「わが生活と音楽より」
アリオスティの二枚のディスクを聴く文:ゆきのじょうさん
アッティリオ・アリオスティは1666年にボローニャで生まれ、1729年にロンドンで没したイタリアの作曲家です。ほぼヴィヴァルディと活動時期を同じくしています。歌手でもあり、オルガン、チェロ、ヴァイオリンなども演奏したそうですが、今日ではヴィオラ・ダ・モーレの演奏家として、又、この楽器のための作品を遺したことで知られているのだそうです。イタリアに始まり、ベルリン、ウィーンなどヨーロッパ各地を遍歴して、最後にはイギリスに渡ってヘンデルのオペラの演奏者になったりしていたと伝えられています。しかし当時のイギリスでは人気があったようで、ある評論ではアリスティのオペラを、ヘンデルや、イタリアの作曲家ボノンチーニと並べて絶賛していたと言います。
とは言え、今日ではアリオスティは決してメジャーな作曲家ではありません。私も、最近までまったく耳にしたこともなく、以下のディスクに収められていた曲を聴いたのが初めてでした。
マリアンネ・ロネー:ヴィオラ・ダ・モーレ作品集 より
アッティリオ・アリオスティ:
独唱、ヴィオラ・ダ・モーレ、通奏低音のためのカンタータ
《親愛なるスミレの花よ、あなたはついに》マリアンネ・ロネー ヴィオラ・ダ・モーレ
アルノ・ヨッヘム ヴィオラ・ダ・ガンバ
ミヒャエル・フライムート テオルボ
エルンスト・クビチェック ハープシコード
モニカ・マウヒ ソプラノ録音:2002年1月9-11日、10月14-15日、ヴィラ・メディチ・ジュリーニ、ブリオスコ、イタリア
独WINTER&WINTER (輸入盤 910 096-2)このディスクは、幾人かの作曲家によるヴィオラ・ダ・モーレの作品を収録していましたが、中でもアリオスティのカンタータは絶品と感じました。ヴィオラ・ダ・モーレの素朴な音色とソプラノ独唱が、それはそれは絶妙に絡み合い、まるで二重唱のようです。儚さと切なさに満ちた、この美しい佳曲を聴いて、私はたちまち虜になり、アリオスティについて興味を持つようになりました。
しかし調べてみると、この作曲家のディスクはほとんど出ていないということがわかりました。その中で入手できたのが次に紹介するディスクです。
アッティリオ・アリオスティ:ストックホルム・ソナタ第1集
ヴィオラ・ダ・モーレのための練習曲とソナタトーマス・ゲオルギ ヴィオラ・ダ・モーレ
ルーカス・ハリス テオルボ、アーチリュート、バロックギター
ジョエル・モートン ヴィオラ・ダ・ガンバ、バス・ヴィオール録音:2005年5月、グレース教会、トロント、カナダ
スウェーデンBIS(輸入盤 BIS-CD-1535)なぜ、イタリアの作曲家の作品に、スウェーデンの首都ストックホルムが冠されているのかと疑問に思ったのですが、これは解説書を読むと答えがありました。スウェーデンの音楽学生であったヨハン・ヘルミッヒ・ルーマンが、1710年代後半にロンドンを訪れた際に、アリオスティの作品を書き写してスウェーデンに持ち帰ったものが保存されていたため、この通称となったとのことです。
このディスクでヴィオラ・ダ・モーレを担当するゲオルギは、大変な名手だと思います。颯爽としたテンポで、軽々と楽器を操って弾いていきます。ヴィオラ・ダ・モーレは古風な楽器などではなく、ヴィオラやヴァイオリンのような輝きを持っています。そして、アリオスティの一つ一つの曲は、とても聴きやすく、聴いていて退屈しません。個人的には練習曲第3番アダージョのほの暗さが先のカンタータと通じるものがあり、最終曲ジーグのスリリングなテンポと合わせて、とても惹かれました。
さて、第1集というのだから、続編があるのだろうと探してみると、まったく見つかりませんでした。どうしたことかと思っていましたら、何と今度ほぼ1年ぶりに新譜としてBISレーベルから第2集が出ることになったそうです。ジャケットデザインも、第1集に続いて私の好みであります(笑)。演奏者は通奏低音だけ、第1集とは異なっていますが、どんな演奏になっているのか、とても楽しみです。
2007年6月4日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記