5つのCOOLな管弦楽曲
〜シカゴ交響楽団の演奏で聴く〜

文:青木さん

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■ プロローグ

 

 ゲンダイオンガク→前衛・難解/単調・退屈/不快・不気味。ぼくの魂にはなにも訴えてこず聴くだけ時間の無駄とイエヨウ。

 ま、おおむねそんなふうに思い込んでおりました。最初はだれでもそうですよね。

 しかし、シカゴ交響楽団のCDを手当たり次第に集めてひたすら聴いているうちに、そういうものも仕方なく耳にすることになり、中には意外とよい楽曲もあったわけです。もちろんその〔よさ〕は古典派やロマン派の作品とはまったく異なるもので、ひとことで言うと”COOL”となりますが、これは【涼しい】ではなくて【カッコいい】の方の意味です。念のため。

 

■ 第1曲

CDジャケット

アルバン・ベルク
3つの管弦楽曲 作品6〔序曲〜輪舞〜行進曲〕
ダニエル・バレンボイム指揮シカゴ交響楽団
録音:1997年10月15日 オーケストラ・ホール、シカゴ(Live)
CSO (輸入盤 CD06-2 ”A TRIBUTE TO DANIEL BARENBOIM”)

 

<比較盤>

CDジャケット

アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団
録音:1962年7月14,22日 ワトフォード・タウン・ホール、ロンドン郊外
マーキュリー(国内盤 日本フォノグラム PHCP10234)

参考盤:

ロスバウト指揮コンセルトヘボウ管(1961年ライヴ録音、RCO)
アバード指揮ウィーン・フィル(1992年録音、グラモフォン)
シノーポリ指揮シュターツカペレ・ドレスデン(1997年ライヴ録音、テルデック)

 

● こんなCDでベルクに開眼した奴もいるという話

 

 1915年に一部完成(1929年改訂)したというこの作品は、なにしろ100年近く前の曲なので、もはやコンテンポラリーとはいえません。しかし、この曲を含め新ヴィーン学派のオーケストラ曲が集められたドラティのマーキュリー盤は実につまらん一枚で、冒頭に記したような誤った思いこみの一因となっていたのでした。

 時は過ぎて昨年のこと、シカゴ交響楽団の自主制作CD最新盤「バレンボイムに捧ぐ」を購入。Disc1から順に聴いていったところ、一曲目のハイドンの交響曲は別にシカゴ響じゃなくてもいいような演奏、次の「フィガロの結婚」フィナーレはなんでこんなのを入れるんだという疑問しか感じず、続くワーグナー「ファウスト」序曲でようやくシカゴ響らしさが出てきたものの曲の魅力がさっぱり…という不完全燃焼ぶり。で最後はベルクか、こりゃDisc1はハズレだな、という調子で期待もせずに聴き進めたのですが、これがまったくもって素晴らしかったのでした。

 印象的なメロディこそないものの、大編成オーケストラの複雑かつ刺激的な音響が随所で炸裂し、なんとも不穏な雰囲気の力感に満ちています。マーラーやバルトークのみならず、大好きな池野成の映画音楽やヴァレーズ〜ザッパをも髣髴とさせ、まぁとにかくアッパレなカッコよさ。演奏がこれまた強烈で、金管と打楽器がこれでもかと爆発しCSOパワーがフル・スロットル状態。同じ表現によるブルックナーの交響曲(DG)では〔楽しい違和感〕を生んでいたバレンボイムの音楽作りが、ここではピッタリはまって最大限の効果をあげているかのようです。凄い凄いとほとんど錯乱気味になりながら3回続けて聴き、すっかりこの曲のCOOLで妖しい魅力のトリコになったのでした。

 

● カペレもヘボウも敵わなかったという話

 

  さてこうなりますと、ラックの肥やし状態だったドラティのCDが気になってきます。久々に取り出し、聴いてびっくり。最高級の超絶品ではないですか。新しいとはいえ放送録音だったバレンボイム盤と違ってこちらはあのマーキュリー・リビング・プレゼンス、それも35mmマグネティック・フィルムが使用されているせいかもの凄いダイナミズムで、生々しく耳に突き刺さるシャープさと同時に圧倒的なエネルギーが凝縮されたド迫力。演奏も超クリアでキビキビと進行し、実に面白く聴かせます。どうして初めからこのよさに気づかなかったのか。

