ルドルフ・ゼルキンのピアノを聴きたくなったので、バッハのブランデンブルク協奏曲を図書館から借りてきました。
バッハ
管弦楽組曲(全4曲)
ブランデンブルク協奏曲(全6曲)
パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管弦楽団
録音:1964年6月(ブランデンブルク協奏曲第5番)
SONY(国内盤 SICC 1212-4)
なぜゼルキンのピアノを聴くのに、よりによってブランデンブルク協奏曲なのかという疑問があるかもしれませんが、私の中では全く問題がないのです。ゼルキンの弾くブランデンブルク協奏曲第5番のピアノが天下一品であるためです。
ブランデンブルク協奏曲第5番は事実上のチェンバロ協奏曲です。私はチェンバロが参加する演奏をたくさん聴いてきました。そしてある日、ゼルキンが弾くこの曲に出会って完全にノックアウトされたのです。ブランデンブルク協奏曲第5番はチェンバロでなく、ピアノで聴く方が断然かっこいい。それをゼルキンで聴くともっとかっこいいのです。冒頭からゼルキンのピアノは存在を明確にアピールしていますが、やはり第1楽章の長大なソロが圧巻です。完全にゼルキンの独壇場で、ゼルキンはチェンバロでは味わうことのできない壮麗かつ輝かしいピアノの音でバッハの目くるめく宇宙を展開しています。私は最初に聴いた時、あまりの至福に「音楽って本当に素晴らしい」と単純に感動したものです。その感想は今も変わりません。ゼルキンはこの録音当時61歳です。彼はマールボロ音楽祭を創設し、主宰したまさにその人です。自分のホームグラウンドともいうべき場で演奏するゼルキンの音楽は確信に満ちています。本来この録音ではカザルスを聴くべきなのでしょうが、私にとってはこの曲だけはゼルキンの演奏なのです。
ところで、私はブランデンブルク協奏曲のCDを手にするといつも第5番から聴き始めています。例外はありません。もちろん、第1楽章のソロをすぐに聴きたいからです。そのソロが始まるまで、私はひたすら待ち続けます。今か今かと待ち続けるのです。だからどのCDでも頭出しができないことにずっと不満でした。この曲最大の聴きどころなのですから。インデックスをつけるのは簡単だろうと思って期待していたのですが、結局そのようなCDは1枚も現れませんでした。私のような聴き方をする音楽ファンは他にいなかったのでしょうか? おっと、そういえば、古典派以降の大作曲家による協奏曲だってソロやカデンツァは頭出しされていませんね。ブランデンブルク協奏曲の、しかも第5番だけが特別扱いされるわけがないですよね。残念!
(2015年7月30日)