「わが生活と音楽より」
ロンドン・コンコルド・アンサンブルを聴く文:ゆきのじょうさん
ヨハン・セバスチャン・バッハ
- 管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
- オーボエ・ダモーレ協奏曲 イ長調 BWV1055
- オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1060
- 2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1043
- ブランデンブルク協奏曲第2番 ヘ長調 BWV1047
- ブランデンブルク協奏曲第4番 ト長調 BWV1049
- ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV1050
- カンタータ第208番《羊は安らかに草をはみ》BWV208
- カンタータ第147番《主よ人の望みの喜びよ》BWV147
ロンドン・コンコルド・アンサンブル
録音:2004年11月〜2006年4月、サセックス、イギリス
英QUARTZ(輸入盤 QTZ2047)何気なく購入したのですが、聴き始めたとたんに途中で止めることができなくなって、2枚組のCDを一気に聴き通して、しかも二度聴いてしまったディスクです。
ここで演奏している「ロンドン・コンコルド・アンサンブル(LCE)」という団体を、私は初めて知りました。解説書によると2002年10月にイギリスで初コンサートを開いた団体で、BBC交響楽団、ロイヤル・コヴェント・ガーデン歌劇場、フィルハーモニア管、ヨーロッパ室内管弦楽団の首席奏者がメンバーとなっているということです。公式サイトがあり、それによると主たるメンバーは10人。いずれも若く、例えばヴァイオリンのマヤ・コッホ(父がドイツ人で、母が日本人)はバイオに1978(昭和53)年生まれと明記されています。
若く、それでいて首席奏者をするくらいの、腕に自信のあるメンバーからなる団体のバッハです。何人かのゲスト奏者を加えて各パート一人ずつで、モダン楽器を用いて演奏するのですが、これが唖然とするくらい上手いのです。これでどうだと言わんばかりの速いテンポで演奏しますが、ハラハラするようなことが一つもありません。素晴らしいのは、ただ勢いに任せて機械的に弾き飛ばしているわけではなく、上品さを保ち、愉悦さに満ちていることです。どんなに速いテンポでも音がギスギスせず、美しく伸びやかに響きます。さらに全体のテンポはいわゆるピリオド演奏以降の設定に合わせているのに、ブランデンブルク第2番ではトランペットのパートをホルンが担当し、第5番ではチェンパロのパートをピアノで弾くなど、自分たちのやりたいようにしています。ひょっとしたら第2番の改変はマリナー/サーストン・ダートが出したディスクを参考にしているのかもしれませんが、決してオーセンティックにこだわるのではなく、自分たちがやりたい音楽をするためにそうしているのでしょう。
その結果、違和感がないどころか、不思議なほどに合っていると感じます。まるでスウィングジャズを演奏しているかのような乗りの良さで、音楽をする喜びがストレートに伝わってきます。私自身も弾いたことがあるBWV1043が、各パート一人でありながら、全体に暖かく、春の野原に吹く微風のように感じる演奏はありませんでした。こんなにも聴いていて幸せな気持ちになれるディスクは、本当に久しぶりです。
LCEのレパートリーはバロックから現代と幅広いのだそうですが、CDは本ディスクを含めて2点しか出ていません。コンサートツアーも欧州と北米を回っただけで、後はBBCラジオで定期演奏をしているそうです。公式サイトでの今後の演奏会も、3月にはコンセルトヘボウで演奏会をするようですが、英国が活動の中心で、来日の予定はないようです。メンバーが各々のオケの首席奏者であるのでスケジュールを合わせるのが大変なのかもしれませんが残念なことです。
もし、来日するようなことがあれば、私は万難を排して聴きに行くと思います。この目と、この耳で、彼らの音楽を受け止めてみたいという強い願いが、あるからです。
2007年2月18日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記