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ベイヌム指揮コンセルトヘボウ管弦楽団ディスクレビュー
(コメントつき不完全ディスコグラフィ)
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■ PART 2. 1941 − 1953 (POLYDOR〜DECCA) ■
ベイヌムとコンセルトヘボウ管の最初の録音は、1941年11月のテレフンケン録音ということになるようです。当時テレフンケンではメンゲルベルクが録音を行っていた頃ですので、その関係で副指揮者のベイヌムにも録音の機会が巡ってきたのでしょう。二回目の録音は1943年のポリドールで、当時のポリドールとドイツ・グラモフォンの関係はよくわからないのですが、この年にはカラヤンとヘボウがDGに録音を残しました。
次の録音は、おそらく戦争によるものと思われるブランクを経て、1946年まで飛びます。いよいよデッカへの登場で、この年にベイヌムがロンドン・フィルに客演して英国で高く評価されたことによって、英デッカとの契約に至ったそうです。1946年3月のセッションがベイヌムとコンセルトヘボウ管のデッカ初録音になるのですが、これはコンセルトヘボウ大ホールではなく、ロンドン北部のウォルサムストウにあるアッセンブリー・ホールで収録されました。ベイヌムとヘボウが演奏旅行のためにこの月の9日から14日にかけて訪英していたため、その機会にまずはデッカの本拠地で小手調べ、といったところだったのでしょうか。次の9月のセッションからは本拠地コンセルトヘボウでの録音となり、SPからLPへの移行を経て、1953年までの7年間に彼らはかなりの数の録音を行います。
なおこの間にデッカでは、クライバー,セル,ミュンシュ,クリップスらも、コンセルトヘボウ管との録音を残しました。
“Original Masters: Eduard van Beinum”
a)バルトーク:管弦楽のための協奏曲 録音:1948年9月20日(mono)
b)ブラームス:交響曲第1番 録音:1951年9月(mono)
c)ベルリオーズ:幻想交響曲+「ローマの謝肉祭」序曲 録音:1951年9月(mono)
d)ベルリオーズ:「ファウストの劫罰」より 録音:1952年(mono)
e)ディーペンブロック:「マルシアス」より 録音:1953年5月(mono)
f)メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」より 録音:1952年5月(mono)
g)パイパー:交響曲第3番 録音:1953年5月(mono)
h)ロッシーニ:序曲集(ウィリアム・テル,どろぼうかささぎ,セミラーミデ,絹のはしご) 録音:1952年9月(mono)
i)シューベルト:「ロザムンデ」序曲 録音:1952年5月(mono)
j)シューベルト:交響曲第4番「悲劇的」 録音:1952年12月(mono)
ピアノ:クリフォード・カーゾン(g)
CD:Decca 473 110-2〔輸入盤(2003)〕いきなり編集モノのCDだが、限定盤ではあるものの現時点でもっとも入手しやすいアイテムということで、まずはこれから。CD廃盤や未CD化の音源をアーティスト単位で集成されるというボックスセット・シリーズのベイヌム篇で、5枚組とはいえ単価的には一枚当り1000円以下の価格設定となっていた。上記のほかにロンドン・フィルとの録音も収録されている。選曲基準はよくわからないものの、一応は代表的な録音を集めているということになるのだろう。
このうちバルトークはSP時代の録音で、何度もCD化されているもの。以前に「コンセルトヘボウの名録音」のオケコン聴き比べで採り上げたものと同じ音源。またブラームスはその「コンセルトヘボウの名録音」の第1回に伊東さんが選ばれているあの名録音だ。
幻想交響曲もブラームスに劣らずいい演奏で、過剰な演出に溺れずにテキパキと曲を進行させる中に、なんともいえぬ風格と説得力が込められていて、聴き応え十分。パレー指揮デトロイト響によるこの曲の録音(マーキュリー)の圧倒的素晴らしさを知る人なら、そこからラテン的狂気を減じて管弦楽の音色の魅力を強化したかのようなベイヌムのこの演奏を気に入るはずだ。
