コンセルトヘボウ管第11回来日公演<2002年>【レビュー】

文:伊東

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11月18日、サントリーホール

 

 コンセルトヘボウ管のページにおいては居候の伊東です。11月18日(月)はサントリーホールにシャイー指揮コンセルトヘボウ管の演奏会を聴きにいってきました。11月7日に開始された日本公演はこの18日をもって終了しました。私としてはその最初と最後の公演に行けたので、とても幸せであります。

 プログラムは以下のとおりでした。

  • 武満徹:「弦楽のためのレクイエム」(1957年)
  • べリオ:「レクイエス」(1983-85年)
  • リゲティ:「ロンターノ」(1967年)
  • ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 作品73「皇帝」(ピアノ:ポリーニ)

 プログラムは20世紀後半のいわゆる現代音楽が前半に置かれ、古典中の古典であるベートーヴェンが後半に位置する非常にユニークなものでした。

 コンサートは盛会のうちに終了しました。「皇帝」の後には文字どおり爆発的な拍手とブラボーが聞かれました。既に60歳を越しているポリーニは頭髪こそ白くなったものの貫禄十分で、ベートーヴェンを難なく弾きこなしていました。それも、演奏開始後時間が経てばたつほど感興が湧いてくるのか、オケを威圧するような鉄壁の演奏を繰り広げました。ポリーニは柔らかいタッチで演奏していますが、時々聴かせる雷鳴のような入りには全く驚かされます。

 シャイーはエネルギッシュに動き回る体育会系の指揮ぶり。このような指揮をしていては確かに肩を故障してしまいますね。ただし、オケは指揮者に煽られてしまうため、豪快な演奏をしてくれます。今回はコンセルトヘボウ管の豪放なサウンドを楽しめました。コンセルトヘボウ管はよく鳴るオケですね。少なからぬ聴衆がこの日ポリーニを目当てに来場したと思われますが、私にとってはコンセルトヘボウ管の方が聴き応えがありました。あのように「皇帝」らしい「皇帝」を聴けるとは。あれでは大きな拍手に包まれるのは当然です。

 しかし、この日最もすばらしかったのは、ベートーヴェンではなく、前半に置かれた現代音楽です。中でもリゲティの「ロンターノ」! この曲は1967年に作られています。編成は後期ロマン派ふうの大規模なものですが、打楽器を華々しく打ち鳴らす類の音楽ではなくて、弦楽器と管楽器による実に神秘的な音楽でした。この演奏はベートーヴェンの100倍も、1,000倍も優れていたと私は思います。弦楽器をはじめとするオーケストラの楽器が、長大な弱音のフレーズを大きな息の中で少しずつ少しずつクレッシェンドさせていく様は、聴き手にも強い集中力を要求するものでした。周りの聴衆には寝息を立てている人も少なくなかったのですが、もったいないものです。あの「ロンターノ」こそ、今回のコンサートの白眉でしょう。オケが最弱音をずっと維持していく後半部分は、戦慄的とさえ言いうるものです。私にとって「ロンターノ」は初めて耳にする曲でしたが、おそらく、オケのアンサンブルの精度もこの日の絶頂ではなかったかと推測されます。実は、ベートーヴェンにおいては、完璧な演奏をこなしたポリーニとは対照的に、オケはアンサンブルに乱れがありました。少なくとも、コンセルトヘボウ管としては最高の精度だったとは言い難かったでしょう。もしかしたら、前半の現代音楽、それも「ロンターノ」でオケは精魂使い果たしてしまったのではないかと私は勘ぐっています。「ロンターノ」はシャイーにしても満足のいく演奏だったのではないでしょうか。演奏が終わってもシャイーの指揮棒がなかなか降りません。私の席からはシャイーが音楽の余韻を噛みしめていたように見えました。

 念のため書いておきますが、私はいわゆる現代音楽は好きではありません。20世紀の音楽はひどく苦手です。非難を承知でもっとはっきり書きますと、バルトーク以降の前衛的な音楽を好きこのんで聴く気にはほとんどなれません(何卒ご容赦下さい)。音楽は聴いて単純に楽しめればいいと私は考えています。音楽を楽しむのに理屈はいらないのです。クラシック音楽ファンだからといって、前衛音楽まで無理に「理解」しなければならない理由はないと考えています。

 今回の来日に際してシャイーはわざわざ現代音楽を大規模にプログラムに取り入れました。私はシャイーとコンセルトヘボウ管の組み合わせなら、現代音楽も楽しめるかもしれないと思って出かけました。私にとってメインプログラムは前半にあったのです。その期待は裏切られませんでした。私がべリオやリゲティの音楽を理解したとは口が裂けても言えませんが、驚くべき精度による最高のアンサンブルを「ロンターノ」で堪能できた私はとても満足です。シャイーとコンセルトヘボウ管のような組み合わせなら、また20世紀の音楽を聴いてみたいです。

 

 

 

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(An die MusikクラシックCD試聴記)