「わが生活と音楽より」
2人の女性現代音楽作曲家を聴く

文:ゆきのじょうさん

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 現代音楽の作曲家で、今、もっとも注目されているのは誰なのでしょうか? Wikipedia日本語版に掲載されており、今も存命中の作曲家を眺めてみましたが、ちょっとは聴いたり、名前を見たことがあるのはヘンツェ、ラウタヴァーラ、ペンデルツキ、グレツキ、ペルト、ライヒ、コリリアーノ、ナウマンなどであり、1950年代以降ではリームとデュサパンしか聴いたことがありません。さらに女性作曲家となると、グバイドゥーリナだけになります。私は、このジャンルの熱心な聴き手ではありませんので、これらの作曲家たちの聴き比べなどは到底できません。

 さて、上述のWikipedia日本語版の「クラシック音楽分野の女性作曲家を一覧」には載っていないのですが、最近印象深かった二人の女性作曲家のディスクを、今回は採りあげてみたいと思います。

 

■ デラクルス

CDジャケット

スレマ・デラクルス(1958-):
・ピアノ協奏曲第1番「アトランティコ」(2000)
 ギレルモ・ゴンザレス ピアノ
 レイフ・セーゲルスタム指揮ヘルシンキ・フィル
・大気の光(2000)
 ホセ・デ・エウセビオ指揮プロジェクト・ヘラルド・アンサンブル
・ラティール・イスレーニョ(1998)
 ギレルモ・ゴンザレス ピアノ
・孤独(1998)
 ホセ・デ・エウセビオ指揮チェコ・ヴィルトゥオージ 

録音:1998年1月11日、2月8日、2001年6月20日、カナリヤ諸島音楽祭。1998年4月21日、ブルーノ
独Col legno(輸入盤 WWE 1CD 20242)

 デラクルスはスペイン、マドリッドの生まれなのだそうです。冒頭のピアノ協奏曲第1番「アトランティコ」(世界初演のライブ録音)を聴き始めると、まずオーケストラが激しい不規則なリズムを炸裂させるのに圧倒されます。続くピアノ独奏も激しいもので、宣伝文にあったように「ストラヴィンスキー/春の祭典をピアノ協奏曲にしたらこうなるのでは?」と思わせる強烈なリズムです。セーゲルスタム指揮のオーケストラは、最弱音から最強音までの幅が大変広く、最初にボリュームを上げてしまうと、途中とんでもないことになります。特に第三楽章においては文字通り轟音を立ててオーケストラは鳴り響き、聴いているとだんだん興奮してきてしまいます。ピアノも鍵盤を叩きまくっており、打楽器であることをこれでもかと示しているようです。最後は豪快に響いて終わります。この1曲だけでも聴くべきディスクだと思います。「大気の光」は管楽器と打楽器の宴会という風情であり、管楽器の虚ろな音響が連打される打楽器のリズムに被さっています。「ラティール・イスレーニョ」は大きく印象が変わって、静謐なピアノソロで始まります。だんだん激しいリズムが伴ってきますが、それまでの2曲よりは穏和です。「孤独」は足踏みのような打楽器のリズムの後に、弦楽器のアルペジオ、そしてヴァイオリン独奏の哀愁を漂わせたメロディが続きます。不協和音の伴奏が伴いますが、さほど不快感はありません。その後も刻みとメロディが交錯します。個人的にはとても気に入った曲です。

 

■ カシュバ

CDジャケット

バルバラ・カシュバ(1983-)/私の音楽:

・ヤヌシュ・コルチャク回想(無伴奏ヴァイオリンのための;1995-1997)
 マリア・マホフスカ ヴァイオリン
・ピアノのためのトッカータ(1998)
 スタニスワフ・ドジェヴィエツキ ピアノ
・黙想(無伴奏ヴァイオリンのための;1996-1998)
 ヤロスラフ・ナドジツキ ヴァイオリン
・空威張りするトリオ(弦楽三重奏のための;1999)
 ヤロスワフ・ジョウニェルチク ヴァイオリン
 レフ・バワバン ヴィオラ
 アグニェシュカ・バワバン チェロ
・Tanezzo(アコーディオンのための;2002)
 ダミアン・ヴァリシャク アコーディオン
・Skrzyp-ak(ヴァイオリンとアコーディオンのための;2003)
 バルバラ・カシュバ ヴァイオリン
 カタジナ・ズヴィエルスフレフスカ アコーディオン
・Suoni(ヴァイオリニストたちのための;2003)
 リンダ・ヤンコフスカ、ラドスワフ・カミエニャルツ、アレクサンドラ・レスネル、 アンナ・スタシキェヴィチ、アレクサンドラ・トマシンスカ、 バルトシュ・ヴォロフ ヴァイオリン
・幸福の島々(フルートまたはヴァイオリン、チェロとピアノのための三重奏曲;2003)
 エヴァ・ムラウシュカ フルート
 ピオトル・マズレック チェロ
 ピオトル・ズコウスキ ピアノ
・山頂の空地で(室内管弦楽のための;1999/2000)
 アグニェシュカ・ドゥチマル指揮アマデウス室内管弦楽団

録音:2004年9、10月、ポズナン、音楽アカデミー
   2004年12月、ワルシャワ、ポーランド放送スタジオS2

ポーランドACTE PREALABLE (輸入盤 AP0119)

 バルバラ・カシュバは1983年生まれと言いますから、日本でなら昭和58年生まれ(!)で、今年満25歳になるわけです。このアルバムに収録されている最初の曲は何と12歳から14歳の頃に作曲されたとのことですので天才少女なのでしょう。ヴァイオリニスト・ピアニストでもあるそうで、実際「Skrzyp-ak」という曲では自身でヴァイオリンを弾いています。どの曲も、どことなく民族音楽のような節回しや響きであって不協和音のようなものは少なく、聴きやすいものです。逆に言えば、いつか何処かで聴いたような音楽でもあるので、おそらく気難しい評論家諸子が聴いたのであれば、「若手作曲家としては才能がある。誰それ(現代作曲家)の影響が感じられる。さらに研鑽を積んでいけば、さらに高みを目指せるだろう。」云々という、上から目線のモノの言い様が出てくることは必定でしょう。

 しかし、アコーディオンを用いた2曲や、6つのヴァイオリンが木霊する「Suoni」は魅力的だと思いますし、最後の比較的編成の大きい曲である「山頂の空地で」はゆっくりとうねる雲海のような序奏から始まり、一転俄に風が吹いて嵐を予感させるような激しい部分が続き、堂々たる終結に至るのを聴けば、25歳というプロフィールを隠してしまえば、実に立派な芸術家であると思います。演奏家は、ポーランド国内の音楽院で学んだ優秀な若手を中心に選抜しているようです。いずれも覇気あふれる演奏です。ポーランドが国を挙げて製作したということなのでしょう。

 

 

 

 大家のような風格を感じるデラクルス、何かとんでもない才能に出会ったような思いがするカシュバ、どちらも入手できたディスクは1枚だけですが、次は何を発表してくるのか、楽しみにしたいと思います。

 

2008年8月2日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記