An die Musik 開設8周年記念 「大作曲家の交響曲第8番を聴く」

ドヴォルザーク篇

文:青木さん

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CDジャケット

ドヴォルザーク
交響曲第8番 ト長調 作品88
ヴィトルト・ロヴィツキ指揮ロンドン交響楽団
録音:1969年1月18-21日 ウェンブリー・タウン・ホール、ロンドン
PHILIPS(輸入盤:456 327-2)

 An die Musik8周年記念にちなんでの「第8番」ですが、この曲はかつて第4番だったそうです。たとえば(別の曲ですけど)1956年録音のクーベリックのCDに初出LPのオリジナル・ジャケットが掲載されていて、第9番が「No.5」、第7番が「No.2」となっています。1969年に第1刷が発刊された『名曲辞典』(属啓成著,音楽之友社)という本では、「第8番(旧第4番)」と表記されていました。ワタシがクラシック音楽を聴き始めた70年代末にはもうすっかり「第8番」でしたので、昔は第4番だったことは歴史上の事実として後で知ったわけですが、しかし「イギリス」という愛称は当時まだ一部で使われていましたねぇ。「ボヘミア」ならともかく、これでは内容にまったく合いませんので、定着しなかったのはよいことです。

 コンセルトヘボウ管のCDについてはかつて「コンセルトヘボウの名録音」で聴き較べをしましたし、ジュリーニとシカゴ響の超弩級の名盤はすでに伊東さんが取りあげておられます。ここでは秘蔵の名演CDをご紹介。

 本盤は1960年代後半に録音された交響曲全集の一部です。ロンドン響はその少し前にケルテスの指揮で同じく全集を録音しており、そちらは天下の名盤として知られCDもあまねく出回っているのに対して、このロヴィツキ盤は日本ではCD化さえされていないという冷遇ぶり。しかし内容はケルテス盤に決して劣るものではありません。

 一言でいえば「ハードボイルドなドボ8」。辛口です。引き締まった表現で緩い部分は皆無、張りつめた緊迫感は途切れません。雄弁な金管をはじめ各楽器の反応が鋭く、響きの面でも進行上でも推進力が感じられます。そしてティンパニの強奏がくっきりとしたメリハリを生んでいるのが最高。まるでマルケヴィチのようです。第2楽章が少しゆっくりで第4楽章が速めという全体のテンポ設定も絶妙。そしてフィリップス・トーンに彩られた録音も素晴らしく、もうまったく文句なしの名盤だと思います。

 いや、あえて言えば「のどかなボヘミア風情」がまったく欠けていますね。それこそこの曲にいちばん必要なものだ、という人には向いていません。こういうことは何を求めるかによって評価が変わってくるわけで、そこに聴き較べの楽しみがあります。

 たとえばケルテス盤と比べると、部分的に似たようなスタイルもありながら全体の印象はぜんぜん違っていて、ケルテス盤には意外と詰めの甘い部分もあることに気づきますが、明るいトーンとあいまってこれはこれでよさがあります。ロンドン響の巧さと柔軟性、デッカとフィリップスの個性の違いも興味深いものでした。全集は”DUO”シリーズ×3で入手できます。

 

(2006年12月6日、An die MusikクラシックCD試聴記)