シュターツカペレ・ドレスデン来日公演2006
11月23日(木) 東京芸術劇場
文:伊東
チョン・ミョンフン指揮シュターツカペレ・ドレスデン
ブラームス:
バイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
バイオリン独奏:樫本大進
コンサートマスター:トマス・マイニング交響曲第4番 ホ短調 作品98
コンサートマスター:カイ・フォーグラーアンコール:ブラームス:ハンガリー舞曲第1番
来日公演2日目。昨日同様盛大な拍手とブラボー、そして若い女性達のスタンディングオベイションが続きました。指揮者や楽団員がいったんステージから去った後、再度呼び出されるというのも昨日同様です。
昨日のコンサートの入りは7〜8割でしたが、今日は8〜9割でした。それで上記のような成功ぶりですから、全体として満足度が高いコンサートだったといえるでしょう。
さて、以下に本日のコンサートで私が感じたことを書き記しておきますが、あくまでもシュターツカペレ・ドレスデンの熱狂的なファンとしての立場から書いていますので、おそらくはほとんどの聴衆と逆の聴き方になっていると思われます。その点を是非ご了承の上ご覧下さい。
バイオリン協奏曲は、さすがのチョン・ミョンフンも熱血一本で押し通すわけにはいかなかったのか、あるいはソリストに遠慮したのか、やや四角四面の印象もなきにしもあらずでしたが、オーケストラの伴奏部分は聴き応えがありました。オーケストラは昨日より技術的にも安定していたように思えます。
続くブラームスの交響曲第4番は昨日の「運命」よりも弦楽器のプルトが少なかったのに音量も十分で、オーケストラを聴く醍醐味を味わえたと言えます。第1楽章、第2楽章のアンサンブルの妙、第3楽章から第4楽章の盛り上がりが見事でした。特に第4楽章では炸裂するトロンボーン、気合いの入ったティンパニなど、聴き所が多かったと思います。
チョン・ミョンフンの真骨頂はやはり「熱血」なのでしょうか。パワーとパッションで乗り切るという印象を今日も強く持ちました。シュターツカペレ・ドレスデンもプロのオーケストラですから指揮者の指示通りに大きな音量を出せます(前回来日した際のブルックナーは、鼓膜がびりびりしてくるほどの大音量でした)。
オーケストラの楽しみには、難易度の高い楽曲を軽々と演奏するのを見る・聴くことや、身体を揺さぶるほどの大音量を体験できることも含まれます。このいずれもシュターツカペレ・ドレスデンは可能にしますが、シュターツカペレ・ドレスデンの持ち味はむしろピアノ、ピアニッシモにおける美しさ、精妙さにあると私は考えています。熱血・大音量ではちょっともったいないです。今日も指揮者はオーケストラの持ち味を封印しているのではないかと私は感じました。
かねてから、シュターツカペレ・ドレスデンは個性が強い指揮者より、オーケストラの自発性を尊重する指揮者の方が適しているとファンの間で言われていましたが、「やはりそうなのかもしれない」と私は思いました。
ただし、ここから先が難しいところです。
シュターツカペレ・ドレスデンはウィーンフィルやベルリンフィルのような集客力がありません。そうなるとスター指揮者を呼んで集客をしなければ海外ツアーは成り立ちません。スター指揮者は、個性が強いからこそスターなのであって、その個性を奪えばスターではなくなります。ドレスデンファンが日本で彼らの演奏を聴けるのは、チョン・ミョンフンのような指揮者が指揮台に立ってくれるためです。オーケストラの運営もビジネスなのですね。このオーケストラの美質を最大限に生かし、ビジネスも成功させてくれる指揮者が現れることを強く望む次第です。
(2006年11月23日、An die MusikクラシックCD試聴記)