クレンペラー番外編
クレンペラー:メリー・ワルツ
V.ウィリアムズ:タリスの主題による幻想曲
ラヴェル:スペイン狂詩曲
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98
ストコフスキー指揮ニュー・フィルハーモニア管
録音:1974年5月4日
BBC RADIO CLASSICS(輸入盤 BBCRD 9107)このCDは、ストコフスキー告別コンサートのライブ録音として名高い。ただし、本人も聴衆もこれが最後のコンサートになるとは予想してなかったらしい。
ストコフスキーは当時92歳という高齢であったが、この演奏を聴く限り、年齢による衰えは全く感じられない。ブラームスなど、テンポだけを見れば颯爽としている。また、選曲も長年にわたってスペクタキュラスな音楽を紹介し続けた割には驚くほどノーマルである。これがストコフスキーのプログラムかと疑う人もいるかもしれない。選曲で最も変わっているのはクレンペラーの「メリー・ワルツ」を取り上げたことだろう。クレンペラーはこの演奏会の前年に死んでいる。ストコフスキーはクレンペラーが君臨したニュー・フィルハーモニア管を振って告別演奏会をしたわけだが、わざわざこの曲を選んだところを見ると、巨匠同士、何か胸に去来するものがあったのかもしれない。
ところで、クレンペラーの「メリー・ワルツ」は自作自演もあるが、ストコフスキーは何と最初のワルツの部分だけしか演奏していない。原曲は8分ほどもあり、ワルツの後に「ワン・ステップ」が続く。私は「メリー・ワルツ」はどことなく世紀末的なムードを漂わせた佳曲だと思うが、ストコフスキーは冗長と判断したのか、全く理由は分からないが後半5分ほどの「ワン・ステップ」の部分をカットしている。最後の最後まで大胆なことをする人だ。クレンペラーも地獄の底で地団駄踏んだに違いない。
なお、この後の曲目の演奏も実にすばらしいので簡単に紹介したい。
タリスの主題による幻想曲:静謐の世界の中で奏でられる至上の音楽。不思議なほどの静けさが感じられる。老巨匠の深い精神世界を垣間見る、深遠な演奏である。深い感動を誘う。
スペイン狂詩曲:めくるめくような色彩感に溢れた演奏だ。むせ返るようなスペインの情景が目に浮かぶ。
ブラームスの交響曲第4番:これは大変な名演だ。おそらく聴衆は感動の渦に巻き込まれ、感涙にむせんだであろう。巨匠の風格とかいう以前に知らず知らずのうちに感動してしまう。第1楽章から何となく切なくなってきて、胸が締めつけられるようだ。ストコフスキーの意外な一面を見るようだ。第1楽章が終わったところで拍手があるが、私も会場にいたら拍手をしてしまったに違いない。もちろん全曲終了後には熱狂的な拍手がある。叫び声に近い声も聞かれる。それはそうだ。こんな感動的な演奏を聴いてしまったら、涙をぼろぼろ流してしまい何も言えなくなるか、興奮のあまり平常心を失ってしまうかだ。
このCDは、録音もライブながら自然なバランスで聴きやすい。見つけたらすぐに買うことをお勧めする。
An die MusikクラシックCD試聴記、1999年掲載