シューベルトの交響曲は、後のフィリップス録音ほどよくはなく、ちょっとした堅さが意外と大きなマイナス要因となっている。メンデルスゾーンは実にしなやかだがカッチリした骨もあるという好演。ロッシーニの序曲も同様で、コンセルトヘボウ管としてはめずらしいレパートリーであるということを別にしても、一聴の価値のある演奏だと思う。このような曲における、躍動感と風格との両立は、ベイヌムの大きな長所だ。
ディーペンブロックとパイパー(Pijper:発音はペイパーまたはペイペルかも)は、ライナーノートによると「戦前で最も重要なオランダの作曲家」とのことで、LPはこの組み合わせで出ていた模様。パイパーの方は交響曲とはいいながら14分弱の小品で、明るくチャーミングな曲。カラフルな曲想にぴったりのヘボウの音色と躍動的なリズムを楽しんでいるうちにすぐ終わってしまう。〔オランダのドビュッシー〕と言われるディーペンブロックの曲は一転ロマンティックな雰囲気で、芳醇だが濃厚過ぎない弦や木管が美しい。このカプリングのLPは、さぞ粋で気の利いた一枚だったに違いない。
以上のうち、国内盤CDが出ていたものは次の通り。(b)(c)は1988年の「エドゥアルト・ファン・ベイヌムの芸術」シリーズのラインナップにも入っていた。このシリーズは、コンセルトヘボウ創設百年記念として発売されたもので、ほぼ同内容のものが輸入盤でも出ていた。
(a) ユニバーサル POCL4588 〔国内盤「ロンドン偉大なる演奏家たち」シリーズ(1998)〕
(b) キング KICC2501 〔国内盤「グレイト・モノフォニック・クラシックス15」シリーズ(1996)〕
(c)(d) ユニバーサル POCL4713 〔国内盤「ロンドン偉大なる演奏家たち」シリーズ(1999)〕
(h) ユニバーサル POCL4714 〔国内盤「ロンドン偉大なる演奏家たち」シリーズ(1999)〕
(i)(j) キング K28Y1045 〔国内盤「エドゥアルト・ファン・ベイヌムの芸術」シリーズ(1988)〕“The Artistry of Eduard van Beinum Polydor and Decca 78RPM Recordings”
a)バルトーク:管弦楽のための協奏曲 録音:1948年9月20日(mono)
b)ベルリオーズ:幻想交響曲 録音:1946年9月(mono)
c)ブリテン:歌劇「ピーター・グライムス」〜4つの海の間奏曲とパッサカリア 録音:1947年9月(mono)
d)ブルックナー:交響曲第7番 録音:1947年9月(mono)
e)モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番 録音:1948年9月(mono)
f)レーガー:舞踏組曲 録音:1943年5月(mono/ポリドール録音)
g)レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ 録音:1943年5月(mono/ポリドール録音)
h)ストラヴィンスキー:バレエ「春の祭典」 録音:1946年9月11日(mono)
i)チャイコフスキー:弦楽セレナード〜ワルツ 録音:1947年9月(mono)
ピアノ:キャスリーン・ロング(e)
CD:Music & Arts CD-1054 〔輸入盤(1999)〕これも編集モノで、SP録音を復刻した4枚組。M&Aレーベルというのは少々怪しいところもあるが、これくらい古い音源ともなれば著作権は期限切れとなっているので、このセットは非正規盤というわけではなさそう。音源となったSP盤の提供者はちゃんとクレジットされている。
(a)と(b)は上記“Original Masters: Eduard van Beinum”にも収録されている曲だが、このうち(a)はそれと同じ音源であり、(h)とのカプリングで国内盤「ロンドン偉大なる演奏家たち」シリーズでも出ていたもの(ユニバーサル POCL4588/1998)。一方の(b)は別の音源で、英DuttonでもCD復刻されていた。(d)もフィリップスのブルックナー選集に収録されたものとは別の音源で、仏TahraでもCD復刻されていたもの。また(c)の音源は、Audiophileから出ているコンセルトヘボウのライヴ録音シリーズでシューベルトの「ザ・グレート」の余白にも収録されている(APL-101544)。
ここで注目はその(c)のブリテンで、1953年の再録音があるためこれは旧録音となるものだが、さすがに音響的には条件がよくないながらも、曲の魅力が十二分に伝わってくる。この説得力の理由を分析できないのが我ながらもどかしいが、名演とされるプレヴィン&ロンドン響盤(EMI)を何度聴いてもピンとこなかった曲だったのに、このベイヌムの演奏を一聴してたちまち大好きになったという経験は、ちょっと忘れられない。
