クーベリックのブラームス
ブラームス
ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15
ピアノ演奏:クラウディオ・アラウ
録音:1964年
アルト・ラプソディー作品53
アルト:グレース・ホフマン
バイエルン放送響
録音:1962年 ORFEOピアノ協奏曲第1番:極めつけの一発ライブ。ライブにおけるクーベリックの燃焼ぶりと、ピアノの大家アラウの見事な演奏が聴ける。
そもそもこの協奏曲を演奏する際には演奏者全員が異常なテンションに包まれる。よほどのことがない限りダラダラと始まることはない。よほど凡庸な指揮者、ソリスト、オケであっても「一発やったろうかい!」と思わずにはいられない曲なのである。
しかし、そうと分かっていてもクーベリックとアラウのテンションの高まりは尋常ではない。出だしから手に汗握る演奏である。今までいろいろな録音を聴いてきたが、このライブは他の演奏を霞ませてしまうほどの激しさだ。オケもピアノもガンガン弾きまくっている。もちろん、激しいといっても、アンサンブルに乱れがあるわけではなく、完全に揃っているところがこれまたすごいのである。
古い録音にもかかわらず、非常に鮮明なステレオ録音であったことも嬉しい。ピアノがややオンであるため、アラウの、ある時は重厚で力強い、またある時はきらめくようなタッチがとことん堪能できる。よくぞこんな録音を正規盤でリリースしてくれたものだ。
演奏は第1、第3楽章がものすごい迫力だ。気迫と熱気に溢れている。聴き手はあまりのテンションの高さに圧倒されるだろう。クーベリックも渾身のタクトを振るっている。バイエルン放送響のメンバーが火と燃えている。これではアラウも燃えてしまうに決まっている。結果的に巨匠同士が全身全霊を賭けて演奏しているのだ。オケとソロが全く互角でお互い一歩も引かない。協奏曲というものはこうでなくては。
しかし、そんな激しい演奏だけを聴いて喜んでいるわけにはいかない。実は第2楽章Adagioが両端楽章にもましてすばらしい。第1楽章とはうって変わって静寂が支配するこの楽章ではオケもピアノも非常に美しい弱音を聴かせる。緊張感が漂うその弱音は天国的に美しく、ブラームスの情熱を雄弁に物語っている。全くこのAdagioは意外な聴きもので、両端楽章の華々しさがない代わりに、張りつめた空気の中で音楽が高揚し、美しく昇華されていく様がありありと分かる。ごくごく控えめに現れるオケの音色の何という美しさであることか。
このCDには充実した解説が付いており、アラウがこの協奏曲の「テンポ」について解説した文章も引用されている。そこでアラウは「速ければ情熱的というわけではない。ゆっくり演奏すべき曲で速く演奏するのは逆効果である。緊張感が失われてしまうのだ。この協奏曲の解釈に二通りあるとは思えない。通常、ブラームスのピアノ協奏曲第1番の特に第1楽章Maestosoのテンポは速すぎる。そこはアレグロではなく、マエストーソ(威厳をもって)である。これを速く演奏すればマエストーソではなくなるではないか。」という意味のことを述べている。さすがアラウ。その通りだ。実際ここで聴くクーベリックのテンポ、アラウのテンポは実に堂々としていて、決して先を急がない。
アルト・ラプソディー:ピアノ協奏曲の50分に及ぶ緊張の後でこのアルト・ラプソディーを聴くのはしんどい。できれば先に聴くか、全く別な時に聴かないと、真価を見誤ってしまう。独立して聴いてみると、実によい演奏だ。クーベリックはほとんど伴奏指揮者に徹し、アルトを引き立てている。ソロのグレース・ホフマンという人は深さと広さをともに感じさせる美しい声でしみじみとこの曲を歌い上げている。
An die MusikクラシックCD試聴記