シューマン交響曲第3番「ライン」聴き比べ

文:松本武巳さん

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1. ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
   録音:1964年

CDジャケット

UNIVERSAL MUSIC AUSTRALIAオーストラリア盤
(463 201-2 ELOQUENCE)

CDジャケット

DGドイツ盤
(429 520-2 RESONANCE)

CDジャケット

Polygram France フランス盤
(437 395-2)

CDジャケット Polygram Records アメリカ盤
(437 395-2)
 

2. バイエルン放送交響楽団
   録音:1979年

CDジャケット

CBSソニー国内盤
(75DC 840-2)

CDジャケット

ソニー・クラシカル国内盤
(SRCR 1733-40)

CDジャケット

CBS ODYSSEYアメリカ盤
(MBK 42603)

CDジャケット

SONY CLASSICALオーストリア盤
(SBK 48270)

 

■ 今回の執筆動機

 

 私とクーベリックのディスクでの出会いが、BRSO(バイエルン放送響)とのシューマンであることを、皆様へのご挨拶として書かせて頂いた。ところで、シューマンの交響曲全集には、BRSOとのCBS盤より15年くらい前の正規録音であるベルリン・フィルとのもの(DG)が存在し、これはこれでステレオ初期の名盤として、今もなお聞き続けられているし、相当多くのリスナーが、むしろこのBPO(ベルリンフィル)との旧盤の方を上位に置かれていることは承知している。そこで、今回は、第3番「ライン」で両者の聴き比べをしてみたいと思う。

 

■ ベルリン・フィルとのDG盤

 

 実は、私は、出会いの件に関わらず、客観的には(もっとも音楽に限らず、評論には本質的に客観的なものはありえないが、あえてそう言えば)BPOとの旧盤の方が万人に受け入れられる余地の大きなディスクであると思っている。それは、以下のように考えるからに他ならない。

 第一に、ドイツ音楽の伝統的なスタイルを堅持した、堅実な側面があり、かつ浪漫派シューマンの本領たる独特の味(フレーズの表現方法[特に連結技法]が彼独自である故に、管弦楽的手法が稚拙であると批判される部分を、逆に肯定的にとらえた場合の味)も表出し得ていること。

 第二に、機能的に世界最高峰に位置するBPOを操った演奏であり、細部まで緻密に練り上げられた好演となっており、まさにオーケストラの演奏を聴く醍醐味を満喫できること。

 第三に、元々、クーベリックは何故かBPOとの相性が良いこと。

 第四に、クーベリックの個性を表面上は抑えて表現している演奏であること。その結果として、ドイツの大河「ライン」を一般的に我々が思い浮かべるイメージに、近似していること。

 要するにドイツのオケBPOのイメージと、ドイツ浪漫派の旗手シューマンのイメージと、標題音楽としての「ライン川」のイメージの三つが見事に重なるまさにその点が、BPOとの「ライン」ひいては、シューマン交響曲全集の評価の高い点であろう。

 

■ バイエルン放送響とのCBS盤

 

 さて、BRSOとの新盤の評価が割れるのは何故であろうか? それは、クーベリックが長年手塩にかけたBRSOとの最後の仕事の一つ(音楽監督在任中の)であるためか、彼にしては珍しく、シューマンの音楽より前に、彼の個性が強く出ている面が強いことに尽きると考える。そのために、クーベリックのファンは一般的にこの新全集を受け入れ、単に良いシューマン全集を聴きたいと考えて、全集をチョイスする向きには、必ずしも高い評価を得られない側面があると言える。その最も顕著な演奏が第3番「ライン」であると思われる。一般に標題音楽を好み、その表題をイメージして聴く傾向の顕著な日本人には、極端な場合「ライン」ではなく、この録音は「モルダウ」に聴こえてしまうのかも知れない。新録音は、全体に引っ張り、粘る、そんな棒捌きが随所に見られる。確かに冷静に聴くと、少ししつこく、くどく、重い演奏内容と言える。そのような箇所を例示すれば、特に付点のリズムを相当強調し、さらにアクセントを強調する指揮振りが、聴き流していても感じ取れるところ(特に第一楽章の後半や、なんと言っても第二楽章。ここは下手をすれば流れが淀んでいるとすら言える。ただし、終楽章は意外なほどに穏健である)は客観的な評価が割れる主原因と言えよう。

 

■ まとめと私見

 

 まとめてみよう。BPOとの「ライン」は、BPO=ドイツ音楽=シューマン>クーベリックのようになろうか。一方、BRSOとの方は、クーベリック>シューマン>BRSOとなり、極端に言えばドイツらしさは、BRSOというオーケストラが、バイエルン地方といえども一応ドイツの一部であることだけに留まっている。結局、誰もが一定の高い評価を与えるBPOとの「ライン」に対し、一部の熱烈な信者を生み出すものの、平均値ではBRSOとの新盤は劣ってしまうのが、結論と言える。

 しかし、である。この「ライン」がクーベリックへの思い入れの強さを測るリトマス紙となっていると言えるかも知れない。それ故、両方ともに大事なクーベリックの「ライン」となり得ている。ただし、目的・効果に応じて評価の基準が変容することは本来避けられないことである。私の個人的感想から言えば、15年も録音の時期がずれている上に、オーケストラも、レコード会社も違った、この両録音ともに、かけがえのないクーベリックの足跡の1ページたり得ているので、本当に両方ともに聴くことが出来て幸せであったと思っている。

 

An die MusikクラシックCD試聴記 文:松本武巳さん 2003年7月29日掲載