「わが生活と音楽より」
Winter & Winter レーベルを聴く

文:ゆきのじょうさん

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 Winter & Winter レーベルは、ミュンヘンに本拠地を持つマイナーと呼んで良い会社です。私が最初にこのレーベルを知ったのは、拙稿「ビーバーのミステリー・ソナタを聴く」で取りあげた、ビーバーのミステリー・ソナタのディスクを収集しているときに出会った以下のアルバムでした。

CDジャケット

ハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバー:
ヴァイオリンのための15のソナタと、無伴奏ヴァイオリンのためのパッサカリア
アフェッティ・ムジカーリ
 マリアンネ・ロネー ヴァイオリン
 アルノ・ヨッヘム ヴィオラ・ダ・ガンバ
 エルンスト・クビチェック チェンバロ、オルガン
 ミヒャエル・フライムート テオルボ

録音:1998年2月21-28日、ヴィラ・メディチ・ジュリーニ、ブリオスコ、イタリア
独WINTER&WINTER (輸入盤 910 029-2)

 演奏は透明感溢れて清冽。ロネーのヴァイオリンは素朴で伸びやかに響き渡るものです。数ある同曲の演奏の中でも、好んで聴くディスクです。そして、何よりも録音が美しい。ヴィラ・メディチ・ジュリーニは17世紀に音楽のために造られた別荘なのだそうで、残響はほどよく聴き疲れしないものです。

 さらに印象的だったのはアルバムの作り方です。よくあるプラスチックケースではなく、分類は紙ジャケットなのですが、CDくらいの厚みのあるボール紙を切り込んで重ねて貼ってあります。CDはその切れ込みに差し込むようにして収納されます。しっかり糊付けされた解説書はあっさりしており、見開き左頁はソナタの楽章構成だけを一頁ごとに載っており、右頁にThom Argauerというイラストレータ(?)の作品が掲載されています。演奏者たちのポートレートは皆無です。

 興味を持った私は、さらに同じロネーの演奏によるバッハを入手しました。

CDジャケット

ヨハン・セバスチャン・バッハ:
オブリガート・チェンバロとヴァイオリンのための6つのソナタBWV1014-19
 マリアンネ・ロネー ヴァイオリン
 エルンスト・クビチェック チェンバロ

録音:1999年4月6-9日、ヴィラ・メディチ・ジュリーニ、ブリオスコ、イタリア
独WINTER&WINTER (輸入盤 910 047-2)

 演奏家と録音場所はまったく同じなので、全体の作り方も似通っているのは当然なのですが、ロネーのヴァイオリンはさらに伸びやかになっており、第1番と第2番はクビチェックのチェンバロが雄弁なのですが、第3番になると突如ロネーのヴァイオリンは色彩豊かになるのが印象的でした。

 ジャケットには、またもThom Argauerの、まるで漆喰を塗り固めたようなイラストがあしらわれており、解説書は見開き左頁は白紙、右頁に表紙と同じようなイラストが掲載されています。それが5点続いているだけというものです。表紙と合わせるとソナタと同じ6つになるのが意識的なのでしょうが、それにしてもあっさりしています。

 これと同時に「ジャケ買い」したのが3枚目のディスクです。

CDジャケット

ヨハン・セバスチャン・バッハ:
オルガンのための前奏曲とコラール集

カルテット・イタリアーノ・ディ・ヴィオラ・ダ・ガンバ
テルツ少年合唱団のメンバー

録音:1999年11月25-28日、ヴィラ・メディチ・ジュリーニ、ブリオスコ、イタリア、2000年5月13日、テルツ少年合唱団ハウス、ミュンヘン
独WINTER&WINTER (輸入盤 910 053-2)

 バッハのオルガン曲をヴィオラ・ダ・ガンバの四重奏によって演奏するという趣向のアルバムです。取り上げた曲には有名なものは含まれておらず、ヴィオラ・ダ・ガンバの響きで聴くと宗教曲というより田舎の素朴な民謡を聴いているような印象になるのが不思議です。コラールの何曲かは、テルツ少年合唱団によって歌うヴァージョンを聴き比べられるようにしてあります。解説書にはフィレンツェの教会の宗教画の部分部分が並べてあります。