幻想交響曲の旧録音は、演奏自体は悪くないものの、5年後の再録音と基本的には同じなので、特に後半などは音がよくない分だけ不利だ。ブルックナーも同様、と片付けようとしたが、なぜかこちらはこの旧録音もいい。むしろ新録音よりも純度や透明度がさらに高いという印象だ。オーケストラの厚みが感じられないことが、意外にもマイナスにならない。出谷啓氏が「ブルックナーのレコードを買うときは録音の古いものを避けなあかん」とメータ盤を推薦していたのを中学生の時に読んで以来、ヘンな固定観念に取り付かれていたわがブルックナー観が、これを聴いてすっかり改まった。
これらのSP旧録音シリーズに対して、ベイヌム自身はもちろんヘボウにとってもその後の録音のない曲が、チャイコフスキーの弦楽セレナードのワルツ。これはベイヌムとヘボウの個性を体感するためのショウピースのような録音で、メンゲルベルク時代の名残りかテンポは揺れ動くものの、濃厚に粘ることなくあっさりすっきりしている中に、なんともいえない暖かさを醸し出す。全曲を聴きたいという欲求不満が募ってしまう演奏だ。
レーガーの二曲もなかなかいい。ともに1913〜1914年に作られた曲とのことなので録音時は既に30年を経過していたわけだが、現在でも決してポピュラーとはいえないこれらの曲をわざわざSP録音したからには、ベイヌム側に相当の思い入れがあったのだろうか。それが伝わってくるような、説得力ある演奏だと思う。
モーツァルトのコンチェルトは、これらよりもちょっと出来が落ちるように思える。SP復刻の過程で低音が強調気味になっているせいか、細かなニュアンスが飛んでしまっているようで、つくづくモーツァルトはデリケートな音楽だと感じる。
ブラームス:その2(デッカ篇)
a)交響曲第1番 録音:1947年9月20日(mono)
b)交響曲第1番 録音:1951年9月(mono)
c)ハイドンの主題による変奏曲 録音:1941年11月(mono/テレフンケン)
d)ハイドンの主題による変奏曲 録音:1952年12月(mono)
e)大学祝典序曲 録音:1952年(mono)
f)悲劇的序曲 録音:1952年(mono)
g)ピアノ協奏曲第1番 録音:1953年5月(mono)
ピアノ:クリフォード・カーゾン(g)
CD:Dutton CDK1210 〔a/輸入盤〕
キング KICC2501 〔b・e・f/国内盤「グレイト・モノフォニック・クラシックス15」シリーズ(1996)〕
キング K28Y1040 〔d・g/国内盤「エドゥアルト・ファン・ベイヌムの芸術」シリーズ(1988)〕
ユニバーサル POCL4703 〔g/国内盤「ロンドン偉大なる演奏家たち」シリーズ(1999)/ホルダ指揮ロンドン新響とのファリャ「スペインの夜の庭」とのカプリング〕ここでもフィリップス篇と同様に、ベイヌムのブラームス録音をまとめた。ベイヌムは交響曲第1番をSP、モノラルLP、ステレオLPとフォーマットが進化するたびに録音している。昔の蘭フィリップスの宣伝雑誌に、プレス工場で自分の録音の金属原盤を見ているベイヌムの写真が掲載されていたそうで、カラヤンのようにテクノロジー面にも興味を持っていた人のようだ。あと20年存命だったら、きっとこの曲を映像収録したりデジタル録音したに違いない。そういえばベイヌムが亡くなったのは、このブラ1のリハーサル中だった。
ベイヌムが自己の初録音に選んだのもブラームスで、その曲「ハイドン変奏曲」も同様に三種類の録音が残されている。最初の1941年録音は未聴だが、1952年録音は飛びきりの演奏。引き締まった響きで若々しい躍動感を感じさせ、特に第5変奏から第6変奏にかけてはホルンの魅力とあいまって、何度も聴きたくなるほど。ベイヌムにとってデッカの末期に当たるだけに録音も見事で、50年前とは信じられない鮮度。
CDではこれとカプリングされていたカーゾンとのピアノ協奏曲第1番も、強力な演奏だ。モノラル録音なのに鮮やかに分離してくっきりと浮かび上がるティンパニの存在感。かなり力のこもった伴奏だが、キビキビした力強さなので重くなりすぎることはなく、まことに充実した演奏が展開される。素晴らしい。なおこの協奏曲は上記のように別の組み合わせでもCD化されているほか、「オリジナル・マスターズ」シリーズのカーゾン第二集にも収録。
