ベートーヴェンのピアノ協奏曲第0番をもう少し聴く

文:松本武巳さん
ゆきのじょうさんによる紹介文はこちらです。


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CDジャケット

ゆきのじょうさんご紹介‐1

ピアノ協奏曲第0番変ホ長調(ヘス復元版による演奏)
リディア・グリフトウーヴナ(ピアノ)
ハインツ・ドレッセル指揮フォルクヴァング室内管弦楽団
録音:1967年
PHILIPS(輸入盤 442 580-2)

CDジャケット

ゆきのじょうさんご紹介‐2

ベートーヴェン
ピアノ協奏曲第0番変ホ長調(ギュルケ改訂版、フィッシャー作カデンツァによる演奏)
エヴァ・アンダー(ピアノ)
P.ギュルケ指揮ベルリン室内管弦楽団
録音:1976年
ETERNA(輸入盤 東独初出LP)

CDジャケット

ドイツのチェンバロの大家が弾いたピアノ盤

ピアノ協奏曲第0番変ホ長調(ヘス復元版、フィッシャー作カデンツァによる演奏)
マルティン・ガリング(ピアノ)
カール=アウグスト・ビュンテ指揮ベルリン交響楽団
BRILLIANT CLASSICS 100CD BOX(BEETHOVEN-CD10)

(オリジナルは多分VOXレーベル)
CDジャケット

最新録音盤ついに登場!

ベートーヴェン
ピアノ協奏曲第0番変ホ長調(ピアニストによる管弦楽補筆版、ピアノパートはオリジナル)
ロナルド・ブラウティハム(ピアノ)
アンドリュー・パロット指揮ノールショピング交響楽団
発売:2009年5月
BIS(輸入盤SACD-1792)

コンサートちらし

実は3年前に仲道郁代さんが、協奏曲全曲演奏会で・・・

仲道郁代(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全曲演奏会第3回)
ベートーヴェン
ピアノ協奏曲第0番変ホ長調
ピアノ協奏曲第3番ハ短調
ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」
仲道郁代(ピアノ)
阪哲朗指揮慶應義塾ワグネルソサィエティーオーケストラ
2006年11月19日、横浜フィリアホール

 

■ まずは、作品に関する補足を少々 

 

 ボン時代の1784年の作品(ベートーヴェン13歳‐俗説の14歳よりも1歳前)で、独奏パートは作曲者自身により完成していますが、オーケストラ・パートは前奏と間奏のみがピアノ版で残されていました。音楽学者のヘスによって、オーケストラパートの補筆完成版が1939年に作成され、エドウィン・フィッシャーによる初演を経て若干の再補筆を加えた後の1943年に至り、Breitkopf & Härtel社から出版されました。初版は1890年にWissenschaftlicher Verlagから出版され、1961年にはオイレンブルク社からポケットスコアも出版されており、このスコアには初演者であるフィッシャーの弾いたカデンツァも、『参考』として収録されています。

 

■ グリフトウーヴナ盤について 

 

 とても美しい、非常に繊細な演奏だと思いますが、これってベートーヴェン!?との思いも同時に感じさせる部分があるのも事実です。良い意味で、ポーランド楽派の演奏だと感じますが、この曲には似合っている表現も多々あり、初めての出会いがこの盤であったことは、私にとってたいへん幸せでした。

 

■ アンダー盤について

 

 東ドイツのエテルナレーベルから発売されたオリジナルLPを、たまたま所有しておりますが、全体的にかなり豪放磊落な演奏で、ピアニストも指揮者もともにグイグイと突き進んでいく、一般にベートーヴェンらしいと思わせる演奏となっています。編曲が異なるとはいえ、全く別の協奏曲に聴こえてきます。これはこれで楽しめますが、本当に別の協奏曲に聴こえてきます。

 

■ ガリング盤について 

 

 ブリリアントの大ボックス内に収録されていますが、本来はアメリカVOX社が作成したピアノ協奏曲全集を、アルフレッド・ブレンデルと2人で担当した際の録音であると思われます。ちなみにブレンデルは、5曲の協奏曲に加えて、ピアノと管弦楽のためのロンド(WoO 6)を録音しております。

 さて、ガリングは1935年生まれの、ドイツ・ミュンヘン在住のチェンバロの大家でして、かつてはバッハのチェンバロ曲全集の録音も残しており、一方でピアニストとしては、相当にレアなピアノ協奏曲を数多く録音しております。そのため、本来ベートーヴェンが書こうとしたであろう、この協奏曲の本来的な姿に最も近い演奏は、このガリングの録音ではないかと思います。その意味で、この録音が大全集の中とはいえ、復活したのはうれしい限りです。

 

■ ブラウティハム盤について  

 

 最新のSACDハイブリッド盤で、2009年(今年)の発売です。オケ部分をピアニストがかなり手を加えて編曲しており(きちんとクレジットされております)、その賛否が問われるところです。しかし、他の盤を圧倒する音質ですので、最新盤の登場を素直に喜びたいと思います。今後、いろいろな評価が下されるであろうと思われます。

 

■ 仲道郁代さんのコンサートについて 

 

 仲道郁代さんは、ベートーヴェンの協奏曲とソナタの全集録音を進行中の2006年秋に、全曲演奏会コンサートの第3回(最終回)で、このピアノ協奏曲第0番も演奏されております。CDおよびDVDでは、パーヴォ・ヤルヴィとの共演で、この第0番の収録は省かれているようですが、彼女の演奏スタイルは、どちらかといえば、グリフトウーヴナの方向性に近かったように記憶しております。アマチュアオケをバックに、横浜の青葉台で演奏したこの全曲演奏会は、ある意味、大穴のコンサートであったのかも知れませんね。ナマで聴くチャンスが今後訪れる可能性すら低いように思われますので、当日、聴くことが叶ったことは、とても幸運かつ幸せな体験でした。

 

■ さいごに 


 実は、私もゆきのじょうさんと同じく、廉価盤フォンタナレコードで、このピアノ協奏曲と出会いました(このフォンタナ盤は、通常の黄色ジャケット1000円盤ではなく、ピンクのジャケットで1100円であったように記憶しておりますが、私の所有する盤は、フォンタナのさらに再発売盤であったのかも知れませんね)。蛇足ですが、ゆきのじょうさんとは、生活年齢がけっこう近いのかも知れません。この以外の内容は、ゆきのじょうさんの名紹介文に付け加えるべきことは、何もありませんので、ゆきのじょうさんの執筆されたオリジナルの紹介文を、みなさまもぜひお読みください。

(2009年10月1日記す)

 

さらに続く ゆきのじょうさんの続編はこちらです。

 

2009年10月4日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記