「わが生活と音楽より」
「四季+四季」を、2枚のディスクで聴く

文:ゆきのじょうさん

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 今回の試聴記は、このディスクの存在を知ったことから始まります。

CDジャケット

ヴィヴァルディ:
ヴァイオリン協奏曲集《和声と創意への試み》から「四季」
ピアソラ:
ブエノスアイレスの四季
(レオニード・デシャトニコフ編曲版)

ティエンワ・ヤン ヴァイオリン
ティエンワ・ヤン・アンサンブル

録音:2008年9月22-24日、ハイデルベルク/ザントハウゼン、トーンスタジオ・テイエ・ファン・ギースト
独NAXOS (輸入盤 8.551228)

 ヴィヴァルディとピアソラの四季を収めて「八季」と題するアルバムが出るという情報を知って発売を待ち焦がれていたディスクでした。ここでソロを弾いているティエンワ・ヤンは北京生まれで、幼少より数々のコンクール受賞歴があり、1999年にはアイザック・スターンに請われて渡米し、2000年にはパガニーニ/24のカプリースを録音。2004年からはNaxosレーベルと契約してCDを出しているそうです。このディスクは最新盤となります。バックは自身の名前を付けたアンサンブルで、解説書によると弦楽五部が3/3/3/2/1という小編成でこれにチェンバロとテオルボが加わります。

 ディスクはヴィヴァルディ(以下V)/春、ピアソラ(以下P)/夏、V/夏、P/秋、V/秋、P/冬、V/冬、P/春という構成です。最初のV/春を聴き始めればヤンの独奏は実に躍動感が溢れて響きが美しく、アンサンブルもこれに見事に従っています。モダン楽器を用いてピリオド奏法を取り混ぜて反復では即興演奏も加えるという、流行のスタイルを採ってはいますが、そういった形式に拘泥し続けることのない自由に飛翔する清々しさがあります。ほぼ切れ目なくP/夏に変わっていくのですが、コラージュのようにヴィヴァルディのフレーズが挿入されており、実に楽しい構成になっています。V/夏では疾風怒濤の進め方をしていますが、まったく破綻を感じさせることはなく爽快に進みます。P/秋は弦楽器の特殊奏法から始まり、チェロ独奏の物憂げな旋律に受け渡されます。その後またヴァイオリン独奏が活躍するという趣向です。やはりV/秋の旋律がコラージュのように演奏されるところもあります。続くV/秋はP/秋とは対照的に突き抜けるような明るさが強調されています。そしてP/冬は曲自体の魅力的ですが、豊かな音楽が繰り広げられており合間にV/冬の旋律がコラージュされるのも微笑んでしまう趣向です。V/冬も颯爽と吹き抜ける一陣の風のように突き抜けています。最後のP/春は躍動感あふれる演奏ですが、終結部でチェンバロがV/春の冒頭を密やかに奏でることで、この一枚のディスクが見事に連環していることを聴き手に与えてくれました。

 私はこのディスクを手に取るまで、ピアソラは1曲も聴いたことがありませんでした。一頃ずいぶんと脚光を浴びたときに、なんとなく心から離れていった名前だったのです。そのピアソラを初めて聴いたわけですが、CDのリストを見たときはただヴィヴァルディとピアソラを交互に演奏しているだけかと思いましたら、どうもそうではなくずいぶん手を加えてあるようです。解説書を読み返してみると、どうやらデシャトニコフという人が、ヴィヴァルディとピアソラの曲を元に編曲したものであるとわかりました。

 このデシャトニコフ編曲版の「八季」は、調べてみると当盤が初めてではありませんでした。調べた限りではオーケストラ・アンサンブル金沢が録音したディスクがあります。

参考ディスク:

CDジャケット

マイケル・ダウス ヴァイオリン
オーケストラ・アンサンブル金沢

録音:2007年2月9日、石川県立音楽堂コンサートホール
ワーナークラシックス (国内盤 WPCS-12034)

 このディスクの解説書にはデシャトニコフ編曲については一切言及されていません。しかしいくつかの情報と聴いた限りでは、おそらくはティエンワ・ヤン盤と同じスコアが用いられていると思います。演奏はセッション録音のティエンワ・ヤン盤と比べて、ライブ録音ということもあり、ずいぶんと熱気があります。

 

 

 

 さて、このヴィヴァルディとピアソラの出会いは何もこのデシャトニコフ編曲版が初めてではありませんでした。以下のディスクがおそらくはこの組み合わせでの史上初めての「八季」ディスクだと思います。

