R.シュトラウス
交響詩「ドン・ファン」作品20
歌劇「サロメ」から「7つのベールの踊り」作品24
交響詩「ティル・オイゲンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28
録音:1960年3月
交響詩「死と変容」作品24
録音:1961年10-11月
クレンペラー指揮フィルハーモニア管
EMI(輸入盤 5 66823 2)
クレンペラーが残したR.シュトラウスの録音はどれも大変優れているので、「ツァラトゥストラはかく語りき」や「英雄の生涯」が聴けないのは本当に残念である。もし、その2曲が録音されていれば、現在の夥しい名曲・名盤の中で極めて大きな位置を占めるに至ったであろう。
CDの解説によれば、クレンペラーはR.シュトラウスに対して愛憎半ばする複雑な気持ちを抱いていたらしい。作曲家として敬意を払いながらも、ナチスに尻尾を振るR.シュトラウスには我慢がならなかったようだ。1933年にドイツを追われ、アメリカに脱出すると、R.シュトラウスの音楽をボイコットする運動を始める。しかし、長く歌劇場指揮者として生きてきたクレンペラーもアメリカではシンフォニー・コンサートを数多く指揮しなければならず、たちまちレパートリーの不足に窮したようだ。結果的にはボイコット運動も下火になり、R.シュトラウスの演奏を再開している。
そうしたクレンペラーが残したR.シュトラウスは、歴史的なしがらみを超越した記念碑的な名演奏ばかりである。どれも必聴。
ドン・ファン:冒頭からクレンペラーの激しい気迫に圧倒される。オケはき豪快ではあるが贅肉のない筋肉質の音を響かせている。よもやこれほど激しく躍動的な演奏が75歳の老人の指揮になるものとはとても考えられないだろう。ベートーヴェンを指揮しているクレンペラーとは違った別の一面を見る。
死と変容:クレンペラーが残したR.シュトラウスの中では「メタモルフォーゼン」と並ぶ大傑作。というより、「死と変容」「メタモルフォーゼン」は巷に溢れるR.シュトラウスの録音の中でも傑出したものである。この「死と変容」は、クレンペラーのこの曲に対する愛情、共感がはっきりと感じられる演奏で、聴き手は熱く燃え上がる演奏に胸が熱くならざるを得ないだろう。極端に言えば、ここではクレンペラーは音楽に対して献身的に奉仕しているようでもある。繊細な弱音と豪快な強奏が両立しているのはもちろん、強奏においてもただの馬鹿騒ぎにならないところなど、入念なリハーサルがしのばれる。が、音楽の激しい燃焼を目の当たりにすると、とても平常心で演奏されたとは思えない。平常心を維持し、なおかつ感情移入もなくこのような完全燃焼の演奏ができるのであろうか?全く疑問である。この1曲を聴くためにだけこのCDを購入しても決して損はしないだろう。
「サロメ」から「7つのベールの踊り」:暗い怨念が漂ってきそうだ。聴いていると陰鬱な気分になる(褒め言葉であるので誤解なきように)。またオケの高度な演奏技術を再認識させられる演奏でもある。
「ティル・オイゲンシュピーゲルの愉快ないたずら」:録音ともどもすばらしい。当時のフィルハーモニア管がどれほど腕達者であったかを知るためにも格好の録音である。フィルハーモニア管はこの難曲を演奏して危なげないどころか、余裕さえ感じられる。どの楽器の音も艶やかで、高度な「表現」の領域で遊んでいる気配もある。
「ティル」は、クレンペラーの十八番でもあった曲だが、やはりうまい語り口である。聴いていて情景の変化がはっきり楽しめるのはもちろん、指揮が豪快極まりない。こんな激しいいたずらをする「ティル」は珍しい。しかしそれがたまらない魅力でもある。長い演奏経験が培ってきた巨匠熟達の演奏だ。 |