フランツ・シュレーカー「室内交響曲」他をウェルザー=メストの指揮で聴く

文:松本武巳さん

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CDジャケット フランツ・シューベルト(マーラー編曲)
弦楽四重奏曲「死と乙女」(弦楽合奏版)
フランツ・シュレーカー
「室内交響曲」
フランツ・ウェルザー=メスト指揮カメラータ・アカデミカ・ザルツブルク
録音:1998年
EMI(国内盤 TOCE-55073)
 

■ 3人のフランツによるディスク

 

 今回取り上げるのは、フランツ・シューベルトの弦楽四重奏曲の名作「死と乙女」を、グスタフ・マーラーが弦楽合奏版に編曲した曲と、ナチスが悪名高き「退廃音楽」に指定したこともあって、現在ではほぼ忘れ去られた存在となってしまっている、フランツ・シュレーカーの名作「室内交響曲」の2曲を、フランツ・ウェルザー=メストがカメラータ・アカデミア・ザルツブルクを指揮して録音した、1998年に録音されたEMI原盤のディスクである。これはたまたまなのか、それとも必然なのか、作曲者と演奏者の3人とも、実は「フランツ」なのである。

 

■ 「死と乙女」のマーラー編曲版

   実は、死後かなり経過してからマーラーの遺稿の中から、死と乙女を弦楽合奏に編曲する草稿が発見され、第三者の補筆をもって1984年に至って初めて出版された楽曲である。なお、マーラー自身が実際に編曲した部分は、全体の構成及び草稿と、第2楽章の大半の編曲に留まっているようだ。また、これとは別の作曲家による交響曲版なども存在しているようだ。
 ところで、実際に聴いてみると分かるのだが、かなりロマンティックな音楽ではあるものの、元のシューベルトの弦楽四重奏曲が、前期ロマン派そのものとも言える儚い音楽であったのが、編曲版では微妙に厚みを帯びた後期ロマン派の典型的音楽として、ものの見事に変容していることが、この録音からは明確に聴き取れるであろう。
 

■ フランツ・シュレーカーについて

 

 フランツ・シュレーカーは1878年に生まれ1934年に亡くなった、ユダヤ系オーストリア人の作曲家であり指揮者である。1918年にフランクフルトで初演された歌劇「烙印を押された人々」は、現在でもたまに上演される機会がある。また1923年にはケルンで歌劇「狂える炎」をクレンペラーが指揮して初演されたが、賛否両論であった。その後ヒトラーによって「退廃音楽」に指定され、公職からも追放され、失意のうちに亡くなった。
 シュレーカーの弟子に、ホーレンシュタインや、シュミット=イッセルシュテットなどの著名な指揮者がいる。また、1984年と2005年には、ザルツブルク音楽祭で取り上げられたりもして、徐々に復権しつつある作曲家であると言えるだろう。

 

■ シュレーカーの「室内交響曲」について

 

 オペラを除けば、フランツ・シュレーカーの代表作であると言えるだろう。現在でもたまに演奏される機会がある。演奏に必要なメンバーは23名である。1916年に完成された作品で、自筆譜はオーストリア国立図書館に所蔵されており、出版はウィーンのウニヴェルザール社からなされている。今年は室内交響曲の作曲からちょうど100周年に当たるようだ。このジャンルはもちろん、シェーンベルクによって創設されたジャンルだが、シェーンベルクが1906年に室内交響曲を発表して以来、最初の室内交響曲がシュレーカーによるこの作品であり、ウィーンのアカデミーの教員が演奏するために作曲した作品であると言われている。
 この作品は、シュレーカー特有の拡張された調性を用いているとされるものの、現代音楽に馴染んだ我々の耳には、割合聴きやすく心地よい音楽であると言えるだろう。私は、数年前のブレゲンツ音楽祭において、ボーデン湖を眺めながら夏の夜に開催される湖上オペラとは別の会場での、ウィーン交響楽団のコンサートにおいて、たまたま私の誕生日にこの室内交響曲を聴くことができた。その際の指揮者はマルク・エルダーで、シュレーカーとブリテンとドヴォルザークの3曲でコンサートのプログラムが組まれていた。この生演奏を聴く機会を得た後、ここで紹介しているウェルザー=メスト盤を見つけたのである。聴いてみたところ、死と乙女とのカップリングも含めて、優れたディスクであると思われたので、紹介しようと考えた次第である。
 最後に、フランツ・シュレーカーの財団が存在している。そのホームページのアドレスを紹介しておきたい。ドイツ語のみの運用であるようだが、ディスコグラフィーも完備しているので、一見の価値があると思われる。
http://www.schreker.org/neu/

 

(2016年11月17日記す)

 

2016年11月19日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記