 このCDでは曲名が「オーケストラのための3つの小品」と訳され、シェーンベルクとウェーベルンの「オーケストラのための5つの小品」がベルクの前に収録されています。改めてそれらも聴くと、ベルクとはうってかわって響きが薄く無味乾燥、クールさに乏しくて面白みのない作品でした(今は気に入っていますけど)。こういうものと続けて聴いたせいで、曲名も似ているしどうせ同じような曲だろう、という先入観にとらわれて傾聴しなかったに相違ありません。今回はハイドンやモーツァルトと続けて聴いたために違いがくっきりと際立ち、その魅力がスッと自然に耳に届いたのでしょう。雑多な曲が脈絡なく並ぶ放送録音集にも思わぬ効用があったわけですが、そういえばドホナーニによるモーツァルト後期交響曲集のCD(デッカ)でウェーベルンがカプリングされていたのもそういう効果を狙っていたのでしょうか。

 こういうワケですので、参考盤として挙げた三枚は正直イマイチ。鋭さや明晰さが不足していてオーケストラの美音が空転気味、なんだかヌルい演奏に聴こえてしまうのです。せいぜい佳品というところ。高額なバレンボイム盤はともかくとして、ドラティ盤の方はぜひ入手しお聴きになることをお勧めする所存です。

 なおベルクに関しては、歌劇「ヴォツェック」がマイ・フェイヴァリット・オペラとなってしまうに至りました。シカゴ響の演奏で聴いてみたい曲の筆頭でもあります。

 

■ 第2曲

CDジャケット

ヴィトルド・ルトスワフスキ
管弦楽のための協奏曲
小澤征爾指揮シカゴ交響楽団
録音:1970年6月26,29日 メディナ・テンプル、シカゴ
EMI(国内盤 東芝EMI TOCE55550)

 

<比較盤>

CDジャケット

ダニエル・バレンボイム指揮シカゴ交響楽団
録音:1992年9月15日〜10月3日 オーケストラ・ホール、シカゴ(Live)
エラート(国内盤 ワーナー WPCS4429)

参考盤:

ドホナーニ指揮クリーヴランド管(1989年録音、デッカ)
ヴィト指揮ポーランド国立放送響(1996〜7年録音、ナクソス)

 

● こんなCDで(以下同略)

 

  この録音は、オザワのEMI録音を集めたボックスセットに入っていました。録音データもライナーノートも付いていない、DISKYの安っぽーいバジェットものです。この曲の直前のトラックは同じくシカゴ響とのボロディン「だったん人の踊り」で、それを聴いたついでにこの曲も聴くというか、プレイヤーをストップしそびれてこの曲が始まってしまっていたというか、まあそんなことが何度か続くうちいつの間にやら魅力にとりつかれていた次第で、これもまたコンピレーション盤の効用ですかね。

 1954年に完成したという30分弱のこの曲、ベルクよりもはるかに平易。ポーランドの民族音楽的な要素もあるとのことながら、全体を通じて感じられるのは〔カッコいい音楽〕という側面なのです。第1楽章の冒頭からして印象的ですが、第2楽章の金管ファンファーレやエキサイティングなパーカッションなどもCOOL。更にバルトークのそのものズバリの同名曲を連想してしまう箇所が随所にあって、あのオケコン好きならぜったいに面白く聴けるはず。

 で、そのオザワのボックスセットにはそのオケコンも入っていて、これもシカゴ響ということでライナーやショルティと比較してしまうと密度と精度の劣る演奏ながら、一定の水準は軽くクリア。そしてこのルトスワフスキに関しては、そのような強力ライヴァルの有無には関係なく、なかなかの名演といえるのではないでしょうか。参考盤のドホナーニはバルトークとのオケコン・カプリングなので多角的に比較できるのですが、ルトスワフスキに関してはオザワ盤の方が面白く聴かせます。

