An die Musik 開設11周年記念 「名盤を探る」
第25回 総括
文:伊東
2010年3月15日から始めた「名盤を探る」は第24回(バッハの平均律クラヴィーア曲集)で終了です。本来はAn die Musik開設11周年記念企画でしたので、2009年12月1日から始めるべきものでしたが、これほど遅れてしまったのはひとえに私の怠慢によるものです。大変申し訳ありませんでした。また、ゆきのじょうさん、松本さん、青木さんからは当初の締め切り2009年11月末までに原稿を提出していただいておりましたのに、掲載が遅れましたことを改めてここでお詫び申しあげます。
さて、この企画を思いついた時点では、新時代、特に2000年以降に名盤が現れているかどうか極めて懐疑的でした。実は、同時代にはもはや名盤はない、ということを検証するための企画に成り果ててしまうのではないかとさえ私は本気で思っていました。そのくらい最近の録音に対して私は不満を感じていました。演奏だけでなく、音質的にも満足できるものがほとんどないというのが私の印象だったからです。
新時代の名盤
モーツァルトの「プラハ」。マッケラス盤。 ベートーヴェンの「運命」。ヤルヴィ盤。 しかし、作曲家毎に任意に代表曲を選び、できる限り最近の録音をピックアップして聴いてみると、確かに新録音のくせに貧しい音質で、表面的な演奏しかしていないものもあるにせよ、後世に残りそうな名盤はあるものです。これは本当に嬉しかった。遅れてでもこの企画を実現させた甲斐があったと自画自賛してしまいたくなります(全く不遜な発言です。申し訳ありません)。
この企画の最大の欠点は、新時代の方に最初からかなりハンディキャップがあったことです。LP時代から考えてみても、旧時代の時間的な長さは圧倒的です。その時間の風雪を堪えてきた名盤中の名盤と、ごく最近登場したばかりの新時代録音が比較されるのです。これはフェアではなかったかもしれません。旧時代においても、出来の悪かった録音、そうして消えてしまった録音が大量にあったはずです。旧時代の時間、その時間に作られた録音の総量と比べると最初から新時代は分が悪くなります。
それでもなお新時代の名盤として取り上げられたディスクは価値のあるものだと思います。名盤であるかどうかは多分に主観的なものですが、当初私が考えたように壊滅的な状況ではなさそうだとは言えます。これは私にとっても大きな収穫でした。
皆様方もそうかもしれませんが、私の購入するディスクの多くはちょっと古めの録音です。例えば、2000年以降のものはあまりありませんでした。最も多いのが、1960年代、70年代です。1990年代以降になると極端に減ってきます。私も自分では否定してきたつもりだったのですが、ご多分に漏れず評価が定まったものを購入する傾向があったのですね。
最後に、今回の教訓を書いておきます。「新録音も玉石混淆。石にめげずに玉を探そう」。ごくごく当たり前の結果ですね。演奏、音質ともに優れたディスクがあれば我々クラシック音楽ファンの共有財産にしていきたいものです。もっとも、我々がこれから聴くもの、手にするものが「ディスク」であるかどうかは不明ですが。
2010年5月14日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記