CDジャケット

ヴィヴァルディ:
ヴァイオリン協奏曲集《和声と創意への試み》から「四季」
ピアソラ:
ブエノスアイレスの四季

イタリア合奏団

録音:1996年8月28日ー9月1日、イタリア、ピアッツォーラ・スル・ブレンタ、コンタリーニ宮
日DENON (国内盤 COCO-70429)

 まずV/春夏秋冬を並べて、続いてP/春夏秋冬を並べるという、ある意味で「真っ当な」曲順です。デシャトニコフ編曲版では後述のように、おそらくピアソラが作曲した順を重視して構成したと思いますが、イタリア合奏団はヴィヴァルディの曲順と合わせて1年という連環でとらえています。編成は弦楽合奏にピアノが加わるもので、おそらく誰かの編曲だと思いますがクレジットはされていません。「P/春」は鮮烈な弦楽器の輝きで圧倒されますし、続く「P/夏」はほの暗さがありながら万華鏡のように音が跳躍し、それを受け継ぎながらもチェロ独奏が物憂げに「P/秋」を歌い、そして「P/冬」になります。曲順からみても、ティエンワ・ヤンと比較して明らかに「P/冬」にクライマックスを置いているな、と痛切に感じます。精妙で颯爽としたティエンワ・ヤン盤に比べると、イタリア合奏団盤はヴィヴァルディもそうですが、ピアソラもまずは曲そのものの姿をきちんと描き出していこうという姿勢に好感が持てます。そして、歌心が溢れんばかりの充実した響きになっています。ピアソラではイタリア人がタンゴなんて、と思う人にはぜひ聴いてほしい格調高い演奏です。

 順序は逆になりましたが、ヴィヴァルディの四季もオルガンやテオルボを参加させ、ソロを1曲毎に交代させ、全体に即興を織り交ぜながら速めのテンポできびきびと進めています。これらはティエンワ・ヤン盤と同じくピリオド以降の潮流に乗っているものですが、演奏形式はより穏当なものになっていると感じます。演奏者は3/3/2/2/1と、ティエンワ・ヤン・アンサンブルとほぼ同数ですが残響豊かな会場を使っているせいか、録音方法が違うせいなのか、鋭さや生々しさよりも、豊かさと奥行きの深さが勝っているように感じます。このあたりの録音に際しての姿勢や、見据えているものが随分違うことも、聴く愉しみになっています。

 

■ 付記:ピアソラ盤

 

 さて、こうなってくるとピアソラ自身が「ブエノスアイレスの四季」をどう演奏したのかが、どうしても気になっていきます。ピアソラ自身が「ブエノスアイレスの四季」をすべて演奏したディスクとして有名なのは以下のものです。

CDジャケット

レジーナ劇場のアストル・ピアソラ1970より
ブエノスアイレスの冬
ブエノスアイレスの夏
ブエノスアイレスの秋
ブエノスアイレスの春

アストル・ピアソラ五重奏団
 アストル・ピアソラ アコーディオン
 アントニオ・アグリ ヴァイオリン、ヴィオラ
 オスバルド・マンシ ピアノ
 カチョ・ティラオ エレキギター
 エンリケ・“キチョ”・ディアス コントラバス

録音:1970年5月19日、ブエノスアイレス、レジーナ劇場
BMGジャパン (国内盤 BVCM-35001)

 解説書によれば、ピアソラはまず1965年に「夏」を作曲、それから1969年に「秋」、そしてこのディスクで演奏しているレジーナ劇場でのツアーで残る「春」「冬」を初演したというのですから、初めから連作を意識していたわけではありません。そしてこのディスクでの曲順は春夏秋冬を(おそらくあえて)四季の連環通り並べず、初演となった「冬」と「春」を両端に置き、過去に作曲した「夏」「秋」を間に置いています。

 このディスクは「タンゴ」に分類されています。楽器編成からも、流れてくる音色からもクラシック音楽とは別だと言われれば確かにその通りです。しかし、ティエンワ・ヤン盤やイタリア合奏団盤を聴いてきた私には、これがタンゴ音楽と一言で片づけてよいのかと悩んでしまいます。このディスクがアルゼンチン・タンゴ史上初といわれるライブ録音とは思えないアンサンブルの完成度、変幻自在でしかもコントロールされた音色、多人数の演奏と伍して一歩も譲らないスケール感など、確かにピアソラがクラシック音楽家にも愛奏されることが理解できます。

 ということで、2010年の聴き初めは図らずもこのピアソラのディスクになりました。今年もいろいろなディスクとの巡り会いがあることを願っています。

 

2010年1月7日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記