クーベリック指揮でウェーバーの歌劇「オベロン」を聴く

文:松本武巳さん

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カール・マリア・フォン・ウェーバー
歌劇「オベロン」

LPジャケット

DG(輸入盤 2709 035)3枚組LP=完全全曲盤

LPジャケット

DG(輸入盤 2726 052)2枚組LP=台詞カット盤

CDジャケット

DG(輸入盤 477 564 4)2枚組CD(全曲)

ラファエル・クーベリック指揮
バイエルン放送交響楽団・合唱団
ニルソン(S)、ハマリ(Ms)、ドミンゴ、グローベ(T)、プライ(Br)
録音:1970年3、12月、ミュンヘン・ヘルクレスザール

 

■ ウェーバーの実質最後のオペラ

 

 カール・マリア・フォン・ウェーバー(1786‐1826)が、ロンドンのコヴェントガーデン歌劇場のために書いたオペラで、彼の事実上最後のオペラ作品である。全3幕のオペラで、ジングシュピールの形を取っていて、語りの部分をクーベリックは専門の俳優を充ててやり取りさせている。音楽自体は、如何にもワーグナーの先駆者ウェーバーらしく、明確なドイツ風にまとめられている。全体の構成は、後述するように不満足なものであったが、魅力的な音楽自体のおかげで、何とか現代まで生き残っているそんなオペラである。

 

■ オベロンとは何者か

   近年はゲームの世界で名前を結構知られているが、出自としては決して間違ってはいないと思われる。オベロンは妖精の王とされ、身長1メートルほどの小人である。源流はメロヴィング朝の魔術師アルベリヒ、あるいは中世ドイツ叙事詩に登場する道化アルベリヒとされているようだ。オベロンは13世紀フランスの「ユオン・ド・ボルドー」に初めて登場し、作中では主人公ヒュオンを助ける存在として「魔法の笛」と「魔法の杯」を与え、度重なる困難を克服する。シェイクスピアの戯曲「夏の夜の夢(真夏の夜の夢)」では妖精の王として登場して、妖精パックの悪ふざけを見て喜んだり、羊飼いに化けて人間の女性に絡んだりするなど、かなりの放埓な性格の持ち主とされているようだ。
 

■ 台本が支離滅裂なために

 

 音楽自体とは裏腹に、台本の内容は首尾一貫しない支離滅裂な筋書きになっており、そのため仮にドイツ語の理解力があったとしても、聴いているだけで筋書きが理解できるような流れになっていないという、かなり大きな欠点があるオペラでもある。また台詞がとても長いために、音楽の聴き手がだんだんと集中力を削がれてくる場合すらあるので、この台詞部分を録音する場合にどのように扱うかは、かなり大きな問題となるであろう。ちなみに、後年英語版で収録したガーディナーは、自身のナレーションによって全体の流れや場面を説明する形式をとっており、聴きやすさの面から捉えるならば、この方が確かに好ましいと言えるだろう。

 この原因の最たるものは、原作である劇作家ヴィーラントの詩「オベロン」をもとに、英訳の台本を担当したイギリスの文献学者ジェームズ・ロビンソン・プランシェの責任であるとみなされており、そのせいで再演が少ないとまで言われているのである。ただし、病を押して作曲者ウェーバー自身が初演の指揮を執り、結果的に序曲を含めたすべてのナンバーがアンコールされるという大成功を収めたのだが、初演から2ヶ月も経たない間に、ウェーバーはドイツへの帰途前日に亡くなったのである。

 

■ 有名な序曲に対し、ほぼ忘れ去られたオペラ

 

 結果的に、序曲は今なおとても著名ではあるが、オペラ全体はほぼ忘れられかけたものになっている。ところが、上演回数や録音状況を調べてみると、実はウェーバーの作品全体の演奏頻度が落ちてきており、有名な魔弾の射手にしても有名な割に全曲盤のディスクは決して多くないのである。流行からやや遅れ気味になっているような感がぬぐえないが、実にみずみずしいウェーバーの作品群が、仮に過去のものとして忘れ去られるとすれば、余りにも惜しいように思うのである。そろそろウェーバーのオペラが復権するきっかけが何かあらわれて欲しいと念願している。

 

■ 実は2種類存在するクーベリック盤

 

 初発売は、LP3枚組ボックスセットで発売されたが、台詞部分を専門の舞台俳優を用いて録音したものの、当初からの予想通りではあったが、どうしても一定の冗長さから抜け切れず、ドイツグラモフォンはしばらくすると、オペラ進行上で必要な台詞以外の台詞をカットし、LP2枚組にて再発売したのである。

 こちらの、台詞カット盤はオペラ全体がとてもキビキビと進行しており、確かに冗長さを回避できてはいるのだが、一方で音楽のつながりが多少唐突になってしまい、あちこちでプッツリ途切れたようになってしまう感が、今度は拭えなくなるのである。まさにクーベリックの全曲盤は、優れた指揮内容であるにもかかわらず、商品としては「帯に短し襷に長し」状態に陥っているのだ。

 なお、クーベリックの指揮ぶりであるが、決して無難に全体をまとめたような堅実な内容ではなく、実にしなやかな柔軟な指揮ぶりであり、彼の指揮棒から紡ぎだされるとても繊細な音楽は、見事なまでに音の抜けの良い全体のスマートさも十分に持ち合わせた、その一方で題材自体を意識した幻想性にも秀でているもので、本当に見事な指揮である。個人的には、名盤の誉れ高い「魔弾の射手」全曲盤よりもさらに優れた指揮ぶりであり、名指揮者クーベリックのウェーバー作品への適性が見えてくる、クーベリックのオペラ指揮者としての代表作の一つであると考えている。

 

■ 全曲盤の6年前に録音したウェーバーの序曲集

 

  クーベリックは、ドイツグラモフォンとの契約上、それまでベルリン・フィルを用いて録音していたのだが、1964年からようやく手兵バイエルン放送交響楽団を用いて録音を開始した。そのほぼ最初の一枚に、ウェーバーの序曲集があったのである。この序曲集は、オペラ全曲盤とは異なり、始終再発売を繰り返しており、例えばカラヤンとベルリン・フィルによる同様の企画である序曲集とともに、広く知られている名盤である。特にオベロンの序曲は、ここで紹介した全曲盤以上に優れた演奏を聴くことができると言えるだろう。現役盤であるので、ここではあえて細かい評論を控えるので、できれば聴き比べていただきたいと念願する。

 また、ウェーバーがかつて1817年からザクセンの宮廷楽長であったこともあり、ドレスデンに於いては今でも多くの上演がなされているようだし、序曲集の録音なども時々発売されており、所縁の地での人気度や重要度は今なお維持されていると言えるだろう。加えて、ドレスデン所縁の指揮者たちが、ドレスデン以外のオーケストラを用いる場合も含めて、たとえば、サヴァリッシュ、スウィトナー、シノーポリらが序曲集を録音し、現在のシェフであるティーレマンも、ウェーバーを積極的に取り上げようとしているようなので、近年ウェーバーの人気が落ちつつあるとはいえ、決して将来を悲観するほどではなく、今後の推移を落ち着いて見守りたいと思っている。

 

(2018年11月30日記す)

 

An die MusikクラシックCD試聴記 2018年11月30日掲載