「名盤の探求」

例6 コンパクト・ディスク

文:青木三十郎さん

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CDジャケット

・ラヴェル:ボレロ
・ドビュッシー(ラヴェル編):サラバンド
・ドビュッシー(ラヴェル編):舞曲
・ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」
リッカルド・シャイー指揮コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1986年8月 コンセルトヘボウ大ホール、アムステルダム
デッカ (輸入盤CD:417 611-2 =1987発売)

 さて、CD時代になってから制作されたアルバムは創意工夫がなく聴きごたえもない凡作ばかりかというと、もちろんそんなことはありません。ジャケットの小ささやプラケースの味気なさはしかたないとして、肝心の音楽の内容に関しては手抜きせず、拡大された収録時間を活かしたりしてLP時代にはなかったようなアイデアを凝らした名盤もいろいろあります。

 身近なところで思い浮かぶのは、デッカのアンドルー・コーナルがプロデュースしたリッカルド・シャイーのCD。意表をつく曲のカプリング(ブラームスやマーラーなど)、異稿を使った二種類の全集(シューマン交響曲)、秘曲だけを集めた『ディスカバリー』シリーズ(プッチーニやロッシーニなど)、『ジャズ・アルバム』『ダンス・アルバム』『フィルム・アルバム』のショスタコ珍曲三部作、わざわざ専門家にスコアの校訂を委嘱したヴァレーズ全集、などなど他にはないようなアルバムが目白押し。

 この傾向の萌芽は、コンセルトヘボウ管とのファースト・アルバム(録音上は二番目)である当盤にあったと思います。ドビュッシーの小品二曲と「ボレロ」とがフィルアップされた「展覧会の絵」メインのディスクかと思わせながら、その実テーマはモーリス・ラヴェルなのでした。曲順もジャケットの曲名表記も「ボレロ」が最初に置かれているし、二種類ある輸入盤ブックレットの裏表紙に掲載されている写真を見ても、ひとつはラヴェルのポートレート、もうひとつはコンセルトヘボウ大ホールのバルコニーに掲げられた作曲家名プレートのうち”RAVEL”の後ろでポーズをとるシャイー。ムソルグスキーはお呼びでないのです。そしてじっくり構えた緻密な演奏も、ジョン・ダンカーリーによる鮮烈な録音も、じつに丁寧に取り組まれているようで、全体としてまさに一級品の風格と個性を持つアルバムに仕上がっている。LP時代なら「展覧会」と「ボレロ」だけで時間切れなので、これもCDならではの企画といえるでしょう。

 このアルバム、実はコーナルではなく別のプロデューサーの作品です。個性的なディスクを作りたいというのはシャイー自身の意図でもあることを伺わせるインタビューを、かつてご紹介しました。この後もシャイーとコーナルは、まぁ演奏内容は好みが分かれるでしょうけど、アルバムとしての個性と音質面については文句なくハイ・クオリティなCDを連発していきます。それまでデッカの〔顔〕のひとつだったショルティ&シカゴ響のコンビのディスクがライヴ録音主体となって演奏にも音質にも魅力を失っていったのとは対照的。これを世代交代と片づけるのは簡単ですが、レコード会社にとっても〔その時点の演奏記録集〕ではなく〔後世に残る作品〕を創ろうとする演奏家のほうが重要だという時代になっているのではないでしょうか。シャイーと同様にメジャー・レーベル専属としてしぶとく生き残ってきた指揮者――ラトル、アーノンクール、MTTら――にも共通するものを感じます。

 

2009年6月7日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記