リスト作品の珍編曲版をいくつか聴く

文:松本武巳さん

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リスト

CDジャケット

パガニーニ大練習曲第3番「ラ・カンパネラ」(ギター編曲版)(8’55”)
エマニュエル・ロスフェルダー(ギター、編曲)
Loreley Production (フランス盤 LY 060D)

CDジャケット

巡礼の年第2年「イタリア」補遺より「タランテラ」(管弦楽編曲版)(6’47”)
エーリヒ・クライバー指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1933年、ベルリン
Jube Classic (輸入盤 NML1207)

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愛の夢第3番(ロシア語歌唱版)(5’28”)
イワン・コズロフスキー(テノール)
P.ニキティン(ピアノ)
録音:1952年、ソ連
Russian Compact Disc (ロシア盤 RCD 16002)

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交響詩「マゼッパ」(吹奏楽短縮版)(5’04”)
アレン・B・ベック指揮
アメリカ海軍バンド
Altissimo (アメリカ盤 75442262922)

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ファウスト交響曲(カール・タウジヒ編曲ソロピアノ版)(74’19”)
イシュトヴァーン・ライコー(ピアノ)
録音:2016年4月、ブダペスト
Hungaroton(ハンガリー盤 HCD32792)

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ピアノソナタロ短調(ノアム・シヴァン編曲ソロヴァイオリン版)(35’49”)
ヴェラ・ヴァイドマン(ヴァイオリン)
録音:2014年3月、イスラエル
Romeo Records (アメリカ盤 Romeo 7314)

CDジャケット 半音階的大ギャロップ(吹奏楽版)(3’20”)
アルバート・ショーパー指揮
アメリカ海兵隊バンド
The Robert Hoe Collection (アメリカ盤 75442263012)

(録音データは判明分のみ記載した。また、編曲版の演奏時間を併記した)
 

■ 本来は試聴記用に入手したディスク

 

 これらのディスクは、いずれも本来の入手目的は、各々の試聴記を書く目的で入手したものだったのだが、どう考えてもまとめて一括して紹介する形の方が望ましいと考え直し、ここでは各々のディスクの短評を添えるだけにしたい。もしも興味を抱くディスクが1枚でもあれば、個々にそのディスクを聴かれることをお勧めしたい。

 

■ 各ディスク短評

 まず、「ラ・カンパネラ」のギター版である。ジャケット写真をご覧くだされば、すべてが明らかであろう。演奏者が宙に浮いているのだ。ただし、このディスクは他の編曲版と異なり、むしろ創作した部分が全体の半分程度を占めているので、リスト(パガニーニ)を素材とした新作と捉えることも可能であると思われる。冒頭に紹介するのには非常に適したディスクであると考える。

 つぎは、戦前のエーリヒ・クライバーがベルリン・フィルを振った「タランテラ」の編曲版。この復刻ディスク、実は次のトラックでは同じくエーリヒ・クライバーが「レ・プレリュード」を振っているのだが、これがなんとチェコ・フィルを振っているのである。単に指揮や演奏や編曲の感想以上に、当時のヨーロッパの政治背景を考えてしまう、若干複雑なディスクである。演奏は、もちろん手抜きなしの異様なほどレベルの高い演奏だと言えるだろう。

 3つ目は、あの愛らしい「愛の夢」をロシア語で歌ったディスク。ソ連としてはハンガリー音楽を野放しするわけには行かなかったのか、などと考えてしまう。なお、愛の夢には、有名なピアノ曲版だけでなく、リストのオリジナル歌曲版も存在している。オリジナル歌曲版には、フィッシャー=ディースカウがバレンボイムのピアノで歌った盤も残されているので聴き比べることも可能である。ちなみに、バレンボイムはピアノ版も録音を残している。

 ドイツ、ロシア、とくれば、アメリカ海兵隊バンドも「マゼッパ」の吹奏楽版を残しており、とても興味深いのだが、原曲の交響詩(管弦楽版)はおろか、ピアノ版(超絶技巧練習曲第4曲)よりもさらに大胆なカットが施されている。やや目的があいまいになったことは否めないが、例えばパレード用に編曲したとすれば、実は適切な長さになっているのかも知れない。編曲の際の目的や意図が分かると面白いと思う。

 さて、本家ハンガリーから、なんと「ファウスト交響曲」全曲のピアノソロ版を最近世界初録音し、近年発売に至った。本家のプライドを感じ取ることができる長大なディスクである。こちらは別途、単独の試聴記として今後取り上げる可能性があるので、演奏の詳細はここでは書かずに、ディスクの紹介にとどめたいと思う。これは、ある意味、確かにすごいディスクだとは思うのだが、ファウスト交響曲をご存知の場合に限られる凄さとも言えるだろう。

 実はもっとも驚いたディスクは、イスラエルでの録音である、ヴァイオリンソロ演奏のために編曲された、ピアノソナタロ短調の全曲盤のディスクであった。ピアノでも演奏至難な大曲を、ヴァイオリン独奏で弾いてしまう大変かつ超人的な労作である。このディスクは真に一聴の価値があると言えるだろう。ただし、聴いた後は、演奏家ともども疲労困憊するかも知れないので要注意である。

 最後は、再びアメリカ海兵隊バンドで、かつて一度取り上げたことのある、ピアノ曲「半音階的大ギャロップ」の吹奏楽版である。ゲテモノはよりゲテモノらしく編曲することでこそ楽しめる、そんな典型例だと思うのだが、コンサートホールではさすがに余り聴きたいとは思わないであろう。たとえば軍事パレードの場での演奏だと、観衆を大いに楽しませてくれるのではないだろうか。

 

■ リスト作品を編曲すること

 

 そもそもリストは、ご自身が何でもかんでも編曲しまくった御仁なのである。そのためもあってか、いずれの編曲版も、作曲家への敬意よりも編曲の面白さを思い切り前面に押し出すような編曲になっている。まあ、まさかリストに対して、作曲家の意思を最大限尊重し、書かれた楽譜通りに演奏することが義務だと考える方は、演奏家作曲家を問わず皆無なのではないだろうか。それゆえ、どの編曲もたいへん思い切った内容が含まれており、面白いと言えば確かにとても面白いディスクばかりなのだが、ここで紹介した7点のディスクをまとめて聴いただけでも、なんとなく非常に疲れてしまう、そんな側面もある曲ばかりであることは、事前に切に了承願いたいと思う。

 もちろん、私自身もこの7枚をまとめて聴く勇気も根気も決して持ち合わせていないのだが、それぞれの編曲を単独の1枚ものディスクとして考えた場合、聴き手の嗜好次第でいずれもとても面白く、レベルも高い演奏ばかりであることは約束できる。それゆえ、どれかのディスクにもしも興味を抱いたならば、そのディスクだけを入手して楽しむのが最も賢明であろうと、私はそんな風に考えるのである。

 

■ さいごに

 

 先ほどから何度も繰り返してはいるのだが、私自身もまとめてこの7枚を聴いたわけでは決してないのである。しかし、編曲魔リスト作品ならではの、編曲の多様さを感じ取れるように思えてならない。リストの音楽を編曲する場合に、編曲者がなんらの遠慮も不要であることが、ここまで多様な編曲の世界を創出したのだとすれば、リストの作曲家としての価値は、この観点から今一度見直されるべきなのかも知れないとも思う。聴き手の嗜好に合ったディスクがもしも存在していたら、紹介者としてとても幸いである。

 

(2017年10月9日記す)

 

2017年10月9日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記