2枚の《リスト「伝説曲」管弦楽曲版》を聴き比べる

文:松本武巳さん

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CDジャケット

リスト

  • 2つの伝説曲
    第2曲「波の上を歩くパオラの聖フランシス」
    第1曲「小鳥に説教するアッシジの聖フランシス」
  • アッシジの聖フランチェスコの「太陽の賛歌」

註)伝説曲の第1曲における「アッシジの聖フランシス」の表記はフランス語 François d'Assise 、「太陽の賛歌」における「アッシジの聖フランチェスコ」の表記はイタリア語 Francesco d'Assisi に基づく。

ゲルト・アルブレヒト指揮ベルリン放送交響楽団
録音:1982年10-11月
Koch-Schwann(輸入盤 311055)


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リスト《交響詩集VOL.5》

  • ダンテ交響曲
  • 2つの伝説曲
    第1曲「小鳥に説教するアッシジの聖フランシス」
    第2曲「波の上を歩くパオラの聖フランシス」

ジャナンドレア・ノセダ指揮BBCフィルハーモニック
録音:2008年9月-10月(イギリス、マンチェスター)
Chandos(輸入盤 CHAN10524)

  ■ リスト「伝説曲」の管弦楽曲について
 

  ピアノ独奏曲として知られていた2つの伝説曲の管弦楽版の自筆総譜が、1975年にリストの弟子アウグスト・ゲーレリヒの蔵書の中から発見され、1984年になってようやく出版された。ピアノ版とはほぼ同時期に成立しており、どちらが「原曲」であるかには、現時点では決着がついておらず、争いがある。
 管弦楽曲版はピアノ独奏版と比較して、2曲ともに全体の構成についての差異はほとんどない。第1曲は弦楽と木管楽器、それにハープを中心とした小編成で作曲されており、これに加えてフルートとコーラングレの扱いが際立った特長となっている。第2曲は、これに金管楽器群と打楽器が加わっており、規模が第1曲よりはかなり大きな編成で書かれている。

 

■ ゲルト・アルブレヒト

 

 ゲルト・アルブレヒト(1935-2014)はドイツの指揮者。読売日本交響楽団の常任指揮者を9年(1998-2007)にわたって務めたことから、日本でも著名な指揮者であった。また、チェコ・フィルの外国人初めての首席指揮者(1993-1996)に就任し、とても注目されたが、両者相容れることなく、芸術的な要因以外の政治的紛争にまで発展してしまい、わずか3年で破談になった。しかし、日本でもヤナーチェクのオペラ「運命」の日本初演を果たすなど、チェコ音楽を得意分野の一つとし、普及に努めた。また、現代音楽を取り入れることも多かった。

 

■ アルブレヒト盤

 

 楽譜出版前の1982年に録音された。アルブレヒトが初来日した年の録音でもあった。ディスク全体の楽曲構成から、第2曲を第1曲より先に収録しており、第1曲は11分51秒、第2曲は9分00秒の演奏時間である。なお、収録順序は初出のLPとCDではどうやら異なっているらしいが、残念ながらLPを所持していないので、確認ができないことをお断りしておく。2曲とも、とてもゆったりと楽曲を進行させており、世界初録音として楽曲の正確な紹介に努めることを、録音目的の主眼にしたであろうことが伺える。そのため、細部までとても細かく指示の行き届いたきめ細かい演奏となっており、仮にピアノ版との微妙な相違などを比較したり考えたりする場合には、後発のノセダ盤よりもアルブレヒト盤の方が参考にしやすいと思われる。
 なお、当世界初録音盤は、2011年発売のドイツグラモフォンによる「ザ・リスト・コレクション」という、リスト生誕200年を記念した34枚組セットの最後の34枚目に収録されており、ありがたいことに現役盤としても入手可能である(輸入盤477 9525)。

 

■ ジャナンドレア・ノセダ

 

 ジャナンドレア・ノセダ(1964- )は、イタリアの指揮者。北部ミラノの生まれで、現在までマリインスキー劇場、BBCフィル、トリノ王立歌劇場などの指揮者として、世界中で幅広く活躍中である。きわめて情熱的な音楽作りをする指揮者として、評価が上昇中の現役指揮者である。来日公演でもかなりの好評を博しており、将来を嘱望される現役指揮者の一人であることは間違いない。

 

■ ノセダ盤

 

 リストの交響詩集の第5巻、ダンテ交響曲の余白に収録されている。第1曲は10分38秒、第2曲は8分26秒の演奏時間である。第1曲は、小鳥のさえずりを非常に巧妙に扱っており、聴き手がとても心地よさを感じる演奏となっている。特に木管とフルートの扱いに優れており、実に美しい音楽に仕上がっている。標題音楽としての性格描写にも非常に長けている。第2曲は非常に格好良い音楽として仕上がっている。低弦の迫力あふれた冒頭部分に引き続き、中間部における金管楽器の咆哮などは、ほとんどワーグナーの楽劇を思わせるような意志の強さを引き出している。終結の場面では、本来の宗教曲の落ち着いた聴かせどころとして、美しくオーケストラを奏でさせ、楽曲を自然な雰囲気とともに美しく閉じている。
 2曲ともに、全体的にたいへん見通しの良い、楽曲構成を第一に重視した音楽作りであり、盛り上げるべき場面における感動的な音づくりにも、非常に長けた指揮者である。聴き手はレアな曲集を聴いていると言うよりは、常に名曲を聴いているような雰囲気になり、間違いなく満足するであろう。

 

■ 最後に

 

 たった2枚のディスクではあるが、あらゆる意味で対照的な指揮者が取り上げてくれたために、この曲のイメージが作りやすくなったと言えるように思われる。アルブレヒトという、一時代前のまさにドイツ本流で、現代音楽への志向も強かった指揮者と、ノセダという、現在イタリアのまさに本流で、ロマン派オペラの指揮にも長け、非常に情熱的な演奏をする指揮者が、ともにこのレアな楽曲を取り上げようと考えたところに、リストの音楽の真の面白さがあることに気付いてもらえれば、筆者としては望外の喜びである。

 

(2016年11月1日、諸聖人の日に記す)

 

2016年11月1日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記