親子で楽しむクラシック音楽

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 我が家の女房さんは、「伊東さんのご主人は、クラシック音楽がお好きなんですって?いいですねえ。クラシックを聴くと落ち着くでしょ?」などと言われることがあるそうだ。そう言われるたび、女房さんは複雑な気持ちになるらしい。全く気の毒な女房さんである。クラシック音楽は、結構うるさい。やかましい。オーケストラ曲は壮大で、とても親子でお茶をするときになど聴けたものではない。

 「おとうさん、いくらクラシック音楽が好きだからって、いつもうるさいのばかり聴くのはやめてよ!ブルックナーとか、ワーグナーとかしかないの?たまにはかわいい曲にしてよ!」

 こんな会話が行われているのは、きっと私の家だけではないだろう。このページを読んで下さっているあなたの家でも同じことが起きているはずだ。家族の不満が高じているときには、懐柔策を採らなくてはいけない。おとうさんたるもの、危急存亡のときに備え、いくつかかわいいCDを用意しておかねばならない。そうでなくては激烈な家庭内闘争を生き抜けないのである。

 さて、どんなCDがよいか。ものすごくマイナーなCDだが、こんなものがある。

CDジャケット

PAS DE DEUX
Romantic flute music
フルート演奏:エッカート・ハウプト
ピアノ演奏:アルカディ・ゼンジペル
録音:1991年、ルカ教会
BERLIN Classics(輸入盤 BC 1039-2)

収録曲

  • フリードリッヒ・クーラウ(1786-1832):序奏とロンド・コンチェルタント 作品98
  • フンメル(1778-1837):フルートソナタ ニ長調作品50
  • カミーヨ・シューマン(1872-1946):フルートソナタ ト長調作品123
  • ショパン(1810-1849):フルートとピアノのための変奏曲
  • モシュコフスキー(1854-1925):スペイン舞曲 作品12

 地味な作曲家のフルート曲ばかりを集めた地味なCDである。フルート奏者の世界では有名曲ばかりなのかもしれないが、私はこのCDを手にするまでほとんどの曲を知らなかった。

 しかし、知らない曲があるということは幸せなことだ。私はこのCDを聴いてとても幸せな気持になった。どの曲も本当に楽しい。ショパンの作と伝えられる変奏曲など、実にかわいらしい。これは、ロッシーニのオペラ「シンデレラ」の中の「もう悲しくなく」の旋律をもとにしたわずか5分あまりの短い曲である。発掘されたのは1955年で、ショパンの作ではないとも言われているようだ。が、ショパンの作でなくとも私はいっこうに構わない。楽しい音楽であればそれで十分だと思う。続くモシュコフスキーの「スペイン舞曲」(原曲はピアノ連弾)も憂いに満ちていて思わずうっとり。さすがにこのCDは「Romantic flute music」と謳っているだけあって、ロマンチックな気分にさせてくれる。もちろん、いつも壮大な音楽ばかり聴かせられてきた女房さんもニンマリ(*^-^*)。我が家のコーヒータイムにはこのCDのリクエストが増えてきた。

 こうしたサロンミュージック的な曲集は、一歩間違うと空虚な演奏になり、市場からあっという間に消えていってしまう。特に、地味な奏者が地味な曲を演奏し、地味なレーベルから発売される場合、廃盤の憂き目に遭わされる確率が高い。このCDは1992年に発売されたらしいが、細々とではあっても市場で生き残ってきた。なぜか。やはり演奏がいいからだろう。フルートの音色も技術も冴え渡っている。このフルート奏者の実力を知る人が密かにこのCDを買っているのだろう。音質も優れているから、もし輸入盤を扱う店でこの曲を手にしたら、迷わずに買うことをお勧めする。BERLIN Classicsは目立たないレーベルながら、優れた録音を紹介し続けている。大変好ましい。

 

練習中のエッカート・ハウプト さて、ここでフルート奏者の紹介をしよう。
エッカート・ハウプト(Eckart Haupt)
という。え?そんな人知らない?
ハウプトはシュターツカペレ・ドレスデンのフルーティスト(Solofloetist,Kammervirtuos)。ドレスデンの音楽大学で学び、1981年より当団に在籍。ヨハネス・ワルター教授、アルント・シェーネ教授と並ぶ首席奏者の一人である。1970年からドレスデンの音楽大学で教えはじめ、89年より教授となっている。ヨハネス・ワルター教授も、シェーネ教授もかなり高齢になってきているが、ハウプト教授はまだまだ若い(生年不詳。ご存知の方はご一報下さい)。これからのフルート軍団を支えるのはまず間違いなくこの人だ。シュターツカペレ・ドレスデンの前にはドレスデンフィルで首席を務めていた。ドレスデンフィル時代からハウプトの実力は抜きん出ていたようで、録音も多い。大バッハ、C.P.E.バッハ、ビバルディ、テレマン、モーツァルトなど、さまざまな曲の録音を残している(BERLIN Classics及びCapriccioレーベル)。私も全部でどれだけあるのか把握していない。ただ、その録音を聴くと、澄み切った音色に陶然となる。ワルター教授、シェーネ教授がビブラートのやや強い吹き方をするのに対し、ハウプト教授のビブラートはごく控えめ。私は3人の首席の中でハウプト教授の音色が最も美しいと思う。そんな人が録音した「Romantic flute music」。悪い演奏のはずがない。

 CDのジャケットに使われている写真はどれもぱっとしない。写真写りが悪いようだ。舞台上で見るハウプト教授はとても精悍に見えるのだが...。 


 ハウプト教授のCDは他にもある(随時追加)。

 

2000年3月23日、An die MusikクラシックCD試聴記