キングスウェイ・ホール

先日購入したクレンペラーのマーラー・ボックスをしばらく聴き続け、殆ど陶酔してしまった。

mahler_box_klemperer

御大クレンペラーが選んだのは交響曲第2番、第4番、第7番、第9番、「大地の歌」と5つの歌曲のみであるが、いずれも名演奏であることを再確認した。さらに、リマスタリング(24-bit/96 KHz)効果が大きかったらしく、以前私が所有していたCDより音が良かった。クレンペラーのCDはHS-2088やらartやら、様々なリマスタリングをされていたが、このボックスが最も廉価で最も高音質になっている。この音で聴けるならば、クレンペラーの他のボックスも揃えたくなるのだが、どうやらリマスタリングをしてボックス化されたのはこのマーラーだけらしい。EMIからWarnerに版権が映る直前だったので、EMIはリマスタリングをするのさえ面倒になったのだろう。ということは、このマーラーボックスは誰か奇特なスタッフの手で幸運にも特別扱いされたものなのかもしれない。

EMIの音は玉石混淆で、石の方が多いと私は思っているが、クレンペラーのマーラーは玉の部類に入る。例えば、交響曲第4番だが、冒頭を聴いただけでスピーカーの前から離れられなくなる。非常に濃密なオーケストラの音が聴けるのだ。

クレンペラーのマーラー録音は、「大地の歌」の一部がアビーロード・スタジオで収録された。それ以外はすべてキングスウェイ・ホールで収録されている。多分、ホールの大きさ、形状のお陰で音の響き方と抜けが良かったのだろう。クレンペラーのマーラーを聴いていると、ホールに恵まれたという気もしてくる。

・・・などと書いているが、私はキングスウェイ・ホールがどんな形状のホールか知らなかった。検索してみると画像がたくさん出てくた。例えば、以下の画像がそうだ。

kingsway_hall

このホールは地下にあり、さらにその下を地下鉄が通っているという。その点では録音技師泣かせではあったろう。それでもEMIもDECCAもここを使い続けたわけだから、いかに優れた音響が得られる場所だったか分かるというものだ。

しかし、このホールももはや存在しない。1983年に所有者が変わり、録音会場としての生命を終える。そして今は全面改装され、ホテルになっている。キングスウェイ・ホールは大レーベルが大演奏家とともに真剣に録音に取り組んだ古き良き時代を象徴するホールであり、それが失われたことは、録音芸術のひとつの終焉を表している。

(2015年9月6日)

キングスウェイ・ホール」への4件のフィードバック

  1. クレンペラーのマーラーは、当該ボックスセットが出る1~2年前に、フランスEMIからほぼ同様のボックスセットが出された際に、すでにリマスタリングされていました。
    リマスタリングを実行したのが、どこのEMIなのかは分かりませんが、マーラーだけ音が良いのは、そのせいかも知れませんね。

  2. 松本さん、情報ありがとうございました。やはりEMIに奇特な人がいたようですね。他のボックスもやってほしかったです。無い物ねだりですが。

  3. こんばんは。最近また頻繁に更新されるようになって楽しみに読ませて頂いています。さて、クレンペラーのBOXがマーラーのみリマスタリングされてる件についてですが、これはこのBOXのためにわざわざ新たにリマスターされたわけではありません。伊東さんもよくご存じのケンペのRシュトラウス集と同じくEMIジャパンが2011年から2012年にかけて大量のSACD制作の企画を立て本家EMIのエンジニアに作らせたものを流用してハイブリットのCD層と同様に通常CDにダウンコンバートしたものです。クレンペラーの他のBOXが新リマスターでないのは、他のBOXはSACDの企画以前に企画制作されていたので新リマスター流用に間に合わなかったというただ単純にタイミングだけの問題でマーラーだけが特別視されたわけではなくたまたまだと思います。将来ワーナーにはその新マスターでの再発売を望みたいですね。クレンペラーだけでなくバルビローリとかテンシュテットとかプレヴィンとかも。
    ちなみにクレンペラーに関してはマーラー以外にそのSACD制作時のマスターが本家EMIのSIGNATUREというハイブリッドSACDシリーズで流用されています。モーツァルトの後期交響曲集の3枚組とメンデルスゾーンの第3&第4交響曲とシューマンの第4交響曲の2枚組の2点です。
    これらは本家から出ているせいかSACDのわりに廉価で現在でも流通しているのでお勧めいたします。
    松本様が言及されたフランスEMI盤については自分も知りませんでした。

  4. ルコナンさん、情報ありがとうございました。それと、クレンペラーのSACDもありましたね。私もすべて所有していたのですが、それも手許にはもうありません。転居前にやむなく処分したのです。もう少し落ち着いて選別していた方が良かったのかもしれません。しかし、そんなことを始めれば、1枚だって処分できなくなり、転居できなかったかもしれません。無情であります。

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