルク時代のアムステルダム・コンセルトヘボウ管など、いくつか挙げられるが、メンゲルベルクのような独裁体制をケンペが取ったとは全く考えられない。両者のつきあいを考えると、まず間違いなく、”his”という言葉は指揮者とオケの親近感があったればこそ使われたものだと思う。
その親近感は演奏にはっきり表れている。ごく近しい仲間達が楽しんで音楽を奏でているとしか思えない心温まる演奏ぶりだ。ケンペといい、カペレといい、ワルツにはあまり縁のなさそうなのに、文句無しのワルツだと思う。第1曲「ウィーンの森の物語」から最後の「金と銀」まで、暖かく豊かな音響と、みずみずしい音色、ほのぼのとした情緒、ゆっくりと踊り出したくなるようなリズム感が味わえる。私も宇野功芳氏のように感嘆し、ワクワクする。どこから聴いても名演奏ばかりだ。何といってもうっとりするほど暖かさを感じさせる独特の音色がすばらしい。ギラギラした音色を持つオケではとてもこのような音色でワルツを聴かせることはできまい。シュターツカペレ・ドレスデンは、独特の音色があり、ある意味では地方性豊かなオケではあるが、このようなすばらしいワルツを演奏できたのだ。旧東ドイツのオケだからといって、妙な先入観を持ってはいけない。カペレの類い希な表現力と、指揮者の演出が高い次元で結びついた幸福な録音だと思う。録音も極上で、カペレの美しい響きを堪能できる。木管群、特にオーボエの音色に聴き惚れる人が後を絶たないだろう。
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