「わが生活と音楽より」
2枚の北欧の声を聴く文:ゆきのじょうさん
いわゆる「正統な」クラシック音楽での歌曲も素敵ですが、それとは一線を画した歌にも素晴らしいものがあります。今回は北欧の一風変わった声楽のアルバムを紹介したいと思います。
■ アイスランド
「クヴァシルの血」?バイキングの音楽
エスク
マリアン・アンデルセン 歌、Hp、角笛、カウベル
ポウル・ヘクスブロ 骨のフルート、骨、ホーンパイプ、角笛、カウベル録音:2005年12月、デンマーク、ホイイロプ教会
デンマークCLASSICO(輸入盤 CLASSCD670)タイトルの「クヴァシル」とは、アイスランドの神話に登場する、神によって創造された賢人の名前であり、どんな質問にも答えることができ、各地を回って人々に智慧を授けていったが、小人族に殺されてしまいます。「クヴァシルの血」は蜂蜜と混ぜられた飲み物として貯蔵されましたが、飲んだ者に誌を生み出す能力をもたらしたとされています。このことから、吟遊詩人は自分たちが創った詩を「クヴァシルの血」と呼んだそうです。このディスクではそうしたアイスランドのバイキングの歌や音楽として伝承されたものを、当時使用していた楽器を再現して演奏しています。
実に独特の風情が漂う音楽です。民族音楽と言えばそうなのですが、旋律の向かい方がとても自然です。それでいて、やはりここには北欧の冷たい風と、そこで暮らす人々の暖かい息づかいを感じてしまいます。もちろん聞き比べのできる曲目ではありませんが、決して奇をてらったものではなく、実に真摯な演奏を聴くことができます。
なお、録音場所のホイイロプ教会は、断崖絶壁に立つ有名な教会のようで、陶器メーカーのロイヤルコペンハーゲンの絵皿でも描かれたことがあります。
■ スウェーデン
スウェーデンの歌曲集
ウルリク・コールド バス
ボディル・ハイスター アコーディオン
録音:2003年、コペンハーゲン、チボリ公園、リストランテ・バイサバーサ
デンマークCLASSICO(輸入盤 CLASSCD490)スウェーデンの作曲家、エヴェルト・トーブ (1889-1976)、ビルイェル・シェーベリ - (1885-1929)、カール・ミカエル・ベルマン(1740-1795)の歌曲集のCDなのですが、聴いてみるとアコーディオンの伴奏に乗って、実に肩の力の抜けた楽しい歌声を聴くことができます。しかも、観客の声や拍手が入っており、解説書には「Tivolis Vise Vers Hus でのライブ録音」と書かれています。調べたところ、これはテーマパークであるチボリ公園の中にあるレストランで、英語表記では「Ristorante ViceVersa」というところのようです。したがって純然たるコンサートホールではなく、普通のレストランでの収録ということになります。
マイクはかなり演奏者に近いところにセッティングされているようで、臨場感溢れるものです。コールドの歌声は実にユーモアたっぷり、アコーディオン伴奏のハイスターも時にヴォーカルとして加わったりします。どの曲もかしこまったクラシック音楽ではなく、親しみやすいもので、スウェーデンの歌曲をデンマークで演奏しているはずなのに、曲によっては観客が加わって歌ったりもしています。きっととても有名な曲も入っているのでしょうね。観客はとても乗っており、コールドの声色を使ったユーモアにも、すぐ反応しています。こんなコンサートはとても楽しいものです。
デンマークにおいて録音されたアイスランドとスウェーデンの歌曲を聴いてみました。この自然さは北欧という括り方で乱暴に説明してよいのかどうかは迷いますが、何となく共通したものがあるのだと感じざるを得ません。二枚目のスウェーデンの歌曲集に聴く観客との距離感の近さは、さらにその思いを強くするものです。
これからもこういったディスクと出会っていきたいと思います。
2011年1月13日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記