『長岡鉄男のわけのわかるオーディオ』(音楽之友社)を手にしてみた。
この本で改めて思い知らされたのは、私がかなり小さな音量でCDを聴いているという事実だった。スピーカーの能率やアンプの出力も絡んでくることなので、明確な基準はないとしても、大音量派はアンプのボリュームを11時以降にして聴いているらしい。11時! 一体どのような環境でなら11時以降のボリューム位置が実現できるのか。山の中の1軒屋だろうか? 完全防音を施したオーディオルームの中だろうか。かつて私は1軒屋に住み、少しばかりの防音を施した部屋を持っていたのにもかかわらず、それほどの大音量で音楽を聴いたことはない。一緒に暮らしている家族を無視するわけにはいかなかったし、真夜中には近所の迷惑も考えたからだ。
では、中音量はどのくらいなのかというと、アンプのボリューム位置が9時から11時までのあたりを指すらしい。ということは、転居前の私はかろうじて中音量派だったようだ。ボリューム位置は9時をちょっと過ぎるくらいで、10時を越えなかった。しかし、今の住居では9時も厳しい。階下で静かに暮らすお年寄りを想像すると無体なことはできない。
何故、今になって音量にこだわるのか。それはここ数年間聴けなかったマーラーとブルックナーを聴けるようになったことが大きい。気がついてみると、転居してからマーラーもブルックナーも違和感なく聴いている。マーラーは3番以外をすべて聴いた。ブルックナーは3番、4番、7番から9番までを聴いた。何年間も身体が受け付けなかった曲を聴けるようになったのは嬉しい。(マーラーやブルックナーを聴けなくなっていたのは、自分の体力の問題だとばかり思っていたのだが、そうではなかったのだ。)
マーラーやブルックナーを聴けるようになったのは良いのだが、これを音量を絞ったまま聴くのは少しストレスがたまる。例えば、マーラーの交響曲第6番はもう少し音を出して聴きたいところだ。しかし、そうすると端からはこれほどうるさく感じられる曲もないのだ。無遠慮にCDを聴こうとすれば、階下のお年寄りをノイローゼにしてしまいそうな気がする。
そして一番の問題は、本当の小音量だと、ディスクの音を十分に引き出していると感じられないことだ。理論的にはどうなのか分からないが、小音量だとアンプに働いてもらっている気がしないし、スピーカーの鳴り方が全く違うのだから、演奏家達が目指した音楽を聴けていないのではなどと愚にもつかぬことを考えてしまう。
もしかしたらオーディオ界のどこかには、そんなマンション暮らしのクラシック音楽ファンに役に立つノウハウがあるのかもしれないが、巨大な方舟のオーナーであった長岡鉄男は小音量とは無縁であったろう。だから、彼は『長岡鉄男のわけのわかるオーディオ』の「あとがき」に、とてつもなく重要で、現実的で、残酷なことを書いたのだ。曰く、「本当のオーディオは防音完備の広い部屋が必要である。つまり土地が必要なのだ。土地のない人にはオーディオはできない」。全く恐ろしいことを最後の最後に平気で書いてくれるものだ。
(2015年9月3日)
伊東さん
私も夜中は8時半、昼間でも9時半程度ですね。
10時を超えることは、ほとんどありませんが、まれにピアノ、室内楽等で10時になることはありますね。
環境は、マンションの基礎防音のみです。マンション管理規約では深夜でもピアノを弾く制限がありません(弾きませんけど・・・)。管理規約が珍しいほど緩やかですが、個人の慣れもあって、上記の音量で聴いています。
真下の部屋に対して、実際にどのくらい響くのか、一度お邪魔させてもらえば見当が付きそうなのですが、さすがにそれはできません。
それともうひとつ。私の2つ下の部屋の住人はピアノを弾きます。防音は全くしていないらしく、これが私の部屋までかなりダイレクトに響きます。引っ越してきて驚いたのはこれでした。私の真下の部屋から聞こえてくるものだと思っていたら、その下からだったのです。ということは垂直方向に音が筒抜けになっているような気がします。こうなるとどうにもならないですね。身の丈に合ったような鑑賞をするしかないのだとつくづく思います。
伊東さん
マンションの構造上、不思議なことに直下ではなく、2階下とか斜め下とかに響くことが多いのですよね。
私は、ピアノに関しては、サイレント機能をそもそもはじめからつけております。グランドピアノに付けると、その費用だけでアップライトピアノが追加で買えるかも知れないほどかかってしまう(その代り、同時録音が可能)のですが、これで安心できることと、防音室を施工するよりは安価なのですね。
このような対策は、音楽を演奏するか聴くかは別として、しなければ都会では困難だということでしょう。
長岡さんは、モロッコあたりで月の砂漠でも聴けと言うのでしょうかね? やや非現実的な記述だと思いました。
以前はPCオーディオ関係の掲示板に投稿をしていたのですが、ここのところPCオーディオはお休みしています。
というのも2ヶ月程前から耳鳴りがするようになって、いつもセミが鳴くような音が耳の中でしています。
そんな状態では「音がどうの」なんて言っていられませんからね。
という訳で、「オーディオよりも音楽を」ということで、こちらのブログを利用させてもらっています。伊東さんのコメントを読んで、普段聴かないCDを引っ張り出して聴くようになりました。感謝しています。
今にして思えば、今まではボリュームの位置が11時以上でした。今は9時から10時の間といったところでしょうか。
ソフトの聞き比べで、耳を酷使したのかなという気もします。年齢的なこともあるかもしれません。
オーディオマニアの五味康祐さんも、あれだけオーディオにこだわりながら、読者には「オーディオにかける時間があれば、1枚でも多くレコードを聴きなさい」と説いていましたね。そんな心境です。
伊東さんも、お体ご自愛下さい。
イヤホンやヘッドフォンで大音量で聴いているとたちまち耳を悪くするそうですね。スピーカーでも同じようなことが起きるのでしょうか。yseki118さんの耳が一時的な症状であることを願います。
みなさん、ご無理をなさいませんようご自愛ください。
特に音楽にとっての命でもある耳は、現代社会では酷使しがちです。本当にご自愛ください。
私の環境(2部屋しかない一階、(笑))は、約23畳のLDKに中型フロアタイプのSP、天井高3.3m約18畳の音楽室(家人がピアノを弾くので完全ではないが防音処理はしている)にブックシェルフのSP、CDPとアンプはいずれも国産のいわゆる中級機で同じものを使っています。一人でオーケストラを聴くときでも、アンプのボリュームが9時を越えることはまずありません。SPはいずれも約40年前の英国製のものなのでSPにより多少違うかもしれませんが、自分ではこれでもそれなりの大音量だと思っているので、10時などと聞いただけで恐ろしくなってしまいます(笑、本当に)。
TGさん、同感です。私は10時の音量で聴くチャンスがあった場合でも、周囲の反応が恐ろしくてたまらなくなります。それ以前に、その音量に慣れていないので、条件反射的にボリュームを下げてしまいます。だから、11時というのは私には夢ではなく、それこそ狂気の世界だと感じられるのですが、逆に、11時以上の音量で聴いている人にとっては、私の環境はオーディオ以前ということになりますね。私は本格オーディオには縁がないのだと最近つくづく思い知らされています。