「名盤の探求」

例1’ ボックスセット

文:青木三十郎さん

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CDジャケット

[ケース1]
チャイコフスキー:交響曲全集・管弦楽曲集
ベルナルト・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1961年〜1979年
フィリップス(輸入盤:442 061-2 =1994発売)

CDジャケット

[ケース2]
エルガー:交響曲・管弦楽曲集
ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)、ジャネット・ベイカー(コントラルト)
ジョン・バルビローリ指揮フィルハーモニア管弦楽団、ハレ管弦楽団、ロンドン交響楽団、シンフォニア・オブ・ロンドン
録音:1962年〜1966年
EMI(輸入盤:3 67918 2 =2006発売)

 ボックスセットなんかも〔選曲〕の一種ですが、たとえコンピレーション盤であっても筋の通ったコンセプトでうまく企画されていれば、名盤と呼ぶにふさわしいものとなりえます。たとえばハイティンクの「6大交響曲全集」シリーズで出たチャイコフスキー集。交響曲と管弦楽曲の既存音源をただ寄せ集めただけではなく、それをほぼ完全に作品番号順で配列してあるのがまず驚き。第5番が二枚のCDに分割されることもなく(←そういうチャイ全は多い)、「マンフレッド」を入れ忘れることもなく(←同じく)、演奏や録音の質もきわめて高いレベルで揃っています。これ以上の全集はなかなか望み得ないんじゃないでしょうか。

 さらにこれが出た当時は、そのパッケージの薄さに衝撃をおぼえました。同じシリーズのマーラー交響曲全集(←これは「大地の歌」を入れ忘れている点がイマイチ)に至っては、横長立方体の他全集にくらべて中身ギッシリ密度ズッシリのコンパクト感に、もうそれだけで「欲しい!」と思ってしまったほど。

 もう一例のバルビローリのエルガー集は、個別に集めようにも既存音源の元体裁や現役盤がどうなっているのかよくわからず、こうやってステレオ録音が一箱にすっきり集成されたこと自体に、たいへん価値があると思います。演奏内容のすばらしさはいまさらワタシごときが喋喋するまでもないですし、音質も「エニグマ」をart盤と聴きくらべた限りでは改善されており、名ボックスといえましょう。抜けている録音もあるのを「知らぬが仏」なのかも知れないけど。

 これはエルガー生誕150周年に発売されたもので、同時にビーチャム指揮の声楽曲集も出ましたが、ビーチャム版の交響曲・管弦楽曲集は東芝EMI社が「英国祭UK98」公式参加作品として1998年にボックス化しています。名演が集成された好セットとして、これも印象的なものでした。

 こういうものと較べると、たとえばEMIのエルガー録音を何十枚も詰め込んだ格安ボックスの類はいただけません。この手の作曲家または演奏家別の「全録音を集成!」みたいな企画、最近やたらと多いようで。すべてを所有できる満足感と一枚あたりの単価の安さにつられて買ってはみたものの、結局は何枚か聴いただけでお蔵入り・・・というパターンにおちいりがち。手抜き装丁に不十分なクレジット、場合によってはマスタリング等の音質面までイマイチ、愛着を持てる「一生もの」の仕様とはお世辞にもいえず、ワタシにとっては「安物買いの銭失い」でしかありません。こんな投げ売りみたいなことをしているレコード会社は、先人が遺してくれた貴重な財産をどう認識してるんでしょうかね。

 

2009年6月1日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記