交響曲第1番 ニ長調 Hob.T-1

「ハイドンの交響曲を全部聴こう」(略称「ハイドン・マラソン」)

文: 雲野 月さん

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■ 楽曲について

 

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■ 録音データ

 
  録音年月

第1楽章

第2楽章 第3楽章
ドラティ盤 1972年6月

4:57

5:40 2:00

フィッシャー盤

1990年6月 5:07 6:03 2:09
エルムラー盤

1987、88年

4:57 5:36 2:04
 

■ 演奏について

CDジャケット
フィッシャー盤
(1-5番)

交響曲 A 変ロ長調 Hob.I-107
交響曲 B 変ロ長調 Hob.I-108
交響曲第1番 ニ長調 Hob.I-1
交響曲第2番 ハ長調 Hob.I-2
交響曲第3番 ト長調 Hob.I-3

M.エルムラー指揮ソ連ボリショイ劇場室内アンサンブル
録音:1987年、1988年
MELODIYA RECORDS(USSR輸入盤 SUCD 10-00039)

 この演奏者に関して、私は何も詳しい事を知りません。旧ソ連のメロディア盤の解説はロシア語ですが、僅かに付された数行の英文によると、1932年にレニングラードに生まれ、レニングラード音楽院で歌劇と交響曲の指揮を学んだそうです。そしてこのCDは「ハイドンの交響曲の全曲シリーズの最初の1枚」だと書かれていますが、続きが発売されている様には見えません。恐らくソ連崩壊の影響で企画が止まってしまっているのではないでしょうか。

交響曲第1番ニ長調

 ハイドン初期の曲の演奏は、どれも大体「シャキッとした軽快な演奏」が多いのですが、このエルムラー盤の最大の特徴は、第2楽章に於けるロマン派的な柔らかい音の響かせ方です。

 「あれ? 第2楽章はAdagioだったっけ?」と思わず楽譜を再確認してしまう程の遅いテンポで、スタッカートなんか全く無視して、テヌートで弦楽器をたっぷりと鳴らして旋律を歌わせていきます。(第2楽章の演奏時間は後半部の繰り返しをせずに5'36"。フィッシャー盤は同じ後半1回目終了時で約4'03"ですから、いかにゆっくりしたテンポかが解ります)。 第2VnやVaの内声パートの進行まで、悠々と聴かせたこの演奏は、本来の意味での緩徐楽章ではないこの楽章を、とても美しく聴かせてくれます。それでいて重い演奏にはなってないのがとても好感が持てます。

 こういうアプローチは、アカデミックな立場からすれば「間違った解釈」なのかも知れませんが、ともすれば「明るく軽快にチャカチャカしただけ」な印象しか残らないこの曲を、とても充実した曲として聴かせてくれています。前後の速い楽章は軽快な演奏ですので、その対比も計算されているのだと思います。勿論、バス声部にはファゴットやチェンバロも加わっており、重苦しい響きになる事はありません。ちなみに他の4曲も、第2楽章(Bは第3楽章)はいずれも同様にゆっくり朗々と歌わせています。

 このエルムラーの演奏は、大同小異な印象の他の演奏とは明らかに異なっていて興味深く、全集を目指していた筈なので、ホルンの高域が美しい第5番や第6〜8番の「朝昼晩」、様々な実験作品が目白押しな20番台各曲等を聴いてみたいと思うのですが、1枚きりで中断してしまっているのが残念です。

 尚、オーケストラが「劇場室内アンサンブル」と言う名前なので、最小編成のタイトな響きを想像させますが、実際には普通の室内オーケストラ並みの編成らしく、録音会場の豊かな音響も手伝ってか、厚みのある響きを聴かせてくれています。

 この盤は1990年発売のソ連輸入盤ですが、2〜3年前に再発盤をHMVのサイトで見掛けましたので、現在でも手に入るかも知れません。

 

(2008年3月1日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記)