「名盤の探求」
例1 選曲
文:青木三十郎さん
『交響曲へのお誘い』”POPULAR SYMPHONIC MOVEMENTS”
- ベートーヴェン:交響曲第5番〜第1楽章
- モーツァルト:交響曲第40番〜第1楽章
- チャイコフスキー:交響曲第4番〜第3楽章
- メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」〜第4楽章
- モーツァルト:セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」〜第1楽章
- ドヴォルザーク:交響曲第9番〜第2楽章
- ベートーヴェン:交響曲第8番〜第2楽章
- チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」〜第3楽章
アンドレ・クリュイタンス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1958年12月9,10,12,13日 ムジークフェラインザール、ウィーン
EMI(国内盤CD:TOCE9244 =1996/10発売)いきなり編集盤? ではなくて、これがオリジナルの形態。CD時代になって激減した(気がする)もののひとつが〔オームストラ小品集〕的なアルバム。アダージョ・ナントカとか100や101の数字がついた格安セットとか、安易なコンピレーションばかりが幅をきかせる昨今ですが、かつては最初からオリジナル・アルバムとして企画・制作されたものがたくさんありました。それを交響曲でやってしまったのがこの一枚。
その内容はというと、これがもう意外なほどすばらしい。まず選曲がよくて、有名なシンフォニーの、しかも単独で聴いても魅力的な楽章をうまく選んである。でもブラ3やドヴォ8の第3楽章なんかを入れちゃって通俗的にしすぎたりしないあたりが絶妙。ちょうど真ん中あたりにわざわざ「アイネ・クライネ〜」の第1楽章を挟んであるのも気がきいてますね。
そしてこれらの曲を、とろけるような美音のオーケストラが恰幅よく奏でていく。豊潤にして勇壮、たいへんな名演奏の連続です。少しユルい部分もあるのですが、それがかえってコマ切れの不満を緩和させている。つまり交響曲の断片を寄せ集めたのではなくあたかも〔オーケストラ小品集〕として取り組まれているかのようでして、たとえ同一演奏家で揃えたとしても全曲盤からの抜粋集だとこうはならないはず。
プロデューサーはヴィクトル・オロフ。データが正しければ4日もかけて録音されており、丁寧な仕事ぶりがうかがえます。これも意外なことに、音質も水準以上。すみずみまで行き届いたこの名盤の、もとのジャケットが気になるところです。手持ちの国内盤CDは「幻の名盤を求めて」シリーズの統一デザインで、東芝EMI社のデザイン・センスはいつもながら最悪の一歩手前、当CD唯一の欠点といえましょう。でもそれをおぎなうかのごとく、ベルリン・フィルを指揮したリストの「レ・プレリュード」をボーナス・トラックのように追加収録。滑らか過ぎる弦はイマイチながらこの曲で最重要なティンパニがくっきり大音量、これはうれしいオマケでした。
輸入盤はといえば、ベルリン・フィルとの残りの録音(「未完成」や「ライン」など)もくっつけたうえ「アイネ・クライネ〜」を割愛した二枚組でCD化されているようですが、どうしてそういうことをするんでしょうかね。一曲追加とジャケット差替えをしただけでこの名盤の体裁をギリギリ守った東芝EMI社は、まだしも良心的なほうなのでした。
ちなみに、「全曲盤の抜粋やアリア集ではなく最初からハイライト盤として制作された歌劇のディスク」も似たような企画といえます。独シャルプラッテンなんかがそういうのをいろいろ出していて、ゆきのじょうさんが紹介されていた「ばらの騎士」もその一枚ですね。
2009年5月31日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記