クレンペラーのショパン

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CDジャケット

ショパン
ピアノ協奏曲第1番ホ短調 作品11
ピアノ演奏:クラウディオ・アラウ
クレンペラー指揮ケルン放送響
録音:1954年10月25日
Music & Arts (輸入盤 CD-625)

 1954年10月25日のライブ。

 「クレンペラーのショパン」などと書くと、「あのクレンペラーがショパンのワルツでも弾いているのか」と勘違いしそうなので、誤解のないように。でもそんなCDがあったらさぞかし笑えるだろうなあ。

 それはともかく、このCDの演奏は面白い。ショパンのピアノ協奏曲はオーケストレーションに問題があるとかないとか議論があるようだが、そんな議論などどこ吹く風だ。クレンペラーはここでは威風堂々の指揮ぶりだ。貫禄は十分、重厚さに満ち、序奏部分からして一大スペクタクルが開始されるような雰囲気だ。ピアノが入ってきてからもクレンペラーの手綱が緩むことなく、最後まで実に立派な演奏を繰り広げている。オケはおそらく当時の一流とは言い難かったのだろうが、なかなかいい音を聴かせてくれる。

 それにも増してアラウのピアノはすさまじい。ピアニストとしてアラウは飽きるほどショパンのピアノ協奏曲を演奏しているはずだが、音楽の生々しさ、生命力が並はずれている。大家と呼ばれる人は全く尋常ではない。クレンペラーの指揮する序奏に触発されたのか、アラウのピアノも威風堂々と始まる。その王者の気風が感じられるピアノにはさすがのクレンペラーも「これは...」と思っただろう。アラウのピアノには特別な貫禄がある。クレンペラーだって一目置かざるを得ないだろう。そうなると、協奏曲というジャンルは面白さ百倍だ。クレンペラーとアラウが丁々発止の掛け合いを演じ、お互い一歩も譲らない大家同士がぶつかり合う。もちろん、このショパン若書きの協奏曲は、スケール雄大な協奏曲に早変わりだ。アラウが渾身のピアノを聴かせれば、クレンペラーがそれに負けじと堂々とした伴奏をつける。そうなると今度はまたアラウが最高の手練手管を使って見事な演奏を聴かせる。

 問題はこの演奏がショパン風というより、余りにもドイツ的重厚さに覆われてしまったことだろう。第1楽章など、まるでベートーヴェン並みの激しさである。ちょっとやり過ぎと思う人もいるかもしれない。それは好みの問題だと思うが、なよなよとした演奏とは一線を画しており、私は大いに評価したい。

 なお、音質はモノラルながら、非常に聴きやすい。ノイズも少ないし、ケルン放送局が丁寧にマイクの設定をし、上手にテープを保管していたのだろう。

 また、このCDにはカンテルリ指揮のリスト作曲ピアノ協奏曲第2番が収録されている(ライブ・録音:1953年)。もちろんピアノはアラウで、優れた演奏を聴かせている。面白いのはオケの表記で「Philharmonic Symphony Orchestra」となっている。これはニューヨークフィルの旧名称とのこと。

 

An die MusikクラシックCD試聴記、1999年掲載