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クルト・ワイル 『三文オペラ』全曲
マックス・ラーベ(ヴォーカル) ニナ・ハーゲン(ヴォーカル)
ハインツ・カール・グルーバー指揮アンサンブル・モデルン 録音:1999年
RCA (BVCC-34035)国内盤2枚組CD
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■ ニナ・ハーゲン
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ニナ・ハーゲン(Nina Hagen、1955年3月11日
- 、旧東ベルリン・フリードリヒスハイン生まれ)は、世界的に知られるドイツのハード・ロックシンガー。「パンクのゴッドマザー」との異名をとるが、歌唱自体は意外なほど保守的な、オペラにも通ずる伝統的な歌唱法である。当初は東ドイツで女優を志していたが、1974年『カラーフィルムを忘れたのね(Du
hast Den Farbfilm Vergessen)』が大ヒットし、今日に於いてもカルト的な人気を内外で保っている。
1976年、音楽家・作家であったヴォルフ・ビーアマンが、東ドイツ政府から市民権を剥奪されると、公然とビーアマン支持を表明したために東ドイツでの活動の場を奪われたハーゲンは、西側に亡命した。1998年、演出家ベルトルト・ブレヒトの生誕100年に際し、ハーゲンは生まれ故郷のベルリンに戻った。女優・シャンソン歌手のメレット・ベッカーと共にベルリナー・アンサンブル劇場で『パンクとブレヒトの夕べ("Punk-Brecht-Abend")』と題し、ブレヒトとの対話を試みた。
1999年、マックス・ラーベによる完全版『三文オペラ』にマック・ザ・ナイフの役で参加し、クルト・ワイルのオリジナルに忠実な見事な歌声を披露した。
第8代ドイツ連邦共和国首相だったアンゲラ・メルケル(東ドイツ出身)は、2021年12月2日に国防省で行われた退任式での演奏曲に、ニナ・ハーゲンの『カラーフィルムを忘れたのね』を選曲した。メルケル前首相は選曲の理由について、この曲は私の青春時代のハイライトだった、と語っている。この報道をZDFのネット放送でたまたま見ていた私は、突然この三文オペラ全曲盤の存在を思い出したのである。
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■ クルト・ワイル
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クルト・ワイル(Kurt Weill、1900 -
1950)は、1920年代から活躍したドイツの作曲家。自身の作曲と同時に、演劇やオペラ・ミュージカルにも力を注ぎ、多くの作品を残した。特にベルトルト・ブレヒトが台本に協力した『三文オペラ』で知られている。ユダヤ人の家系に生まれ、20歳の時にベルリンで『交響曲第1番』を作曲した。その後『弦楽四重奏曲』や『ヴァイオリンと管楽のための協奏曲』などで成功を収めるが、1928年に戯曲家ベルトルト・ブレヒトとの共同作業により『三文オペラ』の音楽を監修したことがきっかけで、1920年代後半から1930年代初頭にかけて、ワイルの劇場音楽や声楽作品がドイツの大衆の間で大流行した。ワイルは女優ロッテ・レーニャと二度結婚した(1926年結婚、1933年離婚、1937年再婚)。レーニャはワイルの仕事に協力し、死後にはクルト・ワイル財団を組織した。
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■ ニナ・ハーゲンの歌う『三文オペラ』全曲盤
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クルト・ワイルや『三文オペラ』の名前を知る人はかなり多いものの、実際に全曲を聴いた人は意外に少ないのではないだろうか。『三文オペラ』に限らず、ワイルの作品はどっぷりと嵌まり込む人と、まったく好きになれない人に完全に分かれる傾向が強いように見受ける。ワイルの書いた音構造や、用いた歌い回しには、時代背景を超えたよく言えば個性と魅力に溢れ、悪く言えばアクが強い一癖も二癖もある音楽であるために、実は嵌った人でもいきなり好きになるのではなく、繰り返し聴くことでワイルの個性に慣れて、徐々に好きになっていったように思う。
ワイルの作品の特質は、俗にいうメロディ・メーカーなのだが、基礎となる音構造が非常に独特で、一度聴けばワイルだと分かるような独自の世界を残したどの楽曲でも築いており、いわゆる美しい音楽というよりも非常にユニークな音楽であると言えるだろう。そのため、ロマン的な抒情的な世界にどっぷりと浸りたいと望む人には、凡そお薦めできないやや過激な音楽であるともいえるだろう。
私は、このオペラは本質的に場末の音楽であると思っていたのだが、異分野のスターであるニナ・ハーゲンが歌うことで、逆に楽曲の根本的な場面場面で、クラシック的な伝統的な歌唱法が求められていることが、初めて理解できたような気がしてきて、実はニナ・ハーゲンの隠れた当たり役なのかも知れないと思っている。彼女がこのオペラに適役であることを見抜いた人の慧眼に感服する次第である。
アンサンブル・モデルンの演奏は、現代音楽の旗手として著名な団体であるというような表面的・形式的な評価にとどまらず、作曲家ワイルの描こうとした意図を、過不足なく伝えている見事な演奏であると思う。このディスクは、クルト・ワイルのオペラの持つ汎用性を理解させる、優れた配役と演奏に満ちたディスクであるように思う。偏見抜きで一度は聴いてみて欲しい、そんな優れたディスクであると信じている。
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(2022年7月29日記す)
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