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モーツァルト ピアノ協奏曲第12番イ長調 K.414
ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491 マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ&指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2007年6月、ウィーン・ムジークフェライン(ライヴ)
DG(輸入盤4777167)CD |
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■ ポリーニ逝く
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かなり以前から覚悟はしていた。しかし、今もって複雑な想いが交錯し、きちんとした追悼文を書く気にはなれていない。ただ、多くの方がすでに追悼文で取り上げておられる、1970年代の数々のドイツ・グラモフォンへの超絶的な録音(ショパンのエチュード全曲、同じく24の前奏曲、ストラヴィンスキーのペトルーシュカ、ブーレーズの第2ソナタ、シューマンの幻想曲、ベーム&ウィーン・フィルとのモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、等々)とは異なり、私の中のポリーニは、むしろ技巧に衰えがはっきりと見えてきた2000年以降の録音の方に、より惹かれるのである。そこで、2007年にポリーニ自身の指揮でライヴ収録された、モーツァルトのピアノ協奏曲第12番と第24番のディスクを、ここで取り上げることとしたい。 |
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■ モーツァルト「ピアノ協奏曲第12番K.414」
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このピアノ協奏曲第12番は、モーツァルトがウィーンで作曲した最初の本格的なピアノ協奏曲として著名であり、かつピアノと弦楽四重奏団で演奏することも可能なように書かれているため、例えばブレンデルとアルバン・ベルク四重奏団による録音なども残されている。愉悦感に溢れた楽曲であるが、この曲に頻出する転調の妙を聴き手が味わうには、寧ろ弦楽四重奏版の方が優れた点もある、そんなピアノ協奏曲だと言えるだろう。
この演奏は、テンポは一貫して比較的速めで貫かれており、スケール感やメリハリもきちんとつけられており、一方ピアノの技巧を比較的前面に出して、一気に弾き上げている感が強いと言えるだろう。ピアノのタッチ、オーケストラの響きはともに非常に美しく、演奏中のポリーニ自身の唸り声もはっきりと聞こえてきて、会場収録のライヴ感も十分捉えられている優れたディスクであると思う。この第12番の協奏曲は、メロディーが美しく流れつつ、非常に華やかな雰囲気を醸し出している名作であるのだが、ポリーニの取る速目で小気味よい、かつ明確なリズムの刻みとスケール感がとても際立ち、その一方で、第12番の協奏曲におけるポリーニの指揮の緻密さとウィーン・フィルのアンサンブルの妙も、この協奏曲の聴きものの一つと言えるだろう。
第1楽章からたいへん親しみやすく、かつ貴族的ともいえるとても典雅な伸び伸びとした音楽であり、そこにポリーニのピアノが聴き手に対し心の落ち着きと安らぎを与える高雅な音楽となっている。続く第2楽章はところどころ突如として哀愁を帯びたモーツァルト特有の美しいアンダンテであり、ここでポリーニのピアノはたっぷりとロマンの香りと心なしか憂愁を感じさせる、まるで子供心のような憧憬を充満させており、昔の若干情緒音痴かと思うくらいの現代的感覚でシャープに演奏していた当時のポリーニを知るものには、まさに隔世の感がある。終楽章のロンドも第1楽章同様に高雅で愛らしい演奏を続けていて、素敵な夢心地のうちに演奏を閉じている。 |
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■ モーツァルト「ピアノ協奏曲第24番K.491」
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後半に収録されたピアノ協奏曲第24番は、単にモーツァルトのピアノ作品にとどまらず、他の楽器のための協奏曲を合わせても屈指の傑作であると評価されている名曲である。モーツァルトの残した数少ない短調であり、曲の冒頭から木管楽器と弦楽器による憂愁を帯び、かつ今後を暗示するかのような、行き場のない不安感を増幅させるかのように開始される楽章であるが、ポリーニのピアノだけでなく指揮からも、これらの重要な部分を十分に味わえる優れた演奏であると言えるだろう。
続く第2楽章は長調であり、ここでは木管楽器とピアノの掛け合いなど、ピアノと管弦楽の協奏部分に聴きどころがとても多い楽章である。終曲である第3楽章は、モーツァルトの残した楽曲中でも非常に稀有と言える絶望的な感情の爆発を伴う短調のロンドである。しかし終楽章は、第2楽章以上にピアノとオーケストラのまさに協奏が聴きものであり、この点でポリーニ盤はややピアノが強奏に過ぎる部分や、オーケストラの牽引に主にリズム面などで、わずかながらではあるが甘い側面なども垣間見られるものの、ピアニストが指揮を兼ねた場合の、最も優れた利点が十分に生かされている演奏と言っても、差し支えないだろう。
このディスクは、ポリーニがウィーン・フィルを弾き振りした究極の名盤であるにとどまらず、一般にピアニストが指揮を兼ねた場合の利点が見事に表された演奏である。非常に明確かつ深い打鍵を伴うピアノの音と、十分に高雅な雰囲気を醸し出した表現で、理想的なモーツァルト像の一つであると言えるだろう。モーツァルトが寵児と持て囃されたウィーン時代初期の名作ピアノ協奏曲と、あまりにも早く訪れたモーツァルト晩年の孤高とも言えるピアノ協奏曲が、1枚にカップリングされている点もディスクとしての価値を高めている。この2曲のモーツァルトの作風の違いや変化、さらに短期間に深化したモーツァルトの両方を、同時に体感することができる。なお、ここでは作曲者自身の書いたカデンツァは残されておらず、現代作曲家によるカデンツァを用いており、ほとんど違和感なく素晴らしいカデンツァであると言えるだろう。
なお、後半に収録された第24番の後にのみ、終演後の会場の拍手を収録しており、全体を通して聴くリスナーへの配慮が感じられる編集が行われていることも、最後に特記しておきたい。
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(2024年5月8日記す)
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