フランク:交響詩「プシシェ」より
録音:1953年5月(mono)
CD:キング K28Y1042 〔国内盤「エドゥアルト・ファン・ベイヌムの芸術」シリーズ(1988)/マーラーの交響曲第4番とのカプリング〕このCDはよんどころない事情で紛失してしまったが、組み合わされていたマーラーのほうは後述するように強く印象に残っているのに対して、このフランクはどんな演奏だったか記憶にない。無念。
マーラー:交響曲第4番
ソプラノ:マーガレット・リッチー
録音:1951年9月(mono)
CD:ユニバーサル POCL4590 〔国内盤「ロンドン偉大なる演奏家たち」シリーズ(1998)〕これを聴いて、それまでの〔モノラル録音拒絶症〕が解消したという、個人的には大切な一枚。「マーラーがモノラル? とんでもないね」などと思いつつ聴いてみると、魅惑的な音色にたちまち引き込まれ、聴き終わる頃にはステレオでないことの不満などどうでもよくなっていた。ただしそれはコンセルトヘボウ100周年記念シリーズの輸入盤の方だったのだが、紛失してしまったために国内盤を再入手したところ、ちょっとばかり音の魅力が落ちていたのは残念。木管の艶やかさや弦の暖かさの再現に最大限の留意をしたかのようなリマスタリングがなされていた輸入盤の記憶と比較するにつけ、事務的機械的に作業をしたと思しき国内メーカーのリマスタリング担当者は音楽に対する愛情に欠けているのではないか、などと考えてしまう。
しかし演奏そのものの魅力まで減じられているわけではなく、テンポがもう少しゆっくりでもいいのでは…と思う箇所がないでもないものの、全体としては曲想によく合致した演奏になっていると思う。10年後にショルティが同じくデッカに残した録音と聴き比べるのもおもしろい。ショルティ盤にも独特のよさはあるが、この曲の魅力を素直に表現しているのはやはりベイヌムのほうだ。両者の異なるアプローチによく反応し、しかも独自の個性もちゃんと出しているコンセルトヘボウ管もすごい。
シベリウス:交響詩「エン・サガ(伝説)」
録音:1952年12月(mono)
CD:ユニバーサル POCL4590 〔国内盤「ロンドン偉大なる演奏家たち」シリーズ(1998)〕この録音については、伊東さんが以前にレビューされている。付け加えることは何もない。そこでも触れられている「タピオラ」と組み合わされたLPも所有しているが、これが粗悪な擬似ステレオで聴くに耐えない音質なので、「タピオラ」の感想は保留。
ブリテン:春の交響曲+青少年のための管弦楽入門+歌劇「ピーター・グライムス」〜4つの海の間奏曲 ソプラノ:ヨー・ヴィンセント/コントラルト:キャスリーン・フェリアー/テノール:ピーター・ピアーズ
合唱:ロッテルダムSt.Willibrorduskerk少年合唱団/オランダ放送合唱団
録音:1949年7月9日(春の交響曲,mono/ライヴ録音)/1953年9月(他,mono)
CD:Decca 440063-2〔輸入盤“historic”シリーズ(1994)〕ジャケット写真はフェリアーだが、内容はベイヌムとヘボウのブリテンを集めた一枚。CDのメイン曲はこれが初出となる「春の交響曲」で、初演の記録という歴史的価値のある音源。とはいえ個人的にはあまり思い入れのない曲のせいか、残念ながらさほど魅力的な演奏とは感じられない。録音状態も少々不安定なものとなっている。
しかしそれを補って余りあるのが「管弦楽入門」の強烈な素晴らしさだ。ベイヌムとしては意外なほどゆったりとしたテンポで開始されるこの演奏は、洗練されたスムーズな流れというものがやや停滞しがちで、たしかにブリテン自作自演盤やプレヴィン盤などのような「いかにも名演」的なものとは毛色が違う。だが、次々と披露される各楽器のソロの流麗なテクニックと豊穣馥郁たる音色が、もうひたすら魅力的なのだ。某評論家ならずとも「チャーミングの極みといえよう」などと書きたくなる。
細部拡大的で音場構成がやや不自然なデッカ得意の音響設計もこうなるとかえってメリットに転じ、半世紀も前のものとはとても思えぬクリアな録音によってバックの対旋律までがくっきりと浮かび上がったりして、もはや最高のコンディションにあるコンセルトヘボウ管弦楽団のデモンストレーション状態だ。ティンパニの音色など、1969年録音のハイティンク盤よりもはるかによいほど。
