「わが生活と音楽より」
ドヴォルザークの交響曲第3番を聴く

文:ゆきのじょうさん

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 またも昔語りになってしまいますが、クラシック音楽に没頭しだした高校生時代は、FMエアチェックが貴重な情報源でした。主にオーケストラ曲に興味を持った私は、ある時に「ドヴォルザークの交響曲が9曲あるのなら、それを全部エアチェックで聴いてみよう」と思い立ちました。8番、9番はすぐ録音でき、7番も聴くことができました。ところが、それからがいけません。あとの6曲はまったくと言って良いほど放送されません。リクエストをしても採用されません。そんな中、聴くことができたのが、この曲の、この演奏です。

CDジャケット

ドヴォルザーク
交響曲第3番 変ホ長調 作品10
ヴァーツラフ・スメターチェク指揮プラハ交響楽団
録音:1959年9月28、29日、プラハ
コロンビアミュージックエンタテインメント(国内盤 COCQ86867)

 勿論、私は第3番という曲を聴いたのは初めてでしたが、たちまちその魅力にとりつかれてしまいました。そして今なお、スメターチェクを凌駕する演奏を聴くことができないでいます。

 第3番はドヴォルザークが32歳の頃の作品です。初演はスメタナの指揮で行われたそうです。三楽章から成り全体で35分ほどの、交響曲としては小さなサイズです。第1楽章はティンパニのソロから始まって大河が蕩々と流れるようなスケールの大きいテーマから始まります。それが寄せては返す波のように響いた後に、心が穏やかになるような下行音階の第2主題が現れます。その後も、時にもの淋しく時に高揚しながら曲が進みます。第2楽章は、ややほの暗い美しい旋律を弦楽器が奏でることから始まります。そこに秘やかにフルートの合いの手が入ります。一度高みに達した後、今度はホルンが哀切に満ちた節回しを入れますが、これを聴くといつも胸が締め付けられるような侘びしさを感じます。中間部ではのどかな、暖かい雰囲気が聴き手を包みます。あとはドヴォルザークならではの、これでもかというくらいの美しい旋律の連続です。第3楽章は農村のお祭りのような心躍る躍動感に満ちて、文字通り疾走するような曲調です。最後はとても晴れやかに終わります。

 スメターチェク盤以外には、ノイマン/チェコPO、ケルテス/LPO、クーベリック/BPO、スウィトナー/SKBなどをLPで聴き、CDになってからはチョン・ミュンフン/ウィーンPOを聴きました。スメターチェク盤は今となっては、他の演奏に比べて音質面では相当に聴き劣りがします。今回取り上げたCDでもリマスタリングは成功しているとは言い難いのですが、それでも名演であることには変わらないと思います。多くの演奏が、第3番が持つ美しい旋律を「歌」として生かそうとしてテンポを揺らしたり、響きに磨きをかけたりしているように感じます。しかしスメターチェクはどちらかというときびきびとアンサンブルを整え(リハーサルはかなり念入りだったと思います)、インテンポで演奏しており、とても堅牢な印象を受けます。そして、その中から滲み出てくるようなドヴォルザークらしい歌心が逆に魅力になっているように感じます。さらに、1959年という年代ではプラハ響も偉大なローカルオケであったからなのか、スメターチェク盤から聴こえてくるのは明らかに現代の国際化で失われつつある響きだと感じます。ちょっとした小節の利かせ方にも譜面にない彩りがあります。

 おそらく、作曲技法という観点からみると、第3番は多くの点で欠陥があるのだと思います。しかし、そういった理屈を抜きにして、この曲は大変魅力的であると思います。未聴の方がいらっしゃれば、是非虚心坦懐に聴いていただけたら、と願います。

   
 

編集者による注
クーベリックのページ」における松本武巳さんのレビューはこちらです。

 

2006年10月2日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記