「コンセルトヘボウのシャイー」CD目録
■はじめに
これはリッカルド・シャイー指揮コンセルトへボウ管弦楽団のディスコグラフィです。こんなものを作るよりも他にやるべきことがたくさんあるのは承知しておりますが…。先日(2002年11月)の来日公演が期待を上回る素晴らしさで、その感激に勢いづいて一気に作成してしまいました。しかしおそらくこういうものは誰も作ろうとは思わないでしょうから、他では見られないと考えられ、そういう意味では貴重かも知れません。
リストは国内盤の発売順に並べました。データはレコ芸等ではなくCD本体の記載に基づいており、International releaseの月についてはデッカのHPにあるシャイーのディスコグラフィに基づいています。また原則として正規盤のオリジナル・アルバムのみを対象とし、編集盤やブートレグは一部を除き掲載しておりません。
【略語凡例】
P: Producer
E: Engineer
BE: Balance Engineer
LE: Location Engineer
TE: Techinical Engineer※デッカのLP・CDでは、かつては「エンジニア」のみの表記だったものが、90年代中頃から「バランス・エンジニア」「ロケーション・エンジニア」などに区分された表記になりました。実際の役割分担そのものが細分化されたためか、単に表記が丁寧になっただけか、そのあたりは不明です。
「コンセルトヘボウのシャイー」全録音
No.1
1)ラヴェル:ボレロ
2)ドビュッシー:ピアノのために〜サラバンド(ラヴェル編)
3)ドビュッシー:舞曲(スティーリー風タランテラ)(ラヴェル編)
4)ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編)No.2
1)フランク:交響曲ニ短調
2)フランク:交響的変奏曲No.3
1)ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」
2)ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」No.4
1)ブラームス:交響曲第1番
2)ブラームス:大学祝典序曲No.5
チャイコフスキー:マンフレッド交響曲
No.6
ブルックナー:交響曲第4番(ノーヴァク版)
No.7
1)ベリオ:フォルマツィオーニ
2)ベリオ:フォーク・ソング
3)ベリオ:シンフォニアNo.8
1)ツェムリンスキー:メーテルランクの詩による6つの歌曲
2)マーラー:交響曲第6番「悲劇的」No.9
1)ウェーベルン:夏風の中で
2)ブラームス:交響曲第2番No.10
1)シューマン:交響曲第1番「春」
2)シューマン:交響曲第4番No.11
1)ワーヘナール:序曲「じゃじゃ馬ならし」
2)ワーヘナール:交響詩「サウルとダヴィデ」
3)ワーヘナール:序曲「十二夜」
4)ワーヘナール:歌劇「エル・シッド」序曲
5)ワーヘナール:序曲「アンフィトリオン」
6)ワーヘナール:ワルツ・チクルス「ウィーンの3/4拍子」
7)ワーヘナール:序曲「シラノ・ド・ベルジュラック」No.12
1)シュニトケ:合奏協奏曲第3番
2)シュニトケ:合奏協奏曲第4番(交響曲第5番)No.13
1)ブラームス:交響曲第4番
2)シェーンベルク:管弦楽のための5つの小品(改訂版)No.14
ヒンデミット:室内音楽全集
No.15
1)ショスタコーヴィチ:ジャズ組曲第1番
2)ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番
3)ショスタコーヴィチ:ジャズ組曲第2番
4)ショスタコーヴィチ:タヒチ・トロットNo.16
リスト:ファウスト交響曲
No.17
1)ブラームス:交響曲第3番
2)シェーンベルク:室内交響曲第1番No.18
1)シューマン:交響曲第2番
2)シューマン:交響曲第3番「ライン」No.19
メシアン:トゥランガリーラ交響曲
No.20
ブルックナー:交響曲第5番(ハース版)
No.21
ブルックナー:交響曲第2番(ハース版)
No.22
1)モソロフ:鉄工場
2)プロコフィエフ:交響曲第3番
3)ヴァレーズ:アルカナNo.23
21世紀への音楽〜マーラーからシュニトケまで〜
シャイー/コンセルトヘボウ管サンプラーNo.24
1)リムスキー=コルサコフ:シェエラザード
2)ストラヴィンスキー:幻想的スケルツォNo.25
1)ツェムリンスキー:抒情交響曲
2)ツェムリンスキー:交響的歌曲No.26
1)ウェーベルン:夏風の中で
2)シェーンベルク:室内交響曲第1番
3)ウェーベルン:パッサカリア
4)シェーンベルク:管弦楽のための5つの小品(1949年版)No.27
1)ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ(1947年版)
2)ストラヴィンスキー:プルチネルラ(全曲)No.28
1)ディーペンブロック:大いなる沈黙の中で
2)マーラー:交響曲第7番「夜の歌」No.29
1)マルタン:フルート、ピアノと弦楽のためのバラード
2)マルタン:サクソフォーン、ピアノと管弦楽のためのバラード
3)マルタン:ピアノと管弦楽のためのバラード
4)マルタン:トロンボーン、ピアノと弦楽のためのバラード
5)マルタン:7つの管楽器、ティンパニ、打楽器と弦楽のための協奏曲No.30
1)ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲
2)ワーグナー:「ヴァルキューレ」〜ヴァルキューレの騎行
3)ワーグナー:「神々のたそがれ」〜ジークフリートのラインへの旅
4)ワーグナー:「神々のたそがれ」〜ジークフリートの葬送行進曲
5)ワーグナー:「タンホイザー」序曲
6)ワーグナー:「タンホイザー」〜バッカナール
7)ワーグナー:「ローエングリン」第3幕への前奏曲No.31
1)ラヴェル:ダフニスとクロエ(全曲)
