「ニーベルングの指輪」管弦楽曲抜粋盤を聴く

その6:シュターツカペレ・ドレスデン編

その1:ウィーンフィル編 その2:ベルリンフィル編 その3:クリーブランド管編
その4:シカゴ響、デトロイト響編 その5:コンセルトヘボウ管編

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CDジャケット

ワーグナー
「ニーベルングの指輪」ハイライト集
ラニクルズ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1996年12月、ゼンパーオパー
TELDEC(輸入盤 0630-17109-2)

収録曲

  • ワルキューレの騎行
  • ヴォータンの告別と魔の炎の音楽
  • 森のざわめき
  • ジークフリートのラインへの旅
  • ジークフリートの葬送行進曲と最後の場面
  • ジークフリート牧歌

 「ラニクルズ?知らんなあ....。」と思いつつもこのCDを買ったのは、他ならぬシュターツカペレ・ドレスデンの演奏だったからである。もし他の団体の演奏であったなら、私はこのCDに巡り会うことはなかった。いかにも地味そうなジャケットだし、買ってから後もなかなか聴く気になれなかった。あろうことか、「こんな無名の(?)指揮者の演奏を聴いたって面白いはずがない」と思い込んでいた。

 しかし、それが嬉しい誤解であることは、CDプレーヤーにかけた直後にすぐ分かった。演奏スタイルは極めてオーソドックスで、一見何の変哲もないのだが、平凡なわけではない。ラニクルズはツボを押さえた音楽作りをしているので、大変充実した仕上がりになっている。オケは壁の崩壊以降機能が低下したといわれたが、このCDで聴く限り、ほぼ完全にリカバリーを果たしているようで、私のようなファンは思わずニヤリとする。さもあろう、これはゼンパーオパーにおけるライブ録音なのだ。時々楽譜をめくる音や小さく咳をする音が聞こえるので「もしや...」と思ったら、何と、CDジャケットに小さな文字で「ライブ」と書いてあった。カペレにとっても指揮者にとっても満足のいく演奏だったからこそ、ライブ録音を発売したのだろう。TELDECはもっと自信をもってライブであることを宣伝してもいいのではないだろうか?修正が全くなかったとは考えにくいが、音楽の自然な流れを聴くにつれ、おおよそ演奏されたままの姿がCDに収録されていると私は考えている。オケの響きはさすがに70年代、80年代とは少し違って、やや国際的になっているが、それでもなおカペレの味わい深い響きを随所に聴くことができる。機能的にも、プラスアルファの雰囲気の点でも実に感慨深いCDである。私は思いもかけず出会ったこのCDがすっかり気に入ってしまった。期待しないで買ったCDが、予想を大きく裏切る出来映えであると、本当に嬉しい。確かに私はカペレファンであるから、幾分贔屓目に見ているとは思うが、この充実したCDは音楽ファン全てに推薦できると信じている。

 演奏は全曲がすばらしい。豪快な中にも高度なアンサンブルを聴かせてくれる。「ワルキューレの騎行」や「ジークフリートの葬送行進曲」はもちろん、「ヴォータンの告別と魔の炎の音楽」においては重厚なサウンドを心ゆくまで楽しめる。一方、「ジークフリート牧歌」は、音楽がその内側からじわりじわりと燃焼してくるような演奏で、まことにカペレらしい。このCDは、近年のカペレの充実を如実に示す好例だと思う。

 さて、指揮者のラニクルズである。最近売り出し中の指揮者らしい。音楽之友社刊「世界の指揮者」によれば、意外と若手で1955年、スコットランド生まれ。左手に指揮棒を持つという。1992年、サンフランシスコ歌劇場の音楽監督になっている。活躍の場所はアメリカだけではない。修行はドイツで積み、ドイツ、とりわけバイロイトが活動の本拠らしい。レパートリーの中心にはワーグナーやR.シュトラウスがある模様。TELDECはラニクルズと専属契約を結んでいるから、今後いろいろとCDが発売されるかもしれない。

 以前も書いたことがあるが、カペレにはあまり個性が強くない指揮者が向いていると思われる。指揮者には失礼な話だが、カペレに関しては、オケに主導権があるような演奏ほど面白い録音になっている。このCDの場合も例に漏れない。逆説的な話だが、指揮者はオケの持ち味を最大限発揮できるような配慮を怠らなかったようだ。カペレの良さを知っていたのだろう。だからこそオーソドックスなスタイルの演奏をしたのだと考えられる。こうした指揮者とオケの組み合わせにおけるオーソドックスなスタイルは得てして優れた結果を生み出す(コンヴィチュニー指揮のゲヴァントハウス管のように)。全く未知の指揮者だったが、これでは要注意だ。

 

2000年5月25日、An die MusikクラシックCD試聴記