今回のテーマを象徴するようなこの文章は、名著『12インチのギャラリー』(沼辺信一編著,美術出版社,1993)から抜き書きました。この一文に続いて「最も美しく装われ企画として最も優れたもの」として挙げられているのが、この『ディアギレフを讃えて』。といってもその三枚組の形態ではCD化されておらず、LPセットも入手しておりませぬゆえ、その本の記述をもとに内容を紹介しますと、
- 不世出の興行師セルゲイ・ディアギレフの没後25年を記念して制作
- 収録曲はディアギレフが主宰したロシア・バレエ団の主要レパートリーから選曲
- 外箱の装画はナターリア・ゴンチャローヴァの描きおろし
- 全36頁の解説書にはディアギレフゆかりの舞台写真やデザイン画がちりばめられている
- マルケヴィチ自身の文章、ディアギレフの秘書兼協力者の回想、研究家の楽曲解説などを掲載
といったもので、まさしく贅を凝らした逸品と申せましょう。実物を見てないけど。企画発案者は当時のEMI社長夫人のドール・ソリアという人だそうで、RCAの「ソリア・シリーズ」の人らしいです。カラヤン指揮のビゼー「カルメン」がその豪華仕様でCD化されたのは記憶に新しいところ。この『ディアギレフを讃えて』も、ぜひそのような復刻を願いたいものです。
実はテスタメントから「ディアギレフを讃えて」と銘うたれたCDが出ておるのですが、この装丁をまるで再現してないし、曲も上記(2)(3)(4)(6)(7)(8)しか入っていないうえ関係ない「魔法使いの弟子」などが追加されているという、ワケのわからないもの。他の曲のうち(1)(5)(10)はテスタメントの別のCD二種、(9)(11)はEMIの二枚組”STRAVINSKY-PROKOFIEV”という、それぞれマルケヴィチ指揮のオムニバス盤に収録。つまりいちおう全曲CD化されているとはいえ、こうもバラバラでは制作者たちの意図もなにもあったもんじゃない。そんなことにこだわらなければ、異様にシャープで鮮烈な演奏そのものは楽しめるんですけど。
あと、マルケヴィチは1972年に第二弾「モンテ・カルロでのディアギレフ」という二枚組をモンテカルロ歌劇場管と録音しているそうです。収録曲はプーランク「牡鹿」、ソーゲ「牝猫」、ミヨー「青列車」、サティ(ミヨー編)「びっくり箱(ジャック・イン・ザ・ボックス)」、オーリック「うるさ方」。このディスクについては『LPジャケット美術館』(高橋敏郎著,新潮社,2007)でも採りあげられていて、『12インチのギャラリー』とは別のローランサンによるジャケットが掲載されています。音源自体は、SCRIBENDUMから出ている廉価三枚組CD”The
Concert Hall Recordings”に全曲入っているものの、体裁はもちろん再現されておりません。
ところで「ソリア・シリーズ」仕様でCD復刻されたカラヤン指揮の「カルメン」ですが、輸入盤なら当時2000円前後で買えた同じ音源がパッケージ(とSACD化)の差だけで金壱万円也。こういう商品が成立するというところに、「名盤の条件とはなにか」という命題に対する回答の一端があると思います。マルケヴィチでは勝負にもならぬ「カラヤン・ブランド」の力も大きいとは思いますけど。
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