セルのブルックナーを聴く
ブルックナー
交響曲第3番ニ短調
セル指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1965年
SONY(国内盤 SRCR 9887)長らく、「セルはスマートな演奏をする指揮者だ」という先入観を私は持っていた。もっとも、この先入観は、セルを知れば知るほど覆された。確かにスマートな面もあるが、一面的なものでしかない。そんな先入観を持ったのも、セルのスタジオ録音ばかり聴いていたからだ。ORFEOから発売されたウィーンフィルとの「運命」を代表に、どうやらセルはSONYのスタジオ録音からは窺い知れない激しい音楽を作っていたようだ。当団とのこのザルツブルク音楽祭におけるライブ録音も、そうしたセルの面目躍如たる演奏である。
演奏は一言でいえば、「鋼(はがね)でできたブルックナー」。とにかく強靱な響きで満たされた演奏である。テンポは速め。速いから、軽快に進行するのかと思いきや、そうではない。速いテンポの中にもきりり、いや、キリキリ引き締まった音楽を作り、音を全く濁らせないようにして分厚く豪快な響きを実現している。これはさすがに巨匠のなせる技だ。当団がいかに名門オケだとはいえ、この録音では「指揮者セル」が目立って仕方がない。セルの凄さはこのような演奏を、自分とは縁の薄いオケである当団で行えたことだ。セルと当団との結びつきは極めて珍しく、一見ミスマッチでさえある。にもかかわらず、セルはザルツブルク音楽祭で指揮台に登っただけで、このような演奏を可能にしてしまうほどの辣腕であったのだ。
セルはどういうわけかブルックナーの第3交響曲に愛着があったらしく、スタジオ録音も残している。この演奏を聴くと、セルがこの曲をどれほど愛していたか、その愛情がひしひし伝わってくる。軟弱に演奏した箇所はなく、オケを豪快に鳴らしまくり、強靱な力による壮麗なブルックナー像をうち立てている。確かに、ライブにつきもののアンサンブルの乱れは一部にある。しかし、よほど偏屈な人でもない限り、この演奏を聴けば、その鋼のような演奏スタイルに大きく唸らざるを得ないだろう。
なお、私はブルックナーのかなり熱心な愛好家である。が、その私も第3交響曲の第4楽章における楽想転換には唐突すぎて辟易する。その意味では難曲である。しかし、セルの演奏で聴くと、辟易している暇もなくガンガン攻められてしまう。演奏終了後には、セル渾身の爆演にふさわしい割れんばかりの拍手。難曲であるこの曲を演奏して、ザルツブルク音楽祭に集まった耳の肥えた聴衆(?)を熱狂させるのだから、すごいとしか言いようがない。これはブルックナーが苦手な人にもお勧めできる交響曲第3番の名盤だと思う。
録音は、モノラル録音である。が、すばらしい音質だ。大変鮮明で、聴きやすい。ORFはよほど上手にマイクをセッティングしたのであろう。モノラルだからということで敬遠する人がいたら、もったいない。
なお、国内盤解説によると、セルはブルックナーの第3番を取り上げた同じコンサートで、ベートーヴェンの「エグモント」序曲とピアノ協奏曲第4番を演奏している。また、1961年にもザルツブルク音楽祭で当団を指揮している。これはオール・ベートーヴェン・プロで、「コリオラン」序曲、ピアノ協奏曲第5番、交響曲第5番を演奏している。SONYあるいはORFEOがCD化してくれないものか。
(An die MusikクラシックCD試聴記)