■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に■
一瞬で魅せられたウィスペルウェイさんのチェロと、爽快なコープマンさん
トン・コープマン指揮 ボストン交響楽団
2004年2月7日 午後8時〜
ボストン、シンフォニー・ホールJ.S.バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
C.P.E.バッハ:チェロ協奏曲 イ長調 H.439/Wq.172
チェロ:ピーター・ウィスペルウェイ
メンデルスゾーン:交響曲第5番 ニ短調 作品107「宗教改革」昨年、その音楽をする楽しさを全身いっぱいで表現し、好演を果たしたトン・コープマンさんが今シーズンも再登場しました。また共演者として、チェロのウィスペルウェイさんが登場するのも見逃せません。
コンサートはJ.S.バッハの管弦楽組曲第1番で始まりました。昨年と同様、今年も総勢30人とオーケストラの編成を絞っての演奏です。そして、これも昨年と同様に、普段のボストン響とは異なり、ビブラートをあまり使用しない奏法で、透明感ある響きを聴かせてくれました。オーボエ奏者のそつのない演奏も良かったです。ただ昨年の管弦楽組曲第3番に比べるとやや感銘が落ちたかもしれません。
続いて、ウィスペルウェイさんがソロを務めるC.P.E.バッハのチェロ協奏曲イ長調です。この曲、私は最近知ったのですが、チェロの魅力あふれる本当にいい曲ですね。コンサートをきっかけに、今まで知らなかった曲の魅力を知ることも多くあるのですが、この曲もそんな曲のうちの一つです。
先ほどの演奏よりさらに美しい響きを聴かせるボストン響をバックにウィスペルウェイさんの演奏が始まりました。いきなり難しいパッセージだったのでしょうか、音が巧く出ない箇所が散見され、音程が不安定な部分もあります。しかし、私がそれよりも気になったのがウィスペルウェイさんの紡ぎだすチェロの音色です。私がイメージするチェロの音色とはあまりにも異なります。もちろん私はチェロの奏法を詳しく知っているわけではありませんが、弓をあまり弦に強く当てていないような感じで、楽器の本体があまり響かないような、ずいぶんと軽い音が聴こえてきたのです。こんなことを書くと笑われるかもしれませんが管楽器の音色のように私には聴こえました。正直私の好みのチェロの音ではありませんでした。
ところがです。その感想が第二楽章を聴いたとたん一変してしまったのです。チェロの音色自体が変化したわけではありません。しかし、なぜか分からないのですがウィスペルウェイさんのチェロの音がこの楽章になると俄然生きてきたのです。ウィスペルウェイさんの演奏だからこそ、この楽章の今まで知らなかった魅力が明らかにされたともいえます。特に、この楽章の最後、短いカデンツァ風のソロがありますが、ここでの演奏は彼のチェロの音色だからこそ出せた深沈たる趣に思わず涙がこぼれてしまいました。
第三楽章は第一楽章ほどではありませんでしたが、再びウィスペルウェイさんの魅力は後退してしまいました。しかしほんの短い時間でしたが、第二楽章の深い感動を得ることができただけで今日はもう十分だと言う気にさせられてしまったのです。嬉しいおまけとして、アンコールにバッハの無伴奏チェロ組曲第1番からプレリュードが演奏されました。これはまた歌うような素敵な演奏だったことも付け加えておかなければなりません。
休憩後は中編成のボストン響に戻って、メンデルスゾーンの交響曲第5番「宗教改革」です。これがまた爽快な演奏でした。コープマンさんの明快な人柄を反映してか曖昧模糊としたところのない演奏で、透明な癖のない響きを使い、くっきりとした輪郭に曲の魅力が生き生きと表現されていました。
私の妻は、昨年に引き続き、かなりコープマンさんの演奏が気に入ったようです。コープマンさんの演奏に凄みとか、心震える感動と言うのはないのですが、音楽をみなと一緒にするのが楽しくて仕方ないという思いが伝わってくるようで、演奏を聴いて幸せな気分にさせてくれるのは確かです。また演奏後の舞台姿にしても偉ぶったところがまったく無く、そのシャキシャキとした姿が心を捉えたのだと思います。
(2004年2月12日、岩崎さん)