 オザワ(とレヴァイン)のシカゴ録音はすべてラヴィニア音楽祭での実演に合わせてスタジオ録音されたものなので、通常以上にメリハリの利いた野外音楽祭向けのわかりやすい演奏になっている、というのはちょっと意地の悪い聴き方かもしれません。でもシカゴ響の個性バリバリ全開な録音が多いのは、リハーサル時間の不足などの事情もあってオーケストラ任せにしている範囲が広いせいでしょう。このオケのファンとしてはうれしい存在であり、指揮者の個性の方が強い同時期のマルティノンやジュリーニらの録音より好きなほどです。

 

● カペレもヘボウも録音していない曲

 

  さて、比較盤のバレンボイム。ベルクの5年前、これもライヴ録音。期待が高まりますが、彼らの他のエラート録音に共通する音の悪さ(というかデッカ的シャープネスの欠如)が災いし、サウンド的に不満の残るものでした。ドライな放送録音のほうがマシというあたりもCOOLな管弦楽曲の宿命なのでしょうか。演奏自体はグラマラスな印象で、スッキリ明晰な小澤盤とはまた違った魅力があります。

 なお、バレンボイム盤のカプリング曲の交響曲第3番はシカゴ響の委嘱作品。シカゴ響マニアなら必携の一枚ですが、その曲のショルティ指揮による初演の録音は自主制作盤でCD化されていて、そちらの方がマストアイテムかも。

 もう一枚の参考盤はいわゆる本場物ながら、そんなこととは無関係に聴き応えのある演奏で、録音も上等。ナクソス、あなどれません。カプリング曲はとっつきにくい作品ばかりですけど。「ルトスワフスキ管弦楽曲集Vol.5」に入っています。あと、オザワのCDはヤナーチェクと組み合わされたオリジナルの組み合わせとジャケットで国内盤が出たので、買い直してしまいました。

 

■ 第3曲

CDジャケット

サー・マイケル・ティペット
交響曲第4番
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団
録音:1979年10月 メディナ・テンプル、シカゴ
デッカ(国内盤 ユニバーサル UCCD3755)

 

● 「ショルティの芸術」シリーズの大穴盤!

 

  現代音楽&英国音楽のダブル・パンチ。さっぱり興味が湧きません。しかしこの曲、及びその前に収録されている「ビザンティウム」はどちらもシカゴ響の委嘱作品で、その初演者ショルティによる録音。とくればパスするわけにもいかず、冴えない気持ちで聴いてみますと、声楽の入った「ビザンティウム」には思わず涙が出ました。アクビの連発で。やはりハズレかと気落ちしつつ先に進むと、この交響曲はうってかわって大当たり、鬼COOLな一曲でした。拍手。

 それほど分かりやすい音楽ではないです。30分ほどの単一楽章ですが、7つのトラックに分けられていて、かなり慌しく展開。静かな部分には不穏な緊迫感が漂って嵐の前触れを思わせ、激しい部分では複雑なダイナミズムでパワー炸裂。なんだかやたらとカッコよく、退屈な部分が(ほとんど)ない。骨っぽい荒々しさとマッチョな造形感が際立ち、ショルティ&シカゴ豪腕コンビの個性を念頭に置いた〔当て書き〕ではあるまいか、などと考えてしまうほどの素晴らしさ。ところどころで聞こえるゴーーーッという効果音(?)さえ、最初こそ違和感があったものの、そのうちCOOLに思えてくるから不思議です。

 この音は、曲のテーマが人間の生涯ということで〔生命の息吹〕を伝えるものだそうです。スコア指定のウインド・マシーンがあまり効果的でなかったため、当録音では本物の人間の息吹きが使われているとのこと。いったい誰の息なのかは不明ですが、マイクが拾ってしまうほどの唸り声を出す指揮者の場合だと妙なことになってしまいそうです。