2)ドビュッシー:カンマNo.32
1)ベルク:ピアノ・ソナタ(ファーベイ編)
2)マーラー:交響曲第1番No.33
1)ブルックナー:交響曲第9番
2)バッハ/ウェーベルン:6声のリチェルカーレ(「音楽の捧げもの」より)No.34
1)ストラヴィンスキー:幻想的スケルツォ
2)ストラヴィンスキー:ミューズの神を率いるアポロ(1947年版)
3)ストラヴィンスキー:火の鳥(組曲、1945年版)No.35
1)ツェムリンスキー:歌劇「フィレンツェの悲劇」(全曲)
2)アルマ・マーラー:歌曲集No.36
マーラー:交響曲第5番
No.37
1)ヴァレーズ:チューニング・アップ
2)ヴァレーズ:アメリカ(オリジナル・バージョン)
3)ヴァレーズ:アルカナ
4)ヴァレーズ:ノクターナル
5)ヴァレーズ:暗く深い眠りNo.38
ショスタコーヴィチ:フィルム・アルバム
No.39
1)ヴォルフ:ゲーテ歌曲集より
2)ブルックナー:交響曲第6番(ノーヴァク版)No.40
1)マーラー:交響曲第4番
2)ベルク:初期の7つの歌No.41
レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」(全曲)
No.42
マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」
No.43
1)バルトーク:管弦楽のための協奏曲
2)バルトーク:中国の不思議な役人(全曲版)No.44
1)マーラー:交響曲第2番「復活」
2)マーラー:交響詩「葬礼」No.45
ブルックナー:交響曲第8番(ノヴァーク校訂1890年稿)
No.46
マーラー:子供の不思議な角笛(全曲)
ロッシーニ:スターバト・マーテル 1)エッシャー:弦楽オーケストラのための協奏曲
2)エッシャー:哀悼の音楽
3)エッシャー:夏の午後の祭曲(向かい合う二つのオーケストラのための)1)ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ(1947年版) 〔No.27と同一音源〕
2)ストラヴィンスキー:春の祭典(1947年版) 〔クリーヴランド管弦楽団〕
3)ストラヴィンスキー:火の鳥(組曲、1945年版) 〔No.34と同一音源〕
4)ストラヴィンスキー:カルタ遊び
5)ストラヴィンスキー:ミューズの神を率いるアポロ(1947年版) 〔No.34と同一音源〕ブルックナー:交響曲全集〔第0番〜第9番〕 1)マーラー:交響曲第3番
2)マーラー編曲:バッハによる管弦楽組曲
■おわりに
このディスコグラフィを見ていて気づくのは、CDというものの制作にあたって、シャイーがある明確な意図を持っているらしいということです。それは録音するレパートリーそのものと、一枚のディスクとしての選曲・構成の、二つの側面について言えます。このことはコンセルトヘボウ管だけでなく、近年のミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ響等との録音についても同様。
ようするに「他にはないようなユニークなCD」とすることが重視されているわけですが、これはもしかしたら営業的見地に立ったデッカ側の商品企画戦略に従っている結果なのかも、という思いも持っておりました。
しかし、2002年の来日の際に行われたインタビューの中で、シャイーがこのことについて具体的に語っており、やはりシャイー自身の意図によるものだということが分かりました。このようなCDリストを作成した甲斐があったというものです。該当する部分を抜粋します。
インタビュアー 「CDというものは一面では文化財だけど、レコード会社にとっては商品の面があり、最近その商品の面ばかりが重く感じられている中で、シャイーさんの録音するものは、これは多分に音楽に対する愛情の問題だと思うんです。愛情が深いものは文化財になるけど、愛情がないとただの商品になる、ということですね」
シャイー 「おっしゃる通りです。作曲家と作品に対する絶対的な信頼というものがなければーとくに全く初めて録音する曲の場合、お客さんに対して聴いたことのない作品を提供するわけですから、自分がその価値を信じていなければ絶対に紹介できません。また、その後になって競合盤が出てきたりするとそれに打ち勝つためにもハイ・レヴェルの演奏をするように努力していかなければなりません」
(中略) シャイー 「デッカだって、中には質的にはちょっと疑問のある内容のものも出てきてしまっていますよ」
インタビュアー 「LP時代より簡単に作れるようになったことがいけないんでしょうね」
シャイー 「自分自身のことをお話しすると、私もいずれベートーヴェンを録音したいとは思っているんですが、心の中で準備ができていないのと、市場がそれを求めているのかどうか、ということを考えるんです。それこそ古いものから新しいものまで、星の数ほどベートーヴェンの交響曲の録音があって、今ここで新しいものを出したとしても、はたしてどうか…」
インタビュアー 「そうおっしゃるシャイーさんはすばらしいと思う。普通だったら、レコード会社に煽られてやっちゃいますね」
シャイー 「安易にはしない方がいいですよね。そういう録音を出したとしても、おそらくはすぐに市場から消えてしまうだろうし、レコーディングというものに対する自分の視点まで失われてしまうような気がします。そういう契約は一切結びたくないと思っています」
インタビュアー 「シャイーさんのCDの作り方は、1枚1枚をとても重く考えているんですね。そうじゃない演奏家もいて、量産でどんどん出す人もいますから…」
シャイー 「自分の録音が将来の人類の遺産として残る録音かどうかは自分が決めることではありませんが、ただ、安易にレコーディングの契約にサインとてどんどん作っていくというのは、そういう遺産となる可能性すら奪ってしまう安直な行為だと思いますよ」
(出典:『Klassik』Vol.5,ユニバーサル・ミュージック株式会社,2003.1.)
(2003年1月19日)