An die Musik 開設7周年記念 「大作曲家7人の交響曲第7番を聴く」

ブルックナー篇

文:伊東

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CDジャケット

交響曲第7番 ホ長調
カラヤン指揮ウィーンフィル
録音:1989年4月、ウィーン、ムジークフェラインザール
DG(輸入盤 429 226-2)

 

 これは「天上の音楽」とでも形容せずしていったい何と表現していいのか分からない演奏です。

 私はこのCDを発売直後に購入しました。以来15年近く、このCDの価値を正しく認識していなかったことを今年になって知り、大変な衝撃を受けるとともに、新たな出会いに喜びも感じました。

 私はカラヤンのブルックナーを愛好してきましたが、交響曲第7番については1975年にベルリンフィルと録音したDG盤の方を遙かに高く評価してきました(こちらをご参照下さい)。ベルリンフィルの強力かつ精緻な表現力によって微塵の隙もなく音楽を構築していく75年盤は、カラヤンらしく巨匠然とした構えがまだ十分に残る「カラヤン指揮ベルリンフィル」らしい演奏だと思います。ブルックナーとしては洗練されすぎているかもしれませんが、鍛え上げられた音響美に浸ることができますし、私にとってはこの演奏の価値は変わっていません。

 一方、ウィーンフィルとの録音は、ある意味ではカラヤンらしからぬ演奏だと思います。これほどの演奏ができるのがカラヤンでないわけはないのですが、このCDで聴く限りその存在を大きく主張していないのです。ウィーンフィルの音色は、時に肺腑をえぐるような強烈さを聴かせるものの、実にソフトであり、常に軽やかさと丸みを帯び、みずみずしく響いてきます。しなやかな弦楽器、遠くから聞こえてくるようなホルン、深い森の中で小鳥がさえずり、歌うがごとき清冽なフルート・・・。それらが指揮者が介在しているとは思えないほど自由に響いています。第1楽章からこんな状態では魅了されずにはいられません。第4楽章の最後の音が鳴り終わるまで、至福の時が続きます。指揮者もオーケストラも、ブルックナーの音楽を美しく奏でることに細心の注意を払ったのでしょう。ひたすら美しい演奏です。75年盤に聴かれる指揮者やオーケストラの自己主張がここでは影を潜めています。

 さて、今年になるまでこの魅力に気がつかなかったのはもったいない限りです。過去に何度も聴き返していたはずなのに。そのきっかけは、CDプレーヤーの新調にありました。今年はCDプレーヤーとその周辺機器を一挙にグレードアップしたため、突如としてこの演奏が目の前に開けてきたように感じました。そのため私は「さすがオーディオ機器をグレードアップすると違いがあるものだな」と思っていましたが、本当はそうでもなかったようです。我が家には何台もの簡易システムがありますが、そのどれでこのCDを聴いても同様に魅了されました。要は、聴き手の問題のような気がします。まっさらな状態で聴かないと、最初から何らかのレッテルを貼ってしまうのかもしれません。それではもったいないですね。不幸中の幸いとでも言うべきなのでしょうか、私としては15年以上もこのCDを捨てずにおいて良かった、ということになります。恥ずかしい話ですが、CDに対する認識とはこれほど完璧に変わってしまうものなのですね。不明を恥じ入るばかりです。

 

(2005年11月2日、An die MusikクラシックCD試聴記)