早いテンポでスイスイと進行させた場合、個々の楽器の魅力をこれほどじっくりと聴かせることはできなかっただろう。それを心得たベイヌムの演奏意図を、しっかりと理解したデッカ録音スタッフが絶妙のバランス設定で各楽器の名技を最大限に収録したのではないか…と、そんな気にさせられた。
「4つの海の間奏曲」は、SP旧録音以上によい演奏で、収録時間の関係で「パッサカリア」の部分がカットされているのが惜しまれる。ともかく、このCDを国内発売しなかった日本のレコード会社は、まことにもってけしからんと言わねばならない。
【CD化されているが未入手のため未聴の音源】
●ハイドン:交響曲第94番「驚愕」、第96番「奇跡」、第97番
録音:1951年9月(第94番/mono),1952年(第96番,第97番/mono)
CD:キング K28Y1043 〔国内盤「エドゥアルト・ファン・ベイヌムの芸術」シリーズ(1988)〕●シューベルト:交響曲第5番+「ロザムンデ」より
録音:1946年9月(交響曲/mono),1952年5月(ロザムンデ/mono)
CD:キング K28Y1045 〔国内盤「エドゥアルト・ファン・ベイヌムの芸術」シリーズ(1988)/交響曲第4番とのカプリング〕【未CD化のため未聴の音源】
・バッハ:管弦楽組曲第2番〜ポロネーズとバディネリ
録音:1949年9月(mono)
・ベートーヴェン:エグモント序曲
録音:1949年9月(mono)
・ベートーヴェン:レオノーレ序曲第2番
録音:1946年3月(mono/recorded at Walthamstow Assembly Hall, London)
・ベルリオーズ:幻想交響曲
録音:1943年9月(mono/ポリドール/未発売)
・ベルリオーズ:「ファウストの劫罰」より+「トロイ人」〜トロイ人の行進曲
録音:1946年3月(mono/recorded at Walthamstow Assembly Hall, London)
・ベルリオーズ:歌劇「ベンヴェヌート・チェリーニ」序曲
録音:1949年9月(mono)
・ビゼー/「アルルの女」より
録音:1943年9月(mono/ポリドール)
・クラーク:トランペット・ヴォランタリー
録音:1952年(mono)
・ドビュッシー:神聖な舞曲と世俗的な舞曲
録音:1952年(mono)
・ドヴォルザーク:スラブ舞曲第3番
録音:1949年9月(mono)
・ドヴォルザーク:スラブ舞曲第5番+第8番
録音:1943年9月(mono/ポリドール)
・フランク:交響的変奏曲
録音:1943年5月(mono/ポリドール)
・フランク:交響詩「プシシェ」より
録音:1946年9月(mono)
・グルック:「アルチェステ」序曲
録音:1949年9月(mono)
・ヘンデル:王宮の花火の音楽
録音:1952年(mono)
・ハイドン:交響曲第第96番
録音:1947年9月(mono)
・メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」より
録音:1946年9月(mono)
・モーツァルト:交響曲第33番
録音:1951年9月(mono)
・ラヴェル:スペイン狂詩曲
録音:1946年9月(mono)
・シベリウス:交響詩「タピオラ」
録音:1952年12月(mono)
・シベリウス:トゥオネラの白鳥
録音:1941年11月(mono/テレフンケン)
・シベリウス:交響詩「フィンランディア」
録音:1949年9月(mono)
・スメタナ:モルダウ
録音:1943年9月(mono/ポリドール)
・スメタナ:モルダウ
録音:1949年9月(mono)
・リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
録音:1949年9月(mono)
・チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
録音:1946年9月(mono)
・チャイコフスキー:「くるみ割人形」〜ワルツ
録音:1948年9月(mono)
・ワーヘナール:「じゃじゃ馬ならし」序曲
録音:1943年5月(mono/ポリドール)
・ワーグナー:歌劇「タンホイザー」〜序曲とバッカナール
録音:1946年9月(mono/未発売)
・ワーグナー:「ローエングリン」〜第3幕への前奏曲
録音:1949年9月(mono)【ベイヌム&ヘボウの録音の世評について】
ではここでベイヌム研究の一データとして、ここまでにとり上げた商業録音の世間での評価を見てみることにする。ワシゃ世評など気にせん!という方は読み飛ばしてください。