 さて、このようなバロック音楽だけではなく、このレーベルはケージなどの現代音楽のアルバムも出しています。その一方で「オーディオ・フィルム」と題した、とても風変わりなシリーズもあります。そのうちの二つを紹介しましょう。

CDジャケット

ヴェネツィア・イン・フェスタ
サン・マルコ広場のカフェ・コンサート

ジョセフ・ミオッティ、アンドレア・テスタ ヴァイオリン
ジアンフランコ・デ・ラッザリ アコーディオン
パオロ・プレヴェデッロ・デリサンティ ピアノ
マウリッツィオ・ディ・プリマ コントラバス

録音:1997年10月1-4日、グランカフェ・クワドリ、サン・マルコ広場、イタリア
独WINTER&WINTER (輸入盤 910 014-2)

 イタリアのカフェでのライブ録音で、プッチーニ、ヴェルディなどのオペラ・アリアから、ヨハン・シュトラウスのポルカ、ブラームスのハンガリー舞曲第5番、そしてもちろんカンツォーネなどを上記の編成で演奏する趣向なのですが、作り方が面白いです。聴衆のざわめき、演奏の途中にも合いの手にように入る拍手はもちろん、カフェならではの雑音や、演奏の合間に流れている(?)BGMまで、すべて「そのまま」収録してあります。私はイタリアには行ったことはありませんが、その場に居合わせるとこんな感じなのだろうな、と思わせるものです。しかし、これはただ単に現地で録音すれば出来るというものではないと思います。イタリアの、この場所であるということを音だけでどうやって伝えるか? そこには周到に練られたプランが感じられます。演奏自体は、まったくもって素晴らしいもので、イタリアらしい節回しを交えながらアンサンブルには破綻が微塵もありません。実際にカフェで聴いていたら音楽だけでお腹が一杯になりそうです。後半に演奏する「マイ・ウェイ」などは、クラシック、ポピュラーの境を越えて感動的ですらあります。最初と最後には思わずにやりとする仕掛けが入るのですが、ネタばれになりますので聴いてのお楽しみとしておきます。解説書はただヴェネツィアの絵を並べてあるだけで、どうしてこのようなアルバムを作ったか等の説明は一切ありません。

 もう一枚は、さらに徹底した企画ものです。

CDジャケット

オリエント急行
1905年6月パリからコンスタンチノープルへの音楽の旅

トリフォン・トリフォノフ アルト・サキソフォン
スティアン・カルステンセン アコーディオン
カルテット・プリマ・ヴィスタ 弦楽四重奏
フミオ・ヤスダ ピアノ 
レーゲンスブルク・ドイツ陸軍第4軍楽隊 他

録音:2000年6月-2001年6月
独WINTER&WINTER (輸入盤 910 066-2)

 タイトル通りに、1905年6月7日にパリ駅を出発して、6月10日にコンスタンチノープル駅に到着するまでの途中駅であるミュンヘン、ウィーン、ブダペスト、ベルグラードなどで体験する音楽、というテーマで綴ったアルバムです。さしずめ音で表現した「世界の車窓から」という風情でしょうか。冒頭は汽笛とともにどこかアンニュイなサキソフォン独奏から始まり、続いてアコーディオンによるいかにもフランスらしい音楽になって列車は出発します。ダイニングカーで演奏されるという設定でのピアノや弦楽四重奏の演奏も入れて変化を持たせながら、音楽の背景にはレール音や、途中下車した街のざわめきなどが彩られています。各国の音楽の違いを示すだけではなく、その根底に何とはなく繋がりがあって、各々は断続したものではなく連続していることを感じさせるディスクです。これも解説書はパリからコンスタンチノープルまでの主要駅と、そこでの風景をイラストにしてあるだけで、やはり解説も意図も何も書いてありません。聴き手にすべてのイメージを委ねるのが目的なのでしょう。1905年という設定にはきっと何らかの意図があるはずなのですが私には解き明かせません。でもそれが分からなくても楽しめる逸品です。

 このレーベルのもう一つの看板アーチストとして、ウリ・ケインというジャズ奏者がいます。バッハのゴールドベルク変奏曲、ベートーヴェンのディアベリ変奏曲、果てやモーツァルト、マーラーなどの作品をフィーチャーというか、パロディにしたアルバムを出しています。かなりハチャメチャな作りなのですがこれはまた別の機会があれば取り上げたいと思います。

 

2007年3月12日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記