私はセッション録音を好んで聴くし、90年代以降、安易に量産されたライブ録音盤には殆ど魅力を感じない。しかし、ライブ録音といっても指揮者とオーケストラの本気演奏は、どれほど古くても価値があると思う。
例えば、セルがシュターツカペレ・ドレスデンを指揮したCDだ。
CD1
ベートーヴェン
「コリオラン」序曲 作品82
ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
ピアノ:ニキタ・マガロフ
交響曲第5番 ハ短調 作品67
録音:1961年8月6日、ザルツブルク、祝祭劇場におけるライブ
CD2
ベートーヴェン
「エグモント」序曲 作品84
ブルックナー
交響曲第3番 ニ短調
録音:1965年8月2日、ザルツブルク、祝祭劇場におけるライブ
ジョージ・セル指揮シュターツカペレ・ドレスデン
ANDANTE(輸入盤 AN2180)
セルには名盤が少なくないが、クリーブランド管弦楽団とのベートーヴェン録音についてはかねてから疑問符を付けていた。セルはオーケストラのコントロールを徹底しているから、その仕上がりは文句の付けようのないほど均整が取れている。しかし、それを聴いて身体が熱くなるような経験を私はしたことがないのである。演奏を聴いていると、楽団員が上司に睨まれながら仕事をこなしているのではないかとさえ思われることもあった。
ところが、このザルツブルクのライブ録音はどうだろう。オーケストラが喜んで演奏をした堂々のベートーヴェンである。コントロールという言葉が浮かぶ以前にベートーヴェンの音楽が私を燃え立たせる。指揮台に立っているのは本当に同じセルなのだろうか。
セルはシュターツカペレ・ドレスデンとは縁遠かった。これはザルツブルク音楽祭が産み出した特別な組み合わせなのだ。そういえば、セルは1969年にもザルツブルクでウィーン・フィルと熱狂的演奏を行っている。セルにとってウィーン・フィルはシュターツカペレ・ドレスデンよりは近い関係にあっただろうが、やはり他流試合であっただろう。そういうとき、セルはマジャールの血を燃えたぎらせてしまうらしい。こういう録音はもう出てこないのだろうか。ベートーヴェンの他の交響曲録音はないのか。
ひとつ疑問が生じた。セルはクリーブランドでのコンサートではどんなベートーヴェン演奏をしていたのだろう? セッション録音と似通った雰囲気の演奏だったのだろうか。もしかしたら、セッションとは別人になっていた可能性も否定できない。・・・などと私は妄想に耽っているのだが、その検証を実際にしてみたくてたまらなくなった。こういうのを正月ボケという。
(2016年1月5日)