クレンペラーの自作自演
マーラー
交響曲第7番ホ短調
録音:1968年9月
クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管
クレンペラー
交響曲第2番
クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管
録音:1969年11月
弦楽四重奏曲第7番
フィルハーモニア弦楽四重奏団
録音:1970年2月
EMI(輸入盤 CMS 7 64147 2)クレンペラーが作曲家でもあったことは現在ほとんど知られていない。在世中も作曲家として有名だったわけではない。したがって、クレンペラー自身が残したこのCDがなければ、クレンペラーが作曲した音楽を知ることは難しい。しかも、それもだんだん危なくなってきた。まだ輸入盤ではこのようにマーラーの交響曲第7番とのカップリングで入手できるものの、国内盤は廃盤になっている。EMIがグランドマスターシリーズでマーラーの交響曲第7番(国内盤)の余白用として選んだのはマーラーの「5つの歌」で、これが余白の曲とは思えない逸品なので、あえてこのクレンペラーの自作自演を聴くために輸入盤を買おうとする人は少ないだろう。ただ、将来的にはこの輸入盤も利益を考えてカップリングを変えてしまうかもしれないから、ファンは今のうちに入手しておくべきだ。
クレンペラーは生涯に交響曲を6曲、弦楽四重奏曲を9曲、歌曲を約100曲作ったそうだ。哀れなことに、どれもほとんど演奏されていない。この現状には、さしものクレンペラーも落胆しているかもしれない。
交響曲第2番。CDの解説によると、1967〜69年に作曲され、1969年9月30日にクレンペラーとニュー・フィルハーモニア管によって初演されたという。スコアはどうしようもないクソ親父であったクレンペラーを終生にわたって世話した愛娘のロッテに献呈されている。
構成は古典的な4楽章編成。第1楽章Allegro、第2楽章Adagio、第3楽章Scherzo、第4楽章Finaleとなっている。作曲が1960年代だから、かなりハードな現代音楽かと思っていたが、意外と聴きやすい。第4楽章に12音技法が使われているものの、「何じゃこりゃあ」となることもない。それどころか、なかなか面白い。 第1楽章冒頭だけややハードなのだが、すぐにマーラー風の音楽に変わる。というよりも何となくハリウッド映画の音楽に近いと思う。まさかクレンペラーが映画音楽っぽく作ったとは思えないが。事実は逆で、ハリウッドがクラシック音楽をやたらめったら切り張りして使っているだけなのだ。最近のハリウッド映画は現代音楽の作曲家の曲を巧みに使っているから、密かにこの録音が使われても全く違和感がないだろう。ある場所では壮大で、ある場所では皮肉っぽく、ある場所では運鬱で、またある場所では抒情的だ。こうした様々な要素をわずか25分ほどの間にちりばめてしまうところは、さすがにマーラーの弟子と言うべきか。この曲がなくなってしまわないことを切に祈りたい。
弦楽四重奏曲第7番。1968〜70年に作曲。1970年5月19日、バルトーク弦楽四重奏団によって初演。この録音は1970年2月に行われているから、初演以前にクレンペラーは完全な演奏を耳にしたことになる。この曲もまた伝統的な4楽章構成なのだが、第1楽章Fuga(Moderato)、第2楽章Scherzo(Vivace)、第3楽章Intermezzo(Alla marcia)、第4楽章Adagioとなっている。Adagioを最終楽章に持ってくるところなど、何となく恩師の影を感じずにはおれない。12音技法は第1楽章で使われている。クレンペラーは弦楽四重奏曲というベートーヴェンが得意にしたジャンルで9曲も手掛けたわけだから、並々ならぬ熱意が込められているのだと私は思う。緊張感の漂うクレンペラーらしい曲だと思う。しかし、私はまだこの曲を良く理解できていない。クレンペラーが表現しようとしていることをつかみきれないのである。将来聴き直して、理解できたら、またこのページを改訂したいと思う。
An die MusikクラシックCD試聴記、1999年掲載