ブロムシュテットのブルックナー

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CDジャケット

ブルックナー
交響曲第7番ホ長調
ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1980年6月30〜7月3日、ルカ教会
DENON(国内盤 COCO-7073)

 ブロムシュテットはカペレ在任中少なからぬ録音を行った。ベートーヴェンとシューベルトの交響曲全集はその一大成果であったが、残念ながら、ブロムシュテットがカペレ在任中に録音したブルックナーは、この7番と4番「ロマンティック」の2枚にとどまった。しかし、その2枚はいずれもカペレの録音史上の中でも屈指の出来映え。ブロムシュテットの代表盤であるばかりでなく、ブルックナーのディスコグラフィーに特筆大書されるべき名演である。ベートーヴェンとシューベルト全集を作ったその勢いでブルックナーの全集が完成されていれば、世界中のブルックナーファンが欣喜雀躍したであろう。

 このCDで聴くブルックナーは、燦然と輝く。何という輝かしさだろうか。ブロムシュテットはR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」で渋さの極みとも言える地味な演奏(さりながら非常な名演)を聴かせたが、同じ指揮者の、同じレーベルにおける録音とはとても思えないほどの豹変振りだ。このブルックナーにおいても「英雄の生涯」同様渋い演奏をすることが十分可能だったはずだが、ブロムシュテットは私のような素人考えに反し、R.シュトラウスで渋く、ブルックナーではネアカなサウンドを指向したようだ。

 それにしても、オケのサウンドはくすんだ燻し銀どころか、目映いばかり。その美しさは息を呑むほどで、カペレの神髄を見る思いがする。その美しさは、カラヤン指揮のベルリンフィルのような冷たい響を伴う美しさとは違い、冷たさを感じさせない。金管楽器が華やかに鳴り響く曲なので、いやでも金管楽器の音色が気になるところだが、最強音においても威圧的にならない。解説で小石忠男さんはブロムシュテットの言葉を次のように紹介している。

この楽団はピアニッシモからフォルテッシモまでの幅がきわめて広い。それからほかのオーケストラでは、どうしても最強音が金属的となって、鋭い感じをつくるが、シュターツカペレ・ドレスデンの連中は、むかしからそのことを嫌っている。彼らのフォルティッシモは、音の重さとまろやかさ、あたたかさを表現するフォルティッシモである。それは線ではなく、個体のようである....

 全くそのとおりだ。このCDを聴けば、ブロムシュテットの言葉が誇張でないことが分かるであろう。ブロムシュテットはそのようなオケの充実した響きを引き出しながら、大変丁寧な音楽作りをしている。作為的なスタイルは取らず、いわゆる自然体。これだけの音色を得ていれば、あとはブルックナーのスコアを忠実に再現すればよい。どの楽章においても壮麗、荘重なブルックナーを楽しめるだろう。第1楽章は朝日が昇るオーストリアの山並みを彷彿とさせる爽やかさだし、第2楽章は重厚なアダージョを丹念に歌い上げる。第3楽章スケルツォは剛毅な姿をくっきり浮かび上がらせている。そして規模的には小さいはずの第4楽章は豪快に鳴り響き、ブルックナーの偉容に接することができる。これはオケの響きを聴くだけでも最高のCDであるが、ブルックナーを鑑賞する際にも忘れてはならないCDだ。カペレは東ドイツの雄として古き良き時代のブルックナーサウンドを維持してきたらしい。技術的にも精緻極まりないアンサンブルが花を添えている。当時カペレが最高の状態にあったことを如実に示すCDである。皮肉なことだが、社会主義という枠があったればこそ、このような録音を今耳にできる。歴史の貴重な証言であろう。

 DENONの録音は明るく燦然と響き渡るブルックナーサウンドを完璧に捉えている。歪みのない最高のデジタル録音が最高のサウンドを刻んだ希有のCDである。「英雄の生涯」は渋すぎるので、一般受けはしないと思うが、このブルックナーは1枚目に買うブルックナーとして大推薦だ。DENONの録音の中でも屈指の出来映えだろうから、このCDが廃盤になることは今後ともあり得ないだろう。

 

2000年6月23日、An die MusikクラシックCD試聴記