しかしそういう方も、たとえば『200CD“指揮者”聴き比べ! オーケストラ・ドライブの楽しみ』(野本由紀夫他編,立風書房,2002)という本でエドゥアルト・ファン・ベイヌム先生が採りあげられていないという事実は、知っておいてよいだろう。130人もの指揮者を紹介しながら先生を無視するとは、まことに怪しからぬことだ。
『クラシックCDの名盤 演奏家篇』(宇野功芳・中野雄・福島章恭,文藝春秋,2000)や『名演奏のクラシック』(宇野功芳,講談社,1990)といった宇野氏関係の本にも、ベイヌムは出てこない。ま、宇野氏の見識などは所詮その程度のものに過ぎないといえよう。しかしながら同氏の『わが魂のクラシック』(青弓社,2003)では、ベイヌムのブラ1(デッカ盤)が採りあげられていることも指摘しておかなくては不公平というものだろう。ただしこの本は宇野氏が過去に執筆したライナーノートを集めたものなので、当時レコード会社から依頼されお仕事として書いただけなのかもしれないが。
『名指揮者120人のコレを聴け! 指揮者別・クラシック名盤&裏名盤ガイド』(洋泉社,1998)では採りあげられているものの、多くの指揮者に見開き2頁が充てられているのに対して、ベイヌム先生は1頁だけというセカンド・クラスの扱い。これまた遺憾なことだ。ここで挙げられている音盤は、次の三枚。
・マーラー:大地の歌(フィリップス)
「短めの人工的フレージングで手際良く音楽が進行している」
・ブルックナー:交響曲第8番(同)
「モダニズムの醸し出す猟奇性」「見事に壊れた演奏」
・ブラームス:交響曲第1番(同)
「文字通り知情一体の、落ち着いたトーンが支配するオトナの演奏」この頁の担当は鈴木淳史氏なので、それを踏まえて読む必要がある。
より新しいものでは、『クラシックCD エッセンシャル・ガイド150 指揮者編−ニキシュからハーディングまで−』(学研,2003)では、書名の通り150人の指揮者が採りあげられており、先生も登場。担当の吉井亜彦氏に推薦盤として挙げられた音盤は、次の三枚だった。
・ブラームス:交響曲第4番(フィリップス)
・マーラー:交響曲第4番(デッカ)
・ベルリオーズ:幻想交響曲(同)続いて、これは書籍ではないが、コンセルトヘボウ管弦楽団の1977年来日公演のプログラムの中に「レコードに聴くコンセルトヘボウ・オーケストラ」という頁があり、担当は大木正純先生だ。ベイヌムに関して挙げておられる音盤を見ると…
・ブルックナー:交響曲第8番、第9番(フィリップス)
「ブルックナーを積極的に手がけたことはベイヌムの功績の一つ」「特に後者のさっぱりとした語り口はユニークで、オーケストラもすばらしくうまい」
・ブラームス:交響曲第1番、第4番(同)
「彼最大の遺産は最晩年に吹き込まれたブラームス」「ベイヌムの強固な造形力が完全に実を結んでいる」
・マーラー:大地の歌(同)
「曲に潜むマーラーの思想の重みが、無類の説得力によってきく者の心にくい入ってくる」
これは…内容の表現こそ違っているものの、『名指揮者120人のコレを聴け!』で鈴木淳史氏が選んだ三枚とぴったり重なっているではないか。それほどこのブラームス、ブルックナー、マーラーが普遍的な素晴らしさを有しているということなのだろうか。どうも鈴木氏が大木氏の原稿を参考にしたようにも思われるのだが。
来日公演プログラムでは、1968年のものにも同様の記事が掲載されている。小林利之氏による「レコードで聴くコンセルトヘボウ管弦楽団と指揮者たち」というもので、ベイヌムについては、まず初期の録音として
・ブラームス:交響曲第1番(デッカ)
・メンデルスゾーン:真夏の夜の夢(同)
・マーラー:交響曲第4番(同)を挙げて、「独裁者メンゲルベルクとは正反対のナイーヴな表現が、新しい時代のロマンティシズムを感じさせている」としている。次に晩年の録音として
・バッハ:管弦楽組曲全曲(フィリップス)
・ブラームス:交響曲全曲(同)
・ヘンデル:水上の音楽(同)を挙げ、「オーケストラの自発性をじゅうぶんに生かしつつ豊潤な情感をたっぷりともりこんだ演奏」と評している。
以上を概観すると、ベイヌムの代表盤はやはりブラームスを筆頭として、マーラーやブルックナーがそれに続くというのが、世評ということになりそうだ。別に異存があるわけではないが、「シェエラザード」はだれも聴いていないのでしょうかねぇ。
(An die MusikクラシックCD試聴記)