 ディスクは、「組曲ニ長調」と組み合わされてLP末期に出て、93年には新録の「ビザンティウム」とのカプリングでCD化。それを持っていたのですが、これら3曲をすべて収めたCDがこの2月に出たので買い替えました。最初からその構成でCD化しとけよ、もう。とはいえ廉価再発でリスナーが増えるのは喜ばしいことかも。「20世紀の巨匠シリーズ〜ショルティの芸術」篇ですが、当シリーズはせっかくオリジナル・ジャケットを採用していながら録音クレジットが不完全(ものによっては不正確)なのが難。この曲に関しては、プロデューサーがジェイムズ・マリンソン、エンジニアがジェイムズ・ロックとなっています。最後に入っている「組曲」はわかりやすく楽しい曲でした。

 このショルティ盤に満足していますけど、他の演奏でも聴いてみたいところ。稲庭さんが採りあげておられるヒコックス盤(シャンドス)などが気になります。

 

■ 第4曲

CDジャケット

マーク=アンソニー・ターネイジ
サム・デイズ
シンシア・クラレー(メゾソプラノ)
ベルナルト・ハイティンク指揮シカゴ交響楽団
録音:1997年 シカゴ
デッカ(輸入盤 468 814-2)

 

● ナゾの録音、レアなディスク

 

 ヘボウ・カペレ・シカゴ響をもって世界三大オーケストラとしますが(ワタシの場合)、このたびシカゴ響の首席指揮者となってこれらの完全制覇という大偉業を達成したハイティンク。その彼とシカゴ響が、10年前にデッカにこっそり録音を残していた事実は、あまり知られていないのでは。その楽曲の作者ターネイジはサイモン・ラトルの友人だという英国人ですが、彼自身がまだマイナーな存在なので、それも仕方ないことでしょう。この録音は、アーゴ・レーベルで出ていたターネイジの既存音源を集めた二枚組の編集盤に収録される形で、21世紀の最初の年になって発表されました。

 5つの小曲からなる15分ほどの組曲で、うち4曲に女声独唱が入ります(最後の曲の歌詞は一言だけですが)。楽器編成もあまり大きくなく、指揮者やオーケストラの個性がはっきり出ているわけではありません。しかし、声楽の入らない3曲目の「タンゴ」が超COOLな曲なので採りあげました。いやまあ、〔レア盤自慢〕の意図も否定できませんけど。

 本当にタンゴ風のリズムが、明滅するように現れては消え、消えては現れ、なんだか魔法のような3分間。弦楽合奏の精緻かつ固めの響きが効果的で、シカゴ響らしいといえないこともないような。しかしこんな曲をハイティンクが指揮するとは、なかなか想像しにくいです。シカゴ響を起用したことも含め、録音の経緯が気になるところ。

 ちなみにDisc2には「ブラッド・オン・ザ・フロア」という曲が入っていて、ギターのジョン・スコフィールドとドラムスのピーター・アースキンがアンサンブル・モデルンと競演するという凄いシチュエーション。この二人はジャズ〜フュージョン界のトップ・スターで、個人的にも大好きなミュージシャン。モデルンもフランク・ザッパつながりで気になる存在。彼らとハイティンク指揮シカゴ響が同じCDに並んでいるという状況には、なんとなくニヤついてしまうのです。

 

■ 第5曲

CDジャケット

エドガー・ヴァレーズ
砂漠(デラール)
ピエール・ブーレーズ指揮シカゴ交響楽団
録音:1996年12月 オーケストラ・ホール、シカゴ
ドイツ・グラモフォン(国内盤 ユニバーサル UCCG1051)

 

<比較盤>

CDジャケット

リッカルド・シャイー指揮ASKOアンサンブル
録音:1997年5月 フレデンブルク音楽センター、ユトレヒト
デッカ(国内盤 ポリグラム POCL1847-8)

参考盤:

マデルナ指揮コンセルトヘボウ管(1966年ライヴ録音、RCO)

 

● 録音テープは楽器の一部なのか?

