「わが生活と音楽より」
二枚の管楽室内楽のディスクを聴く文:ゆきのじょうさん
■ ボヘミアの音楽
チェコ九重奏団のメンバー
録音:1999年1月13、16,17日 チェコ、ラジオ・プラハ、スタジオA
チェコ Clarton CQ 0042-2 131
18世紀ボヘミアの楽曲、19曲をフルート、オーボエ、クラリネット、フレンチホルン、ファゴットなどの管楽器で演奏したディスクです。曲目リストを見ると、弦楽オーケストラなどのために書かれたシンフォニア、フルート四重奏曲、ピアノやオルガン独奏曲などを編曲しています。
ボヘミアは、15世紀からのカトリックとフス派の対立を始めとして、17世紀の三十年戦争を通して、政治的宗教的戦乱が続いてきました。18世紀になっても、プロイセンを中心としたシュレージエン戦争、七年戦争があり、戦乱が続きます。その結果、多くの優れた音楽家が国外へ逃れました。
パリ音楽院でベルリオーズ、グノー、フランク、リストなどを教えアントニーン・ライハ (1767-1836)、同じくパリで活躍したヤン・ラディスラフ・ドゥシーク (1760-1812)がいます。次にいわゆるマンハイム楽派を形成したヤン・ヴァーツラフ・スタミツ (1717-1757、ドイツ語読みではヨハン・ヴェンツェル・シュターミッツ)やフランティシェク・クサヴェル・リヒター (1709-1789)、さらに北ドイツで活躍したフランティシェク・ベンダ (1709-1786) とジリ・アントニーン・ベンダ (1722-1795) 兄弟がいます。そしてウィーンでは、モーツァルトの後任として宮廷楽団の指揮者を務めたレオポルト・コジェルフ (1747-1818) がおり、他にもヤン・クシテル・ヴァニハル (1739-1813) 、アントニーン・レシュラー=ロゼッティ (1746-1792) なども活躍しました。
一方で国外脱出はせずにそのままボヘミアに残って活躍した作曲家として、ヴォイチェフ・ヌデラ (1748-1811)、アントニーン・ボロヴィー (1755-1832)、トマーシュ・コロヴラーテク (1763-1831)、およびスロバキア人アントン・ツィンマーマン (1741-1781)がいました。
本ディスクではこれらの作曲家たちの作品を概観しているという特徴もあります。長くて5分程度の小品ですから、個々の作曲家の違いを楽しむというよりは、通底するボヘミア音楽を堪能できるアルバムと言えます。もちろん原曲との聴き比べはしていませんので、詳細はわかりませんが、解説書によると原曲をそのまま編曲しているわけではなく、管楽器の特性を活かすように手を入れているそうです。そして、本ディスクと同時に楽譜もRundel Publishing社から出版しており、教育用、演奏用としてボヘミア音楽を普及しようという目的もあるとのことです。
演奏もきれいな木目調の、品格あふれるものです。■ 管楽五重奏のための北欧音楽
ピーター・ラスムッセン(1838-1913):フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットのための五重奏曲ヘ長調
ラーシュ=エリク・ラーション(1908-1986):木管五重奏のためのディヴェルティメント「4つのテンポ」
カール・ニールセン(1865-1931):フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットのための管楽五重奏曲作品43
ハフィディ・ハルグリムソン(1941-):「インタルシア」
レイキャビク管楽五重奏団
録音:1999年5月25-29日、レイキャビク、ラングホルト教会
デンマークのラスムッセンとニールセン、スウェーデンのラーション、そしてアイスランドのハルグリムソン、の4曲を収めたアルバムです。
フレンチホルンの奏者でもあったラスムッセンの五重奏曲は、1896年に作曲されました。当時、五重奏曲のジャンルはすでに時代遅れになりつつあったとのことです。一方でカール・ニールセンの管楽五重奏曲は1922年に作曲され、これは五重奏曲が再評価された時期でした。1921年、ピアニストのクリスチャン・クリスチャンセンがコペンハーゲン管楽五重奏団とリハーサルをしていた際にニールセンが訪問し、五重奏曲の構想が芽生えて作曲したそうです。ラスムッセンが伝統的。古典的な手法であるのに対して、ニールセンは各楽器の絡み、音色が多彩で複雑になっており、わずか26年の隔たりとは思えません。第3楽章はゆっくりとした序奏の後、ニールセン自身の歌曲集『賛歌と聖歌集』の中のコラール「わがイエズスよ、わが心をそなたへの愛に向けさせたまえ」を主題とした変奏曲形式となっており、それぞれの管楽器のソロやデュオを折りまぜながら、大団円に向かって行きます。ラーションの「四つの時間」は、第1楽章(夏)、第2楽章(秋)、第3楽章(冬)、第4楽章(春)と四季を描いた曲です。ゲンダイオンガクではなく、とても聴きやすいものです。ハルグリムソンの「インタルシア」は、寄せ木細工、象眼細工という意味です。本ディスクが世界初録音です。各楽器の細かいパッセージが組み合わさって、まさに寄せ木細工のような構成になっていました。これもゲンダイオンガクのような晦渋さはなく、第4楽章ラルゴは、アルバン・ベルクのような茫洋たる音の流れが印象的です。
教会で行われた録音ですが、よけいな残響が入っておらず、聴きやすいです。■
同じような編成の管楽器室内楽の二枚のCDを聴いてみました。「ボヘミア」は17世紀の音楽の多様性というよりは共通性に注目した構成であるのに対して、「北欧」は多様性、多彩性を表現したアルバムと言えるでしょう。いずれもその試みは成功しており、聴き応えのあるディスクでした。
2024年11月25日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記