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スッペ『序曲&行進曲集』
- 喜歌劇『軽騎兵』序曲
- 喜歌劇『ボッカチオ』序曲
- ボッカチオ行進曲
- 喜歌劇『スペードの女王』序曲
- 愉快な変奏曲
- 喜歌劇『詩人と農夫』序曲
- 喜歌劇『ファティニッツァ』のモチーフによる行進曲
- 喜歌劇『モデル』序曲
- 演奏会用行進曲『丘を上り、谷を下って(いたるところに)』
- 喜歌劇『イサベラ』序曲
- 喜歌劇『美しきガラテア』序曲
- 行進曲『フアニータ』
- 喜歌劇『ウィーンの朝・昼・晩』序曲
ネーメ・ヤルヴィ指揮
ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団 録音:
2012年4月17‐18日、スコットランド・グラスゴー CHANDOS(輸入盤
CHSA5110) SACD Hybrid
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■ スッペの序曲集は実は数多く残されている
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ネーメ・ヤルヴィとロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団によるフランツ・フォン・スッペの序曲と行進曲を今回取り上げたい。現クロアチアのスプリト(当時はオーストリア帝国内)で1819年に生まれたスッペは、オーストリアの首都ウィーンに於いて、19世紀にオペレッタを大流行させた作曲家の1人であり、その作風から「ウィーンのオッフェンバック」とも称されていたようだ。また、スッペはイタリアの血筋も引いており、作曲家ドニゼッティとは縁戚関係にある。
スッペの楽曲は、たいへん華やかで劇的な要素が必ず楽曲内に含まれており、そんな管弦楽の響きを上手く生かしたスッペの「序曲」と「行進曲」は、実はかなり多くの過去の録音が残されている。ショルティ(モノラルとステレオの2種類)、ポール・パレー、バーンスタイン、スウィトナー、マリナー、カラヤン、デュトワ、メータらによる絢爛豪華な序曲集は、今なお現役盤であるディスクも多い。しかし、これらの過去の名演はほぼ全て序曲集であり、『軽騎兵』と『詩人と農夫』の2曲が含まれていることを除けば、6曲前後の序曲をチョイスしてディスク化しているものばかりなのである。
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■ ネーメ・ヤルヴィの新盤のコンセプト
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ネーメ・ヤルヴィの今回の録音は、『軽騎兵』『詩人と農夫』をはじめ、あまり聴く機会のない序曲に留まらず、間に行進曲を適宜挟んで、実に考えられた上に作られたディスクのようで、本当に見事な出来栄えであり、ウィーンの往時の華やかなオペレッタの雰囲気を聴き手に偲ばせてくれる、そんな優れたディスクであると言えるだろう。
ヤルヴィの選んだ8曲の序曲は、他の5つの行進曲を挟むことで、より効果的な優れた音楽としてディスク全体の存在感を増している。実は、かつてマルコ・ポーロから出た6枚組セットのスッペ序曲集で、ネーメ・ヤルヴィの録音した13曲全てが入手可能であり、コアな聴き手であれば決して初めて聴く曲ではないのだが、ネーメ・ヤルヴィ指揮によるこのディスクは、明らかにマルコ・ポーロ盤を上回る精度で、これらの楽曲を指揮しているため、たいへん新鮮な雰囲気も感じさせてくれるディスクとなっている。
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■ 楽曲ごとの寸評
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最も有名な軽騎兵序曲から始まる。多くの人にとって、懐かしさが溢れる曲であると思われるが、やはり良い曲だと改めて納得させてくれる。ネーメ・ヤルヴィの指揮は実に爽快で切れ味の良い演奏であるが、演奏時間から見る限りでは、そんなに速い演奏ではない。
ボッカチオの序曲と行進曲がこれに続く。落ち着いた序奏からいきなり快活な本題に入るスッペらしい明るい楽曲だが、ヤルヴィはさらに輝かしい響きで聴き手を圧倒してくれる。続けて収録された行進曲は、若干ウィーン風とは異なる異国風の雰囲気が全編に漂い、まさにヤルヴィの表現力の賜物であると感心させられる。
スペードの女王序曲は、牧歌的な冒頭の部分が過ぎると、いきなり快活な本題に突入する。ヤルヴィは、その振り分けがとても見事であると言えるだろう。有名な序曲ではあるが、聴き手の期待を決して裏切らない演奏である。
愉快な変奏曲は、ブラームスの大学祝典序曲でも用いられているたいへん有名な主題を変奏しており、聴き手にとってとても馴染みが深い旋律であるのだが、実を言うとブラームスが作曲するより前にスッペが作曲した作品なのである。
詩人と農夫序曲は、ヤルヴィとしては、とても落ち着いた雰囲気に仕上げており、チェロの長いソロ演奏も非常に格調高く仕上げている。この序曲を、激烈かつ快活な序曲として演奏している、ゲオルク・ショルティとの聴き比べをしてみることを、ぜひお勧めしたい。ショルティは、この序曲がお気に入りだったようで、モノラル時代からデジタル時代まで何回か取り上げているが、テンポが他の指揮者とは明らかに異なるたいへんアグレッシヴな演奏である。
次の行進曲は、行進曲というよりも、何か大事なイベントの公式楽曲として使えそうな雰囲気を醸した行進曲に感じる。多少とも奇を衒った内容の音楽であり、ディスクの折り返し点として、あえてこの行進曲を選択したヤルヴィの慧眼であろう。
モデル序曲は、最もわれわれが一般に抱くウィンナ・ワルツ調の典型的な楽曲であり、ここではヤルヴィの実に表情豊かな演奏が、期待を裏切ることなく存分に楽しめる。
続く演奏会用行進曲は、一転してウィーンの優雅さとは明らかに異なる行進曲であり、単独で聴くとスッペに思えないような楽曲であるため、このディスクに於いては、むしろ全体にメリハリを付ける効果が抜群である演奏となっているように思える。
イザベラ序曲は、一聴して怪しげなラテン風の音楽に聴こえてしまうのだが、曲の最後の部分になってようやくスッペらしさが戻ってくるので、実は聴いていて最後の最後にホッとするかも知れない。
美しきガラテア序曲は、典型的なオペレッタの序曲であると言えるだろう。元気な部分、美しく聴かせる部分、親しみやすい旋律など、まさにオペレッタの序曲の全てを彷彿させてくれる。
フアニータ行進曲は、たいへん軽めの楽曲だが、演奏にカスタネットを用いているためか、妙に異国情緒を感じさせてくれる不思議な行進曲である。
最後に置かれた著名な序曲は、とても元気な部分とじっくり聴かせる部分が順に現れて、いかにもスッペの序曲らしく、大変勇壮に序曲が終わるだけでなく、このディスク全体をきちんと閉めてくれているように思う。
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■ ネーメ・ヤルヴィ讃歌
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このディスクを聴くと、すでに子息パーヴォ・ヤルヴィが巨匠の域に近づいているにもかかわらず、父親ネーメの今更ながらの健在ぶりに驚きを隠せない。むしろ、息子以上に若々しい生き生きとした音楽づくりであり、今なおネーメの格好良さに痺れさせてくれるような、そんな素敵なディスクである。まさに、音楽を聴く喜びや楽しみを満喫させてくれる。
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(2021年12月10日記す)
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