短期集中連載 An die Musik初のピアニスト特集
アルフレッド・ブレンデル
ベートーヴェン「ハンマークラヴィーア」を聴く【第11回】−余韻あるいは惜別として−
語り部:松本武巳
■ ブレンデル引退の報に接して
2008年12月18日のウィーンでの公演を最後に、ブレンデルは一線を退きました。最後の1年間は、ヨーロッパツアーを行い、挙行したリサイタルでは、どの公演でもプログラムの後半にシューベルトの遺作のソナタD.960を置いていました。このソナタは、私も、このブレンデル特集の第2回で取り上げておりますが、ブレンデルが最後に到達した境地が、シューベルトであったのは、何となく理屈を超えて理解できるところがあります。長い彼の演奏生活の最終地点が、この曲であったことは、私にとってもとても感慨深いものがあります。
■ この特集を閉じるにあたり
2004年8月2日にスタートした、この短期集中連載を、4年5ヶ月の難行苦行の上、ようやく閉じることが叶いました。しかし、その間私もブレンデルのお陰で多くのことを学びましたし、経験も積ませていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。一方、私のこだわりとして、この間、一部の評論で若干の批判を受けたことや、それ以前に、そもそも長期緩慢な連載となってしまったにも関わらず、過去の既掲載分に関し、一言一句たりとも変更を加えることはしませんでした。現在では、当時と考え方自体が異なった部分もあります。しかし、人間が人生のときを刻むことに関して、そのときどきに思い・考え・悩み・信じ、そして決断したことは、人生の一通過地点として、大事にしたいと確信するようになりました。このような考えに至ったのも、短期集中連載を、このような長期連載に変更したにも関わらず、最後まで暖かく見守ってくださった伊東さんを始めとした、読者の方々のご支援の賜物であると考えております。
■ 2008年8月3日ザルツブルク祝祭大劇場でのリサイタル
友人の宇野氏(アマチュアのピアノ弾き)が、当該リサイタルに行かれました。私は、8月14日と15日に祝祭大劇場に行きましたが、ブレンデルを聴くことは残念なことに叶いませんでした。その後、10月中旬に私がたまたまピアノを弾いた折に、宇野氏が演奏を聴きに来られ、ブレンデルの8月3日のプログラムをプレゼントしてくださいました。記して御礼申し上げますとともに、権利関係の問題が生じないであろう範囲の画像を掲載させていただきます。
↑クリックすると拡大されます。 ■ 1974年の来日プログラム
1974年6月から7月にかけてのブレンデル2度目の来日が、当時中学生であった私の、ブレンデル初体験でした。BプログラムとCプログラムを聴きました。こちらも、曲目一覧のみの画像を掲載いたします。驚いたことに、初めて聴いた際の楽曲に、この短期集中連載の第2回、第4回、第7回で取り上げた楽曲が含まれています。そして、件のシューベルトの最後のピアノソナタも、ちゃんと含まれているのです。原初体験の大きさを物語っているのでしょうか。これまた、とても感慨深いものがあります。
↑クリックすると拡大されます。 (2009年1月11日記す)
(2009年1月13日、An die MusikクラシックCD試聴記)