 

 最後はザッパからヴァレーズにリンク。フランク・ザッパが最初に買ったLPレコードはヴァレーズ作品集だった……15歳の誕生日に親にねだったプレゼントは〔ヴァレーズへの長距離電話代〕だった……本人から「砂漠」という曲を作曲中だと聞き、砂漠に囲まれた町に住んでいたザッパ少年は興奮した……こうしたエピソードを知ればいやが上にも興味をかきたてられるこの曲、本命というべきシャイー盤を聴いてもピンとくるものがありませんでした。

 この曲が入っているDisc2はヘボウではなくASKOアンサンブルによる演奏ですが、途中に妙な部分があるのです。「オーガナイズド・サウンドの挿入」と題されたテープ録音のそれは、ヴァレーズがかねてから望んでいた電子音楽とされているもの。しかし、発信音などの音源をコラージュし電気的に処理したそのサウンドは〔音楽〕というよりはノイズに近いもので、さすがにこれはいただけません。こんなのが何箇所も挟まっているせいで、もう全体がワケのわからぬシロモノという印象に染まってしまっております。

 その点このブーレーズ盤ではテープ挿入部分をばっさりカットして、オーケストラ演奏部分だけで構成。こうなると俄然COOLに聴こえてくるから不思議です。これはやはり作曲家ならではの見識であるように思えてなりません。ブーレーズ自身も関与してパリで行われたこの曲の初演は〔ハルサイ以来のスキャンダル〕(!)を引き起こしたという話なので、単に挿入部分を忌み嫌っているだけなのかもしれませんけど。しかしその新機軸的なパートを外したことで、この曲の〔ヴァレーズ作品の集大成〕的な側面が浮かびあがるという結果にもなっています。

 

● これはブラスバンドなのか?

 

 「オーケストラ」と書きましたが、その編成は管楽器と打楽器(とピアノ)だけ。シカゴ響のブラス群がさほど強奏していないにもかかわらず、その精緻なサウンドとアンサンブルはASKOアンサンブルよりもむしろ効果的。単なる吹奏楽団とは言わせぬ凄みがあります。淡々とした雰囲気の中で精妙なる不協和音が炸裂し、パーカッションが楔を打ち込むかのごとく鋭く轟きわたる。このCOOLなカッコよさこそヴァレーズの真骨頂。最高。

 コンセルトヘボウ管のライヴ録音も、演奏部分は意外なほど鮮烈でベルクのような違和感はないものですが、テープ部分はしっかりと入っています。実演ですよこれ。コンセルトヘボウ大ホールに流れるノイジーなテープ音楽(どんな装置を使ったのか?)、その間は演奏を止めている舞台上のオーケストラ。観客にとっては新鮮な体験だったのかもしれませんが、コンサートなのにあらかじめ録音されたものを聴かされるというのはやはり面白くないに違いありません。

 

■ エピローグ

 

 クラシック音楽に関してはもともとオーケストラ曲を偏愛するワタシの場合、近・現代曲はほぼ完全にオーケストラ一辺倒。メロディやリズムがとっつきにくい曲でも、管弦楽が醸し出す音響がCOOLであればOKなのです。シカゴ響の演奏で聴いて好きになったという曲が多いのもそのせいですし、たとえばよりポピュラーなバルトークでさえ、オーケストラ曲は大好きなのに名作の誉れ高い弦楽四重奏曲はいっこうに楽しめないというありさま。

 しかし、今回採りあげたような音楽をさほど抵抗なく受け入れられる理由は、実はそれだけではありません。何度も触れたフランク・ザッパの影響です。

 ザッパはロックというフィールドにはまったく収まり切らない人物で、歌詞の内容こそアホで下品なものが大半ながら、音楽自体はシリアスかつ驚くほど多様、〔ザッパ・ミュージック〕という巨大な一ジャンルを一人で形成しているかのようです(マイルス・デイヴィスのように)。そんなザッパにハマって膨大な作品群を聴いてきましたが、ロック・バンドではなく管弦楽団を使ったものがいくつも残されていて、それらには今回採りあげたような楽曲に共通する部分が確かにあるのです。

 〔20世紀最大の作曲家の一人〕とも評されるザッパのオーケストラ作品群も、いつかまとめてご紹介できればと思っております。

 

2007年5月7日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記