ラヴェル「子供と魔法」(マゼール)を聴く

文:青木さん

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 今回は、フレンチ・サウンドの粋を集めたラヴェル作曲マゼール指揮「子供と魔法」のファンタジックな世界にご招待いたします。さきごろ「ブーレーズの20世紀音楽集」の回で、ラヴェルのエキゾチックな声楽曲を集めたDisc4が格別に気に入ったので、そういう音楽をもっと聴きたいと考え、選んだのがこの曲です。といってもいわゆる「異国趣味」が共通しているわけではないのですが、極東の島国から見ればフランスだって異国は異国だし、なによりラヴェルの個性満開の名作にもかかわらずCDがあまり出ていないようなので、採りあげることにしました。

CDジャケット

ラヴェル:
子供と魔法(コレットの詩によるファンタジー・リリック)

フランソワーズ・オジェアス(メゾソプラノ)
ジャニーヌ・コラール(アルト)
ジャーヌ・ベルビエ、シルヴェーヌ・ジルマ、コレット・エルツォグ(ソプラノ)
ハインツ・レーフス(バス)
カミーユ・モラーヌ(バリトン)
ミシェル・セネシャル(テノール)
ロリン・マゼール指揮フランス放送国立管弦楽団
フランス国立放送合唱団(ルネ・アリッス指揮)
録音:1960年11月 サル・ド・ラ・ミュテュアリテ、パリ、
ドイツ・グラモフォン(国内盤:ポリドール POCG3813-4)

 

■楽曲について

 

 「スペインの時」と並ぶラヴェルの歌劇で、バレエの要素を融合させた独特の音楽劇。子供と母親以外で出てくるのは動植物や家具等という、幻想的な夢の世界を描いた作品。初演は1925年。以上、CDの解説書から要約しました。音を聴く前のイメージとしてはディズニーのアニメ、特に映画「ファンタジア」の「魔法使いの弟子」などを連想させます。しかしアメリカ色はまるでなく、徹頭徹尾フランス風。かなり大きな編成の管弦楽ながらサウンドはむしろデリケートで軽妙洒脱、時間もわずか40分強。まったくもって洗練のきわみ、というかイキでオツな感じ。落語でいえば上方落語ではなく江戸落語の世界でしょうか。

 このCDは25のトラックに分けられていて、それがだいたいの曲数なので一曲平均2分以下、じつに目まぐるしいのですが、それだけ豊富なアイデアがギュッと凝縮されている。この濃密感やスピード感といい、大編成オーケストラの管弦楽法といい、ワーグナーの対極にあるような作品かも。

 そんなわけで聴きどころはたくさんあって、はかなげなオーボエによる導入からしてグッと惹き込まれます。ソファと安楽椅子ののっそりしたダンスに大時計がせわしなく乱入する場面は笑えるし、ウェッジウッドのティーポットとともに気取った英語で会話を始めたチャイナカップが次第にデタラメ中国語になって最後は「ハラキリ、セッシューハヤカワ」・・・それは日本語やがな! 壁紙から出てきた羊飼いたちの行列はエスニック調の行進曲。数字たちの合唱が加わるせわしない算数の場面とそれに続く猫の二重唱はラヴェルの才気煥発! ここまでが第1場で、後半は舞台が家から庭に移り、詩的な情景描写や優雅なワルツあり、にぎやかなケンカの場面ありと多彩に進んで、最後は親子の情愛があっさり描かれ、余韻を残して終わります。

 

■演奏について

 

 マゼール盤とデュトワ盤しか聴いていないので、なにかに基準を置いた比較論的な感想は持ち得ないのですが、でもこのマゼール盤に十分満足しています。その特徴をひとことで言えは「フランス風味の濃さ」。あいまいですね。ここでの比較対象はフレンチ・ポップスやフランス映画。辛気臭いのではなくポップでカラフルなヤツです。その独特の色彩感、ケバケバしくはないけどパステル調というほど淡くもなく、シックなセンスのよさがあってちょっとレトロで。ますます抽象的だけど、そういう雰囲気がこのマゼールの「子供と魔法」にも強く感じられるんです。

 直接的にはもちろん、フランス人の歌手にフランスのオーケストラ、いわゆる「お国もの」の強みということになるのでしょう。木管楽器の音彩などいかにもな感じだし、フランス語の発音も個人的には映画やポップスで聞く機会がそこそこあるので耳が敏感になっているのかもしれません。しかしやはりそれだけではないはずで、当時30歳だった鬼才マゼールの統率力とシャープな感性が全体を一つの方向性に導いているからこそ、この「風味の濃さ」につながったのだと思います。そういえば無国籍人的なマゼールだって生まれはフランスですし。上記CDライナーノートの原解説には、CD初再発時の『グラモフォン』誌の批評が引用されています。「マゼールの指揮は、まるでスコアに記されたひとつひとつの音を慈しんでいるかのように響く」。孫引きした他人の文章に同意するというのも芸がないことですが、ほんとうにその通りに感じます。

 

■CDについて

 

 手持ちの上記CDは1997年の「ザ・オリジナルス」盤で、1965年録音の「スペインの時」と組み合わされた二枚組。余白にリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」(ベルリン・フィル)とストラヴィンスキーの「うぐいすの歌」(ベルリン放送響)が入っています。元の録音がいいのかリマスタリングが効果的なのか、驚くほど鮮明な音質。

 CDジャケットは「子供と魔法」のものが選ばれていて、この絵は音楽の内容によく合っていると思います。ちなみにプレヴィンのDG盤は「バックス・バニー」のチャック・ジョーンズのイラストでまさにディズニー寄りのアメリカン路線、そのカン違いぶりだけで買う気がしないほど。ラトル盤のイラストはあまりにも暗い色調で、これもダメ。デュトワ盤のもっさりした絵も内容にそぐわない。こういう楽曲の場合は特に、ジャケット・デザインにもっと気を配ってしかるべきではないでしょうか。もちろん好みは人それぞれですけど、こういう点をとってもマゼールのディスクは名盤と呼ぶにふさわしい。廃盤のようですので、再発売を望んでやみません。

 

2010年3月2日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記