クーベリックのマーラー交響曲第2番を聴く
マーラー
交響曲第2番
クーベリック指揮バイエルン放送響
ソプラノ:エディット・マティス
アルト:ブリギッテ・ファスベンダー
録音:1982年10月8日、ミュンヘン・レジデンツ
audite(輸入盤 audite 23.402)今年、auditeからはクーベリックが1975年の来日時に東京文化会館で行ったマーラーの9番が発売されている(audite 95.471)。読者の中には、「なぜあのCDが登場しないのか?」と訝る向きもあるだろう。実際、私も繰り返し聴いた。が、どうしても音楽に没入できなかったのである。あの演奏は記念碑的な演奏らしいが、オケのミスが目立ちすぎて、私は音楽に集中できなかったのである。多分東京文化会館で聴けば、ものすごい演奏だったとは思うのだが、CDで聴くと、あらが目立っていけない。断っておくが、私は、間違い探しをするために音楽を聴いているのではない。自分は、少々のキズがあろうとも、演奏の流れさえよければ、十分音楽を楽しめる聴き手だと思っていた。しかし、大好きなバイエルン放送響が、ぼろぼろ(すみません!)の状態をCDで繰り返し聴くに及んで、私は辛くなり、ついにCDを封印してしまった。聴き手としての自分がいかに未熟なレベルにあるかを思い知らされた事件であった。将来聴き直してみて、再評価できる時期が必ず来るとは思うが。
そのような経験があったため、今回交響曲第2番のライブ盤が発売されるというニュースは、私を期待半分、不安半分にさせた。結果的には、期待を大きく上回る見事な出来映えになったけれど。もちろんCDショップでは、この演奏を褒めちぎり、大々的にセールスをしている。ただ、どうもクーベリックの激しい音楽作りを書きたてているだけのようが気がするので、私としては一石を投じたい。
この演奏、オケ部分だけを聴けば、集中力の勝利ともいえるのだが、聴き所は声楽が入る部分ではないかと思われるからだ。当然、聴きものはDISC 1(第1楽章から第3楽章を収録)ではなく、DISC 2(第4楽章、第5楽章を収録)である。
クーベリックはバイエルン放送響在任中、声楽を含む大曲を次々と手掛けた。マーラーの交響曲第2番はその大曲のひとつだが、クーベリックが声楽の扱いにいかに長けていたか、このCDが如実に物語っている。ソプラノやアルトの歌はみずみずしく、合唱団の深みのある演奏ぶりはライブとは思えないほどの完璧さだ。第4楽章の「原光」では、ひんやりとした空間にアルトの清澄な声が響き渡り、それにオーボエの伴奏が付くのだが、これが「あれ?私は今CDで聴いているのだろうか?」と錯覚させるほどの臨場感だ。美しさも比類がない。さらに、第5楽章。クーベリックは大編成のオケをかき鳴らした後、静かに合唱を指揮し始めるのだが、これはずっと弱音の世界。合唱団はピアニッシモの中で、まるで乱れのないアンサンブルを聴かせる。その声量の幅といい、表情といい、文句なし。トランペットが入ってきて、オケとのからみが始まる頃までに、クーベリックは合唱だけで聴衆を唸らせている。これだけ声楽陣が優秀で、オケが精緻なアンサンブルを聴かせることができるのであれば、後は指揮者の力量がものを言う。合唱はソリストを交えて大きく波打つように拡大し、感動の終結をみる。
しばらく私はマーラーの交響曲第2番を聴いて感動したことはないが、このCDには大変な感銘を受けた。特に、第4楽章、第5楽章の出来映えは、クーベリックの最善の姿を映し出すものとして長く記憶されてしかるべきである。
なお、音質も万全。やや残響が多いような気がするが、オケの妙技が堪能できる。また、夜中にボリュームを絞って聴いても十分楽しめた。マイクの設置が良かったことや、マスターテープが上手に作成され、しっかりと管理されてきたことの証明である。
松本さんの試聴記はこちらです。
An die MusikクラシックCD試聴記 2000年12月25日掲載